2015.02.17
# 本

もうすぐ毒親になるかもしれない私たちが考える"こじらせ家庭"の直し方、愛し方【前編】「普通の家庭」の線引きって?

「傷口から人生。」出版記念対談
森山誉恵さんと小野美由紀さん
2015年2月10日に『傷口から人生。メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』(幻冬舎文庫)を刊行したライターの小野美由紀さんと、格差の下にいる子どもたちに必要な支援を届けるNPO「3keys」代表の森山誉恵さん。同世代で普段から交流もあるという二人が、本にも描かれている「毒母」(子どもに対してトラウマとなるほどの支配や精神的な抑圧を行い、依存する親)をテーマに語り合う。

「許さなくていい」も「許さなきゃ」もなんか違う

森山: この本さぁ……すごいよね(笑)

小野: すごい?(笑) 

森山: こじれた家族や、対人関係のつまづきについて、リアルだけどエグすぎなく書かれてる。

小野: ああ、「母を殴る」という章とかね(笑)

森山: 読んでいて辛過ぎなくて、すごく読みやすかった。

小野: そうだね、めちゃくちゃなエピソードばっかりだけど、最後は読者が前を向けるようにと思いながら書いてた。私が一貫して書きたいと思っているのは、希望だから。希望を書きたいと思って文筆業をしているから。……なんか、のっけからかっこいい事言っちゃったけど、いいのかな(笑)

森山: (笑)。最近、「毒親」についての本が数多く出版されたり、親との葛藤について語る人が増えてるよね。

小野: 今、SNSがすごく普及して、過干渉あるいはネグレクト、暴力によって子供を苦しめる親の問題が可視化されはじめてるよね。少し前に、渋谷の駅で小さな娘を回し蹴りする母親のショッキングな映像が話題になったじゃん、ああいうのがばーっと拡散されて、コメントを自由にできる雰囲気になってきた。

森山: そうだね。

小野: あの映像に対しても、批難がほとんどだけど、一部で「子育てって大変で、こういう風になっちゃう気持ちもわかる」とか「この人が悪いんじゃなくて、社会のせいなんじゃないか」みたいなことを言うお母さんもいて。

森山: キレイなだけでいられないリアルな親子の問題が論じられるようになってる。

小野:私はそれはいい動きだと思うんだよね。でも一方で、そういう本や投稿を読んでいても、「私のお母さんって毒母なんだ」と思って、暗い気持ちになって自分を責める方向に行っちゃいがちだから。

森山: 自分も結局そうなるのかな……とか。

小野: そう。だからそうじゃないものを書きたいなと思った。私ね、まだ母親との関係がMAX悪かった時に、毒母問題に苦しむ人が集まるイベントに行ったことがあるの。その時、すごく有名なカウンセラーの人が、壇上から「母親なんて許さなくていいんですよ!」ってすごい勢いで怒鳴っていて、私、その人見て、ぽかーんとしちゃって……。

森山: なんで?

小野: その人の、実は母親にかまってほしくてしょうがない気持ちが壇上から溢れてて。"本当はこの人がカウンセリングが必要なんじゃないの"って一瞬思っちゃって。「ああ、本当のことを言わないのってその人自身にとって毒なんだ」って……。

森山: そうなんだ。

小野: だから、自分が書くときは、「母親なんて許さなくていい」っていう、分かりやすいキャッチフレーズのような言葉の裏にあるものをちゃんと書きたいなと思って……。

森山: でも「許さなきゃ! 母親なんだから愛さなきゃ!」という思い込みで苦しんだり、罪悪感を持っている人たちもいるから、難しいよね。その段階の人たちに、一回「許さなくていいよ」って言ってあげる必要はあると思う。

小野: そうだね。「許さなきゃいけない」も「許さなくていい」も、両方思い込みで、その2つの間にあるものってすごく複雑で体積が大きいと思うんだけど。どっちの言葉も両極端すぎて、その間の繊細な葛藤みたいなのってあんまり語られない。一人の人間の中にどっちもあるものなのに。

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