ファイルがダウンロードされればされるほどアップロードしたユーザーが儲かる仕組み
「「ぬらりひょんの孫」「SKET DANCE」「エデンの檻」などを「MEGAUPLOAD」で公開していた18歳の男子学生を逮捕」という記事中で「MEGAUPLOADはダウンロードされた数に応じて報酬が支払われる方式」というように書きましたが、昨年あたりから海外のオンラインストレージ界隈ではこの動きが加速しています。
最初はRapidShareやMEGAUPLOADがオンラインストレージではシェアが大きかったのですが、そこへHotfileがダウンロードされればされるほどポイントがたまり、それを現金化できるという仕組みを導入して一気に追い上げてシェアを拡大、それを模倣して他サイトも次々と同じような仕組みを導入、現在のようなとんでもない状況になっている、というわけです。
ファイルがダウンロードされればされるほどアップロードしたユーザーが儲かるオンラインストレージサイトまとめ - GIGAZINE
私も前回のエントリの補足として、こういう記事を書こうとしていた矢先にGIAZINEさんに先を越されてしまった。GIGAZINEの記事を読めば、報酬プログラムを用意しているオンラインストレージ(海外だとOne-Click HosterとかCyberlockerとか言われるタイプ)は、日本人がよく利用するものの中にも多数あることが理解できると思う。
で、なんでオンラインストレージ側がこういうプログラムを用意しているのかというお話でも。
オンラインストレージとアップローダー
身も蓋もない言い方をしてしまえば、この手のオンラインストレージの多くは、割れ用途に使われることが多い*1。そういう意味では、P2Pファイル共有なんかと近いところがあって、割と普通のユーザ間のやりとりが主だった*2。アカウントなしで簡単にアップロードできるオンラインストレージにファイルをあげて*3、アレなブログとかフォーラムとかでURLをさらせば、簡単に共有することができた。
一方で、この手のオンラインストレージ側には、何とかしてプレミアムメンバー(有料会員)を増やしたいという思惑がある。だから、ダウンロード開始までに数十秒の待ち時間を必要としたり、キャプチャを入力させたり、ダウンロード速度を制限したり、ダウンロード間隔を制限したり、複数ダウンロードを制限したり、1日当たりのダウンロード量を制限したりする。コストを抑えるためというところもあるんだけど、ダウンローダーにストレスを与えて、「プレミアムメンバーになればストレスなしで使えますよー」という寸法。
とはいえ、アップロードする側からすれば、オンラインストレージ側の事情なんて知ったこっちゃなくて、自分のサイトなりブログなりフォーラムなりをひいきにしてくれるダウンローダーの不評を買うことは避けたい。たとえば大容量のファイルをアップロードするにしても、ファイルを分割して複数のオンラインストレージに分散させる。1つのオンラインストレージだけだといろんな制限に引っかかってストレスがたまるけど、複数のストレージを利用することで、いくつかの制限を回避することができる。
そうなると、オンラインストレージ側は困る。だから、自分んとこにたくさんアップロードさせるためのインセンティブを持ち込んだ、っていうのが報酬プログラム。定期的に、人気のファイルをあげてくれるアップローダーを惹きつけることで、その背後にいる潜在的なプレミアムメンバーを集めることができる、と。その逆もまたしかりで、こうしたインセンティブに惹かれたアップローダーは人気のファイルを、定期的に、たくさんアップロードするよう動機づけられる*4。
そうやってたくさんのアップローダーにたくさんのファイルをアップロードさせることで、ダウンローダーがプレミアムメンバーになるだけの理由が作り出されていく。ダウンロードしたいものがたくさんあれば、できるだけストレスなしで利用したくなるでしょ?ゲスな言い方ではあるけど、十分に「元は取れる」んだし。
報酬プログラムの余波
こうしたプログラムがあることで、手っ取り早く、簡単に儲けたいという人が、新たに違法アップロードを開始するという側面もあるのだけれど、そこから連鎖した動きもあるのかなと思っていて。
これまで、自分のサイト、ブログ、フォーラムに訪問するユーザだけをターゲットにしていたアップローダーたちは、余計な拡散を防ぐために、ダウンロードパスワードを設定することが多かった。ただ、サイトやブログ、フォーラム経由でなくとも、ダウンロード数が増えれば利益に繋がるとなった場合、あえてパスワードを設定してダウンロード数を減らす必要はない。どこを経由してのダウンロードであろうと、自分のアップロードしたファイルをダウンロードしてくれさえすればよいのだから。昨日逮捕された男子学生は、おそらくこうしたファイルをダウンロードして、再び自分でアップロードしたのだろう。
