文/ポール・クルーグマン
アメリカが、デンマークに学ぶ!?
民主党大統領候補討論会(10月13日)を見ていた多くの人は、「勤労者を助けるうえでデンマークが手本になる」とバーニー・サンダース候補が言うのを聞いて、きっと驚いたことだろう。ヒラリー・クリントンは「我々はデンマークではない」と軽く異論を唱えたものの、デンマークが啓発される事例であることに同意を示している。
共和党の人々の間なら、こういうやり取りはあり得ないだろう。彼らは、「崩壊中の」という形容詞を付けずにヨーロッパの社会保障制度について語ることができないようだ。基本的に共和党の世界では、ヨーロッパは、単にギリシャを拡大したものに過ぎないのだ。
しかし、実際のところデンマーク人はどのように素晴らしいのだろう?
デンマーク人は多くのことを正しく行った、というのが答えだ。そしてそれらの正しいことを実行するにあたり、彼らは米国の保守派による経済学的主張のほとんど全てを誤りとしている。さらに、我々はデンマークが失敗したことからも多くを学ぶことができる。
デンマークが維持している社会保障制度、すなわち経済的保証を与えるために策定された一連の政府のプログラムは、米国リベラル派がもつ最も大胆な夢をもはるかに超えるものだ。
デンマークでは国民皆保険、大学教育は無料、学生には奨学金を支給し、保育所には大きな補助金が出る。全体として同国の勤労年齢の家族は、国内総生産の比率で見て、米国の家族が得る3倍以上の補助金を受け取っている。
これらのプログラムの資金を得るため、デンマークは多くの税金を徴収する。最大所得税率は60.3%で、その他に25%の国内消費税がある。全体で、デンマークは国内所得の約半分を税金として徴収している。ちなみに米国では25%だ。
米国の保守派には驚天動地の政策
米国の保守派の誰かにこの政策を説明したら、ただちに「崩壊状態」を予測するだろう。確かに手厚い福祉手当は勤労意欲を損なうし、税金が高いと職を創出する者が身を隠したり国外脱出したりすることになるに違いない。
ところが奇妙なことに、デンマークは映画「マッド・マックス」の世界のようには見えない。それどころか、雇用の創出もかなりうまくいっている繁栄した国なのだ。