「LILIUM―リリウム 少女純潔歌劇―」感謝祭
e-lineUPで受注生産されたDVDが届きました。


お目当ては、末満氏書き下ろしの演劇パート「二輪咲き」です。
32分という短時間にも関わらず、よくまとめられていて、見終わると「LILIUM」本編のDVDを見返したくなるように作られていました。

「LILIUM」につながるエピソードを描きつつ、登場人物一人一人に見せ場を作って、お得意の叙述トリックも組み込んでいる。
……やりよるな(©ガキさん)

「LILIUM ―リリウム 少女純潔歌劇―」とは?

「LILIUM」は、末満健一さんが手がける「TRUMP」シリーズの作品。2014年に上演されました。
主演はモーニング娘。`14とスマイレージの皆さん(当時)
ハロプロのファンだけでなく、舞台演劇やTRUMPシリーズが好きな方にも好評で、公演は連日完売。DVDもロングセールスとなり、その後の演劇女子部の路線を決定づけた作品と言えるでしょう。


当ブログは、「LILIUM―リリウム 少女純潔歌劇―」を見ていることを前提に、二輪咲きのネタバレや感想、LILIUMに関する個人の見解を書いていきたいと思います。くれぐれもご注意ください。

「二輪咲き」は「LILIUM」で主人公のリリー(鞘師里保さん)が捜していたシルベチカ(小田さくらさん)が失踪する前のお話。
新たな登場人物として、リコリスという少女が登場します。
演じるのは、モーニング娘。の10期メンバー、飯窪春菜さん。
飯窪さんの演技は舞台「ごがくゆう」の千秋楽で見ましたが、リコリスも丁寧に演じていて、LILIUMの世界観に違和感なく入られていました。

飯窪さんが演じるリコリスは、中西香菜さんのキャメリアとともに、舞台「二輪咲き」のラストを飾ります。キャメリアとシルベチカのカップリングに萌えるファンに浮気を疑わせておいて、最後の一言で全てをひっくり返す展開は印象深く、トリックが分かっていても次々ゾクゾクしました。
キャメリア「あ、ここにいた」
リコリス「キャメリア…」
キャメリア「捜してたんだ。誰かと話してた?」
リコリス「ううん。誰も」
キャメリア「あれ? おかしいな? 誰かと話してたような気がしたんだけど……」
(キャメリアに抱きつくリコリス)
キャメリア「どうしたんだよ」
リコリス「私を、抱きしめていて。ずっと、抱きしめていて」
(リコリスを優しく抱きしめるキャメリア)
キャメリア「何かあった?」
リコリス「あなたがこうして抱きしめてくれるだけで、安心する。
      あなたが側にいれば、何も怖くなくなる」

キャメリア「僕は君の側から離れたりしないよ」
リコリス「キャメリア……」
キャメリア「ずっと一緒にいよう。これからずっと。
       一緒に年をとって、おじいちゃんとおばあちゃんになっても手をつないで歩こう。
       いつの日か、死が2人を分かつまで」

リコリス「でもねキャメリア。
      もし2人が一緒にいられないようなことがあっても、1つだけ約束してほしいことがあるの」

キャメリア「何だい? シルベチカ
リコリス&シルベチカ「「私を、忘れないで」」


リコリスの正体については、ここで語るまでもなく、飯窪さんのブログで明らかになっています(当然ですが、末満氏の許可を得ておられます)
リコリスとシルベチカは、ふたりでひとりなんです。
シルベチカにとってリコリスはお友達だけど、それはイマジナリーフレンドなんです。
シルベチカは多重人格者で、リコリスはシルベチカの中の人。
だからシルベチカ以外からはリコリスの姿が見えない。


つまり、私たちが「LILIUM -リリウム 少女純血歌劇-」で見てきたシルベチカは、シルベチカとは限らない。シルベチカの時もあれば、リコリスの時もあるということになります。

