今年の1月、アメリカの医師会雑誌『JAMAで』に発表された研究結果は、まさに注目に値するものだった。

「抗うつ剤、軽中度の症状に効果みられず」

 718人を対象に、抗うつ剤に関する臨床試験を分析した結果、プラシーボ効果を差し引いた真の薬効は軽度や中度、重度のうつ病に対して、まったくないかごくわずか。統計的に有意な差があったのは、症状が最重度の場合だけだった、というのである。

 つまり、大半のうつ病患者はじつは薬を服用する必要がない、ということだ。

 ここでいう抗うつ剤はグラクソ・スミス・クラインの「パキシル」である。

 このニュースを受けて、2010年3月10日号の『ニューズウィーク日本版』では、『「抗鬱剤神話」の憂鬱なジレンマ』と題して、「抗鬱剤(魔法の薬)の真実」に迫る特集が組まれている。

 特集を一言でいえば、抗鬱剤の効果は偽薬とほとんど変わらない、という『JAMA』の結論を受けている格好だ。しかも、記事によれば、現在ではそうした結論に達する研究者が増えているらしい。

 記事はいう。

「極めて重度のケースを除き、抗鬱剤の効果の大半は患者の期待から生まれたもので、脳への直接的な化学的作用によるものではな」く、現在ではすでに「「鬱病はセロトニン不足のせい」説の根拠はティッシュペーパー並みに薄弱だ」として、こんな例を挙げている。

「人為的にセロトニンのレベルを下げても、気分が変化することはない。一部の国で販売されている新たな抗鬱剤チアネプチンはセロトニンの効果を弱めるにもかかわらず、SSRIと同程度の有効性が確認されている。

「セロトニンを増やす薬剤も減らす薬剤も症状に同じ変化をもたらすのなら、薬の化学的作用のおかげで症状が改善しているとは考えにくい」」

 うつ病は脳内の神経伝達物質のひとつ、セロトニンの不足によって引き起こされると考えられている。したがって、セロトニンを増やせばうつ病は治るという前提があって初めて抗うつ剤(SSRI)の存在意義はでてくるのだ。

 だから、前提がゆらげば、理論自体が成立しなくなる。

 このようにうつ病の薬物治療は、すべては仮定の話(脳内モノアミン仮説)から成り立っている。「~と考えられるので、~が効くはずだ」というなんとも曖昧、非科学的な推論のもとでの治療なのである。


 うつ病は、セロトニンなどとは関係なく、「抗うつ剤を飲んだから、きっとうつ病は良くなるはずだ」という思い込みによって改善する病である、というのがこの記事の肝なのだが、しかし、こうした真実を知ってしまえば、プラシーボ効果は消えうせる。だから、「真実は隠すほうが親切か」それとも「真実を知ることのほうが重要ではないか?」それが表題にもある「憂鬱なジレンマ」というわけだ。

こんなふうに海外では抗うつ剤をすでに見限りはじめているのかもしれない。

 しかし、日本の多くの精神科医は「抗うつ薬は6割くらいの人に有効である」といまだに主張する。うつ病は薬物治療が第一選択肢であると。

それにしても、「6割」という数字はどこから出てきたのだろう? 精神科に通院した人で「6割」の人に薬の効果があったと精神科医が実感しているからか。

 ニューズウィークの記事にもあるように、「薬を処方して効果があれば、医師は当然、薬が効いたと考える」だろうが、それはプラシーボ効果による改善の可能性がある。

 また、「6割」という数字には、途中で通院をやめてしまった人の数はおそらく含まれていないはずだ。なぜ通院をやめてしまったのか。薬の副作用に耐えきれなかったのかもしれない。医師への不信感かもしれない。ともかくそうした人が含まれていない、分母の小さい「6割」という数字なのだ。

そんな曖昧な数字を持ち出してまでして、抗うつ剤には効果があると主張する精神科医。そんなことをして、いったい誰が得をするのだろう。

 偽薬で症状が改善するような病気に、なぜ、医薬品添付文書に赤字で「警告」がされているような危険な薬を処方し続けるのだろう。

 抗うつ剤を処方した医師の目の前に、この記事をつきつけたら、医師はどんな反応を示すだろうか。

 ぜひ、きちんとした説明をしてもらいたい。

 説明できないような薬を、人間に対して、処方していいはずがないのである。