その一方で、パスワードが設定されないことで、自分でアップロードするリスクは負わないという人たちでもその手のリンクを貼りやすくなる。自分ではアップロードしないけど、どこかからリンクを見つけてきてインデックスするという人も増えてきているんではないかなと。その辺りは、オンラインストレージだけの話ではなくて、ビデオ共有サイトでも同じような傾向が見られている。
また、一旦プレミアムメンバーになったユーザは、そのオンラインストレージにアップロードされているファイルを積極的に探すようになる。それぞれのサービス自体に検索機能はなかったとしても、検索できるサイトとかあるしね。まぁ、概してそういう貧乏性な方々は*5、見もしない、聞きもしない、使いもしないファイルだけど、「もったいない」の一心でバリバリ*6集めちゃうんだろうけど。
合法的な利用
上記の脚注でも書いたけれど、私の経験としても、インディペンデント・ミュージシャン本人から、自身の作品をダウンロードしてくれとRapidShareのリンクを教えてもらったことがあったりするし、ユーザとして合法的に利用することについては全くかまわないと思うし、むしろどんどんやれと思う。
ただ、個人が自分の管理するコンテンツを利用して、こうしたプログラムから利益を上げる、ということも可能ではあるのだが、正直なところ1万、10万ダウンロードで数千円程度しか利益がないことを考えれば、あまりよい方向だとは思えない*7。少しでも利益があるのはよいことだとは思うけれども、この手のオンラインストレージ自体がそういう利用に最適化されているわけではなく、今のところは違法アップロードがあってこそ成り立つ仕組みなんだよね。
報酬プログラムを用意しているオンラインストレージサービスの側からしてみると、合法的な利用をする人たちってのはあんまりいいお客さんというわけでもない。なんでダウンローダーがオンラインストレージのプレミアムメンバーになるかっていうと、基本的には「しょっちゅう使うから」だよね。たまたまそのオンラインストレージを使ったダウンローダーってのはお客さん(プレミアムメンバー)にはなりにくい。
この手のOne-Click HosterとかCyberlockerといわれるタイプのオンラインストレージ自体の存在意義はもちろんある。自由にシェアできるコンテンツを共有するのにはもってこいだしね。著作権侵害等々の可能性があるからダメだとなっては、CGMは成り立たないわけで、存在そのものは絶対に守りたいところではある。とはいえ、今のかたちはいろんな問題を抱えていることも事実としてある。よりよいかたちに移行していければよいのだけれどもね。
余談
なかなかタイムリーな話なんだけど、米国映画協会(MPAAが)がHotfile.comを提訴したんだとか。
- 米映画協会、オンラインストレージのHotfileを著作権侵害で提訴 - マイコミジャーナル
- 全米映画協会、ファイルホスティングサービスのHotfileを提訴 - CNET Japan
- 米映画業界、オンラインストレージHotfileを著作権侵害で提訴 - ITmedia News
MPAAは、Hotfileが米デジタルミレニアム著作権法(DMCA)の定めるセーフハーバー条項の保護条件を満たしていないと主張している。MPAAによると、Hotfileは、「私的な保管場所としてそのシステムを利用することを公然と妨げて」おり、「Hotfileのビジネスモデルは(中略)ユーザーが映画やテレビ番組の違法コピーを含んだファイルを同サイトのサーバや外部サイトにアップロードすることを促している」という。
全米映画協会、ファイルホスティングサービスのHotfileを提訴 - CNET Japan
Groksterよろしく誘因責任がある、ということなのかな。
ちなみに、このニュースはMPAAが訴えたというところにニュースバリューがあるのであって、既にこの手の訴訟は増えてきている。当のHotfileも今年1月、PayPalや氏名不詳の1,000人のユーザらとともにLiberty Mediaから訴えられている。また、MegaUploadもつい最近Perfect 10というアダルトメディア企業から訴えられていたりする。ただ、この会社、以前RapidShareを訴えて負けているんだけども、勝ち目はあるんだろうか。