日本を語るためにも、世界史を知ることは重要だ。自覚的に学べば、初対面の海外取引先に対しても、堂々と渡り合うことができる。
クビライ・カアンが革新した交易の歴史を学び、ビジネス現場における武器とせよ!
今から2110年前、キケロの頃から、世界史の必要性は共有されていました。彼は「生まれる前のことを知らないことは、ずっと子供のままでいることだ」という言葉を残しています。
社会をつくっているのは大人ですから、子供のままで仕事はできません。つまり、世界史を知らなければ仕事ができない、と人間は経験的に知っていたのです。
時代が下って、元米国務長官のキッシンジャーも、「人間はワインと同じだ。生まれ育った土地の歴史や気候の産物だ」と私の前で言いました。
どういうことかというと、人間はどの国民であっても、自分のルーツを大事にしているし、それが素晴らしいものだったらいい、と思っている。だから相手が先祖や土地のことを知ってくれているというだけで、人間は胸襟(きょうきん)を開くのです。
つまり仕事だけに限らず、人間が生きていく上で、歴史は役に立つのです。
最初のグローバリゼーション
私たちは、「グローバリゼーションは冷戦崩壊後に始まったものだ」と思い込んでいないでしょうか。これは誤解です。
最初のグローバリゼーションは、今から約2500年前にアカイメネス朝ペルシャで始まりました。2回目は13世紀にクビライ・カアンのもとで始まったのです。
ナポレオンの時代から国民国家が生まれ、グローバリゼーションが一時止まりました。ですが、もともとグローバリゼーションは人間の本性に根ざしたものだったのです。かつて商人は国境など意識せず、まず儲かる相手と商売していた。それが人間の歴史を動かしたと考えたほうがいい。国民国家であちこち仕切られていったのは、世界史の中でむしろ特異な時期、近代のわずか200年くらいなのです。
まずアカイメネス朝ペルシャでのグローバリゼーションについてお話ししましょう。アレクサンダーが大帝国を築くことができたのは、彼に滅ぼされたアカイメネス朝が先行して整備したインフラを活用したからなのです。この帝国を確立したダレイオス1世は、街道(王の道)をつくり、貨幣を発行し、言葉を統一しました。
彼のすごいところは、自分のしゃべっていたペルシャ語ではなく、当時最も普及していたアラム語を公用語にしたことです。おかげで飛躍的に商業が発達しました。
銀の大循環システム
続いてクビライ、モンゴル帝国第5代の皇帝です。彼は陸と海を一体化した交易システムをつくりあげました。おそらくクビライは、「マネーストックが循環しなかったら経済成長はできない」ということがよくわかっていたのでしょう。
具体的には国際通貨であった銀を使いました。クビライのもとにはユーラシア各地の王族から使節が朝貢(ちょうこう)に来ます。その返礼として、通貨の塊、つまり銀塊を渡す。もらった王族はこれを商人に貸しつける。キャッシュを手に入れた商人は、中国で絹、お茶、陶磁器など、世界中が欲しがるものを大量に買いつけて商売を行う。その代金を銀塊で支払う。
そして、クビライは売上税でその銀塊を吸い上げるので、まだ銀が戻ってくる。それをまたプレゼントする。こうして銀は大循環します。要するに、マネーストックを潤沢に用意して、国際貿易を活発化させたのです。
交易には陸路より海で運ぶほうがはるかに効率的ですから、海賊を掃討して海路を整備します。こうして海と陸がひとつに結びついて、本当に地球規模のグローバリゼーションが実現された。これがクビライの時代なのです。
今も同じようなことが起こっています。アメリカが金融緩和をしたら、そのお金を手にした多国籍企業がエジプトの穀物を買い占めます。食料の値上がりでエジプト国民が激怒したのが、アラブの春の背景のひとつになりました。そういう意味では、世界は昔からつながっているのです。
つまり、グローバリゼーションの祖型は、ダレイオスとクビライのときに完成していたのです。