グラブルの配信会社、サイゲームスの親会社である、サイバーエージェントのゲーム担当取締役副社長、日高裕介氏は、著名ブロガーの山本一郎氏との対談の中で、高額課金を抑制するようなガイドラインを4月中にも自主的に公表する計画を明かした(前編記事「『グラブル』高額課金をサイバー副社長に問う」を参照)
後編では、ゲームにおける「射幸性」について、何が問題なのか、日高氏と山本氏が、さらに踏み込んだ議論を展開する。
(射幸とは、偶然に得られる成功や利益を当てにすること。射幸性は、その度合い)
山本:ユーザーさんに楽しんでいただくために全体の収益性を確保しなければならない。そのためには高額課金者が必要で、そういう人たちに納得してもらえるようなゲームシステムを作らないといけない。ソーシャルゲームって、そういう事業構造じゃないですか。
その中でユーザーさんは、より強い武器やアイテム、キャラクターが欲しいと願い、1回、300円のガチャを回す。このくらい引いたら出るだろうと期待して、頑張って引く。出ませんでした。じゃあ、出るまで頑張ろうとなる。少ない金額でそのアイテムが当たるかもしれないという期待を抱かせる。これが、射幸性なんです。
「確率表示なくして射幸性は制限できない」
山本:300円という小口で取れる可能性があると思うからお金を突っ込む人が出るんですけれど、今これが問題になっていて、まず大前提として、その確率は明示されるべきだと思うんです。まずは出現確率の表示をしなければ射幸性は制限できない。それって最低限の話で、「その確率だったらそもそもやらない」という人がいるかもしれないですし、「それでもやるんだ」という人もいるかもしれないですし。
日高:年末年始にグラブルの高額課金が問題となった時に、山本さんからそういうふうなご指摘もいただき、確かによくないなと思い、既にグラブルでは個別アイテムごとの確率表示を始めました。その他のタイトルについても、順次、対応していく予定です。
山本:でも、「0.02%」じゃないですか(注:グラブルは3月10日から個別アイテムの出現確率の表示を開始。「SSレア」という部類の希少アイテムの多くが「0.022%」だった)。
山本:射幸性というものに対してソーシャルゲーム業界が「このくらいなら許されるであろう」と思いながら、どんどん突き進んでいった結果、ものすごいことになっているんですよ。
例えば、不動産会社を経営なさっていて、キャバクラでお金を使うのと同じ感覚でたくさんのお金をゲームに投じるような方もたくさんいらっしゃる。それはそれで、そういう人たち向けの仕組みも用意しなければならない。運営会社としてサービスを維持する上でも、そっち優先の事業構造になってきますよね。
山本:一方で、出現確率がほぼゼロに近いものを、「確率アップ」「2倍の確率で出ます」と広告を打って、それにより、中高生の子供たちが月に何千円かのお小遣いを突っ込んでいくということが望ましいことなのかどうか。本当はどこかで議論しなければいけないことだったんじゃないかと思うんですけれど、どうですか?
パチンコでは「確率アップ」はNG
日高:まず、「2倍」というのはゲームの中でイベントの告知という形でお伝えしていましたが、テレビCM等の広告では、ガチャや確率アップについて、まったく言及しておりません。それから未成年に関しては、もちろん法律を順守していくのは当たり前の話で、何かあったらすべて返金も含めて対応していかなければいけないと考えています。
その上で、欲しいものにいくらお金を掛けるのか、という観点で、やはり議論は高めなければいけないと感じています。「確率を全部表示しました」で終わるつもりはなく、高額課金の問題などが起こらないような仕組み作りを、具体的にやっていく必要があると思っています。
我々としては、「低い確率のものに際限なく挑戦してもらいたい」と思っているわけではもちろんありません。キャラクターの数が増え続けた結果、例えば300種類あれば確率も300等分されちゃうということで、個別アイテムの確率が低くなってしまう側面があった。
なので、今回、グラブルでは1つのアイテムを入手するまでの課金上限(300回、9万円分)を設ける取り組みを始めましたが、透明性を上げながら、そういった細かい対策の積み重ねも必要だと思っています。
山本:射幸性という観点で言うと、イベントごとに「確率を変えます」という運用が射幸性をあおっている、という見方もあります。例えばパチンコでは確率を変えるというのはNGです。パチンコ業界では「地域優良店」とかは言ってもいいけれど、「確率アップ」とは言っちゃいけないんですよ。絶対に言えない。
山本:そもそもパチンコは、射幸性を制限するため、確率は厳格に風営法で規制されていて、所定の手続きを通った機械をそのまま使用しなければいけない義務になっている。イベントをやる時も、「出玉」で呼んではいけないんです。射幸性をあおるので。
そこまでやっている業界がある一方で、ソーシャルゲーム業界では、週末どうしてもこのくらい稼ぎたいということで、来週から確率がアップするイベントをやるでござる、とやっている。パチンコ業界とはあまりにも隔絶した常識が進んでいるように見えますが、例えば、射幸性をあおる表記をめぐるルールって策定されるご予定ですか?
