「規制すること」と「規制を守らせること」は、言葉は似ていますが全く異なる概念です。
権限のある当局が、プレーヤーである企業や個人の行動に制限をかけるのが「規制」です。
一般的に官庁や行政の長は「規制強化」を望みます。なぜなら彼等にとって規制とは「権力の源」だからです。
また規制はその「中」に入った人達を守ってくれるので、それらの人達もいつしか「規制緩和には絶対反対!」と言いだします。これが「既得権益層」です。
反対に、今持っているものが少ない人、たとえば新しい企業、新しい産業、若い人などにとっては、規制緩和や自由化が有利です。
また「規制は少なければ少ないほど、経済全体が巧く廻るはず」と主張する規制緩和論者もいます。
一方の「規制の監督」とは、規制が遵守されているかどうかを監視し、守られていなければ是正させることで、規制強化とは別の概念です。
規制自体はもっと緩和すべきと考えている私も、規制の監督については「もっと強化すべき」と感じることがよくあります。
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たとえば派遣という働き方に関して、「派遣制度自体を禁止するべき!」と主張をする人がいます。この人達は「規制強化論者」です。
しかし派遣法を巡る問題の大半は「規制の監督」にあったはずです。
数年ごとに形式的に契約を分断して正社員化を避けたり、派遣社員でも適用されるべき年金や健康保険への加入手続きを怠ったり、様々な脱法行為が行われたのは、規制の監督ができていなかったからです。
であれば、解決方法は「規制の監督をより強化する」ことのはずです。
それなのに、何か問題があったから派遣制度自体を無くしてしまえと主張するのは、いかにも安直です。
運用上の問題が起こるたびに制度自体を全否定していたら、新しい仕組みはなにひとつ社会に定着しません。
新たな制度をどうやったら適切に運用できるのか、社会全体で工夫や努力をすることが求められているのです。
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学校の服装規定なども同じです。制服を義務化し、さらにスカート丈は○センチなどと決めてしまえば、服装指導は非常に簡単です。
もし規制緩和が行われて「高校生らしい服装であれば、制服でなくても可」というルールに変わったら、適切な監督をするためには「本当にこれでよいのか?」という議論が必要になります。
また、お金持ちの子供がブランドものづくしの格好で登校するかもしれません。これでは貧しい家の子供がかわいそうだ。だから「全員制服に戻すべき」と規制強化論者は主張するでしょう。
貧しい家の子が洋服を万引きし「○○ちゃんみたいなかわいい洋服が欲しかった」と言えば、彼らの鼻息はいっそう荒くなります。「だから言わんこっちゃない。規制緩和なんてするからだ!」と。
たしかに「子供に貧富の差を感じさせるな」というのは、きれいで通りのよい主張です。
しかし学校の中だけ貧富の差を隠して、社会の現実から子供を目隠ししても何の意味があるのでしょう?
ブランドものをひけらかすような子供にとっても、他者からそれがどう受け止められるか、学ぶ機会を早めに得ることはとても大事なことです。
同時に「何が高校生らしい服装なのか?」ということを先生、生徒、親が話し合えば、異なる価値観の理解や世代間の理解が進むチャンスになります。
規制を緩和し自由度を大きくすることで人は考えるようになり、実社会で生きていく術を学びます。
自由な発想が生まれ、お金がなくても工夫する方法を考えるし、自分に手に入らないものがある時に、どんな方法でその気持ちを解消すべきかと思考します。
自由化によって生じる様々な問題の解決方法を考えること、それこそが重要な教育なのです。
制服を廃止して何か問題が起こった。「だから制服を再度義務つけよう」というのは、問題解決を避ける「退化の思考」です。
「車が事故を起こしたから自動車の使用を廃止しよう」というような世界は進歩できません。
どうやったら事故を防げるかを考え続けてきたから世界は進歩してきたのです。
なのに「監督が無理だから規制を強化しよう。全部やめてしまおう」と言うなんて、「後ろに向かって走る道」を選ぶようなものです。
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ところで、ネットの世界では「できるだけ少ない規制」を原則とし、問題行為は「規制の監督」によって排除する考え方が基本です。
犯罪の温床になるからサービス自体を法律で禁止してしまえ、というような話は、ほとんど受け入れられません。
これは、ネットのルールがアメリカを中心とした市場主義、自由主義的な国に大きく影響され、決定つけられてきたことも背景にあるのでしょう。
一方、実際の日本社会には様々な規制が溢れかえっています。
「新しい価値ある財やサービス」を生み出していくには自由な発想が必要です。
規制でがんじがらめにされた人に新しい価値を生み出すのは無理です。制服しか着たことのない人にファッションセンスが身につかないのと同じです。
今必要なのは、「規制緩和と規制監督の強化」です。けっして「規制強化」ではないのです。