具体例として「二輪咲き」のシルベチカを取り上げるならば、
・チェリーやリリーと「一緒に昼食をとる」約束をしたシルベチカ。
・お薬の時間(野中さんが演じるピーアニーと会った時)のシルベチカ。
・新入りのマリーゴールド(田村芽実さん)が紹介された後、女子寮に忍び込んできたキャメリアと抱擁するシルベチカ。
これらは見た目は小田さんでも、中身は飯窪さんになります。

「二輪咲き」のシルベチカは常に眠そうにしていて、予知夢らしきもの(嵐の夜に、自分が高い所から身を投げて死ぬ。誰かが自分の名前を呼んでいる)を見ています。
眠くなるのが、シルベチカからリコリスに代わるタイミングです。

「リコリスがなぜ生まれたのか?」という疑問については、正解はない(作者が後付けでいくらでも変えられる=そのかわり、整合性をつける責任が生まれる)というのが、私の見解です。
しかし、ヒントになりそうなエピソードは用意されていました。
それは、シルベチカチェリー(石田亜佑美さん)の会話に、リコリスが割って入るシーンです。
シルベチカ「チェリー、話って何?」
チェリー「あのさ、アンタに聞きたいことがあって……」
シルベチカ「何?」
チェリー「キャメリアのこと」
シルベチカ「キャメリア?」
チェリー「その前に、これだけはハッキリ言わせてもらうわ」
シルベチカ「はい」
チェリー「シルベチカ。私とあんたは、このクランに来る前からの幼なじみ。
      あんたは私にとって大切な親友よ。
      だから、ちょっとやそっとのことじゃ揺らぐことのない固い友情で結ばれてるの」

シルベチカ「うん」
チェリー「それを前提に、あんたに聞きたいの。
      あんたってさ…… キャメリアと、付き合ってんの?」

シルベチカ「キャメリア?」
チェリー「別に隠すことないって!
      クラン中のみんなが噂してるし。あんたとキャメリアが付き合ってるって。
      だから私! あんたのその恋、応援しようと思って。
      そしたら、私も……割り切れるかなって」

シルベチカ「ちょっと待って! 何の話よ」
チェリー「へ?」
シルベチカ「私とキャメリアが付き合ってるって、そんなのあるわけないじゃない。
       キャメリアのことなんて何とも思ってないわ」

チェリー「え? でも」
シルベチカ「そーれーに、キャメリアのことが好きなのはチェリー、あなたでしょ?
チェリー「はあ? な、なに言ってんのよ!」
シルベチカ「チェリーのことだったら何でも分かるよ。
       チェリーも素直になればいいのに、いっつもキャメリアとケンカばっかりして」

チェリー「それは、その……」
シルベチカ「チェリー。私とキャメリアは付き合ったりしてない。
       私がキャメリアのこと好きになるわけない。
       私にとってはチェリー、キャメリアより、あなたのほうが大切だから

チェリー「え?」
シルベチカ「だから、私こそ、あなたの恋を応援するわ」
チェリー「ええーっ?(困惑)」

リコリス「シルベチカ!」
シルベチカ「リコリス?」
リコリス「ちょっと一緒に調べてもらいたいことがあるの。付き合ってもらえる?」
シルベチカ「うん。じゃあチェリー、またね」
チェリー「どうなってんのよ……」

シルベチカ「ねえリコリス、何よ調べたいことって」
リコリス「調べたいこと?」
シルベチカ「あなたが言ったんじゃない」
リコリス「あー、あれはねぇ…… 嘘」
シルベチカ「嘘?」
リコリス「あなたを連れ出すための嘘」
シルベチカ「嘘って、どうして?」
リコリス「だって、チェリーと話して欲しくなかったの」
シルベチカ「どういうこと?」
リコリス「だって、チェリーはキャメリアのことが好きなんでしょ?
シルベチカ「そうよ。だから私は2人のことを応援したいんだ
リコリス「それが困るの」
シルベチカ「へっ?」
リコリス「あなたには、言ってもわからないわ
シルベチカ「リコリス…」
リコリス「キャメリアは、私のものよ
シルベチカ「リコリス……」


