ある取締役の解任劇
〈 就任後13ヵ月で解任されることになった取締役が、1250万ユーロ(15億円)の退職金と、死ぬまで月々8000ユーロ(96万円)の企業年金を貰える会社は、ただ一つしかない。
それは、記録的な赤字を計上したにもかかわらず、その年、取締役に3490万ユーロ(41億円)のボーナスを支払う会社。庭の鯉が風邪をひかないよう、池に6万ユーロ(720万円)の暖房設備を取り付ける会社。もちろん、フォルクスワーゲン社だ 〉(シュピーゲル誌2月4日号)
ドイツの収入の格差が甚だしいことを書こうと思っていた矢先、この記事が出たので、その冒頭の部分を引用させてもらった。
記事のタイトルは『セルフサービス店』。取締役が会社のお金を好きなように収奪しているという意味だ(https://magazin.spiegel.de/SP/2017/6/149411862/index.html)。
13ヵ月でフォルクスワーゲンの取締役を解任されたのは、クリスティーネ・ホーマン−デンハルト氏。憲法裁判所(最高裁に当たる)の女性元判事で、退任後、まず2011年、ダイムラー社(ベンツ)の取締役に収まった。
そこで贈賄事件の解決に尽力した彼女を、2016年、今度はフォルクスワーゲンが大枚を投じて引き抜いた。
フォルクスワーゲンはこのころ排ガス不正ソフト問題で空前の危機に陥っていたため、誰か信用のおけそうな人物を取締役に据える必要があり、ホーマン−デンハルト氏に白羽の矢を立てたらしい。ちなみに彼女はSPD(社民党)党員だ。
ところが、フォルクスワーゲン救済はうまくいかなかった。原因は、氏が社内の権力争いに巻き込まれて足を引っ張られたからとも、問題が大きすぎて手に負えなかったからとも、あるいは、事実の究明を徹底的にやろうとしすぎて、他の役員の不興を買ったからとも言われている。
いずれにしても、あっという間に彼女の解任が決まり、膨大な退職金と年金が支払われることになった。そして、それに対して異議を唱える人が、フォルクスワーゲンの監査役会には誰一人いなかったのである。
経営者と従業員の収入格差
フォルクスワーゲン社の不正ソフト事件が公になったのは2015年の9月だった。
翌年3月の取締役会はもちろん非公開であったが、内容は漏れ伝わってくる。新社長のミュラー氏が、役員のボーナス報酬の30%カットを提案したが、皆の意見が折り合わず、結局うやむやになったという。
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フォルクスワーゲン社の役員の報酬は凄い。
事件の後、社長を退いたウィンターコーン氏は、醜聞のあったその年も、固定給とボーナス合わせて587万ユーロ(7億440万円)を受け取っている(うちボーナス分が5億8700万円)。