日高:まず、パチンコの射幸性とゲームの射幸性はまったく違うものだと認識をしておりまして。現金を期待して現金を投じる、というのと、ユーザーがその世界観に入って自分の好きなキャラクターが欲しくてガチャを回すというのは、違うと思っているんですね。
日高:その上でソーシャルゲームにおいての射幸心の定義とか、関連する表現について、うちの会社でも議論をしたいと思いますし、業界全体でもやるべきだなというふうには思っています。
ただ、射幸性というよりは、要は自分の可処分所得のレベルで課金し過ぎちゃった、というようなことが問題になっている。単純な金額の多寡ではなく、自分の生活水準の範囲を超えて課金している、というところに問題があると思っていまして。
なので、例えば「今月これくらい使っているんですけどまだ使いますか」というようなアラートを段階的に出していくとか、そういった使いすぎを防ぐような、ストッパーのような取り組みもやっていく必要があると考えています。
射幸性を下げるための「定額販売」
山本:同時に、ユーザーさんにリテラシーがないのだとすれば、それをきちんとカバーできるような仕組みも必要だと思います。例えば、1%の確率のガチャは、100回引けば1枚出る、というわけではありません。100回引いても4割弱(約37%)の人が1回も出ない、というのは当たり前の話であって、これはリテラシーの問題です。
それから、300種類とか、もっとあると思うんですけれど、これだけアイテムやキャラクターが増えてくると、それらをユーザーさんに行き渡らせる仕組みとして、そもそもガチャ自体に限界がきているとも思うんです。別のタイトルですけど、「0.000」の世界まで踏み込んで確率表示しているわけじゃないですか。もう、ほとんど出ないんですよ。
山本:これは1つの袋に300種類なり、すべてのアイテムを入れて、そこから1つを引かせるという仕組みの問題です。であれば、特定の属性ごとにガチャを分ければ、例えば300種類の属性が6つだった場合は50種類に収まり、個別の確率も高まりますよね。
あるいは、一定額を入れれば全部出ますみたいな属性別の「ボックスガチャ」にして、その即決価格の金額を明示する、というのも(射幸性を下げる努力として)あり得ると思うんです。その30キャラを全部欲しければ、例えば20万円を払えば手に入りますよという仕組みです。
業界が射幸性を認識した上で、そういった射幸性を下げていくような取り組みもした方がいいと思うんですけれど、あまり、そういう動きにはならないのでしょうか。
日高:今回、グラブルでは、これくらい投じれば好きなものが取れるという状態にしました。1回目の300円で手に入るかもしれないけど、入らなくてもマックス9万円。そういった取り組みをもっと増やしていくというのは大事なことだと思うんですね。
その上での定額販売というのは、例えば、「9万円もするアイテムは高額なんじゃないか」という議論を超えられれば、可能性はあると思います。ただ、やっぱり、「9万円もするのか」、あるいは、先ほどの例では「20万円かよ」という声の方が強くなるのではないかと、正直、気にはなります。
「僕が責任を持ってやっていきます」
山本:しかし、現状「0.02%」の確率で運用されているものの供出期待値といったら、それこそ10万円台後半から三桁万円もあり得るわけですよ。そのくらいの金額を突っ込まないと出ませんということじゃないですか。
といって、0.02%をいきなり「2%」にします、というのも、既存のユーザーさんからすると受け入れがたい。もちろん、アイテムやキャラクターの価値というのは、どんどん強いのが貯まれば自分の中でも下がっていくわけですが、それが急だと、さかのぼって「金を返せ」という話にもなりかねない。そこを上手くやるためにも即決価格を用意しておくというのは、1つのアイデアかなと思うんですけれども。
日高:そうですね、その方が「分かりやすい」「安心する」といったユーザーさんの声が増えるのであれば。今後の検討課題にしたいと思います。
山本:それにしても、2012年の「コンプガチャ問題」の時に議論が戻っているような気がします。歴史を繰り返しているような気がするんですけれども。
日高:コンプガチャ問題の時はグリーさんとディー・エヌ・エー(DeNA)さんが中心でしたが、そこからプレーヤーが変わってしまったというのがありまして。
プラットフォームも、スマホ向けのアプリに移ったことで、それぞれの会社がそれぞれのルールで運営している。そこには上場している会社もあれば数十人でやっている会社もあって、それぞれ感覚が違ったり、そもそもコンプガチャ問題を知らない人もいたりして、おっしゃるように、また議論が戻ってしまったところがあります。
ですが、今回のグラブルの件を受けて、少なくともサイバーエージェントグループに関しては、健全性というか、社会性が高いゲームになるよう、僕が責任を持ってやっていきます。
業界内で温度差があるのも事実ですが、メインプレーヤーと言われるようなところに関しては一緒に巻き込みながら、何かしら一定のガイドラインを作ったり、啓蒙や啓発みたいなこともやったりしていきたいと考えています。
山本:まあ、過渡期ということで。
日高:はい。引き続き、いろいろとよろしくお願いいたします。
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