「キャメリアのことが好きなのはチェリー、あなたでしょ?」「チェリーのことだったら何でも分かるよ」と語っていたシルベチカに対し、リコリスは「チェリーはキャメリアのことが好きなんでしょ?」と、質問しています。
また、シルベチカの「私がキャメリアのこと好きになるわけない」は、自分自身に言い聞かせるような、強い打消しの言葉なのに、小田さんは穏やかに、感情の起伏をみせずに演じられました。
クランに入る前からの幼馴染、親友チェリーの恋を応援する気持ちと、私もキャメリアが好きという気持ち。
相反する2つの気持ちは、どちらもシルベチカの本心であるがゆえに苦しい。吸血種の繭期と呼ばれる症状(薬の副作用?)も加わって、シルベチカの中にリコリスという別人格が生まれてしまったわけです。

その決着は「LILIUM」を見るまでもなく、明らかになっています。
「二輪咲き」のシルベチカは、すぐに眠くなる。
リコリスは眠くなりません。

「二輪咲き」が上演された後、LILIUM感謝祭はメンバーのトークショーを挟んで、劇中歌のLIVEに移ります。
舞台を見ていたファン――特に、キャメリアとシルベチカの関係が好きだった方は、複雑な思いで【Forget-me-not ~私を忘れないで~】や【あなたを愛した記憶】を聴かれたのではないでしょうか?

LILIUMに登場するシルベチカは(キャメリアが好きな)リコリスだった。という筋書きが、成り立ってしまうからです。

しかも、この説を後押しする重要な場面が「LILIUM」に存在する。
それは、シルベチカが塔の上から身を投げる回想シーン。
「シルベチカの真相」です。
ファルス「さあシルベチカ、薬をのむんだ。
      この薬をのまなければ、君は醜く老いさらばえてしまう。
      僕の血で作られたこの薬をのめば、君は永遠の命を得たも同じだ」
シルベチカ「永遠の命なんていらないわ」
ファルス「いざとなれば、イニシアチブで無理矢理のませることもできるんだぞ!」
シルベチカ「そんなことをしても、あなたの孤独は埋まらないわ」


このやり取りの末、シルベチカはキャメリアに「私を忘れないで」と言い残し、自ら命を絶つわけですが、あのファルスが、この状況で最後までイニシアチブを使わないなんてことがあり得るでしょうか?

「二輪咲き」でも、ファルスは吸血種の少女ピーアニーを(例の実験で)殺してしまい、いつものようにイニシアチブを使って記憶を改変します。
シルベチカはピーアニーの存在を忘れますが、リコリスは覚えていました。
クランにやってきた吸血種は、その日のうちにイニシアチブをとられる(二輪咲きに、新入りのマリーゴールドがファルスに噛まれるシーンがある)ので、シルベチカもまた、ファルスにイニシアチブをとられています。
クランで過ごすうちに(キャメリアと出会ってから)生まれた別人格のリコリスに、ファルスのイニシアチブは効かない。効かないからこそ、シルベチカは薬を拒否し、塔から身を投げることができたのではないかと思いました。
イニシアチブとは、魂に刻まれるものなのかもしれません。
(体に刻まれるならリコリスも操れるので)

「LILIUM」を見ていた時に感じた疑問――シルベチカが、クラン創設時のメンバーであるリリーよりも先に、ファルスのイニシアチブの呪縛から解放された理由が分かったような気がした「二輪咲き」でした

追伸
「LILIUM」に登場するシルベチカがリコリスだからと言って、シルベチカが消えてしまったと落ち込むのは、早計というものです。
「二輪咲き」と言うからには、シルベチカもリコリスも(共に散るまでは)枯れずに咲いていなければならない。シルベチカが消えてしまったら、作品のタイトルが「一輪挿し」になってしまいます。
シルベチカとリコリスは、ふたりでひとり。
友情と愛情、どちらも本心ですから、消える必要はありません。

「LILIUM―リリウム 少女純潔歌劇―」におけるシルベチカとリコリスの存在(行動)については、次回のブログで書かせていただく予定です。