2017.04.05
# 学校・教育

日本の科学研究はなぜ大失速したか 〜今や先進国で最低の論文競争力

研究費を増やすだけではダメ!

どの指標をとっても退潮の一途

「なにを今さら」と大学などで研究している人たちは思っただろう。それに対して、一般の人たちは、「えっ!そうなのか」と驚かれたに違いない。

英科学誌ネイチャーに、日本の科学研究がこの10年間で失速していることを指摘する特集が掲載された。

ブレーキがかかった、などという生やさしい状況ではない。飛行機ならば今すぐ手を打たないとクラッシュしかねない失速状態にまで追い込まれていると言われたのだ。

論文データベースScopusによると、15年までの10年間に、世界中では論文数が80%増加しているのに、日本からの論文は14%しか増加していない。

特に、コンピューターサイエンス、私が関係する生化学・分子生物学、そして、驚いたことに、日本の得意分野といわれる免疫学で、その傾向が顕著である。

数が減っても質が保たれていればまだしもなのだが、ネイチャーが選定した各分野の超一流雑誌への日本からの論文数も残念ながら低下し続けている。また、日本の研究者が参加する国際共著論文の比率も続落と、どの指標をとっても退潮の一途であることが見て取れる。

特集のメイン記事は、北海道大学が、経費削減のために教授クラス205名のリストラが必要だと発表したことから始められている。次いで、若手研究者へのサポートがうまくいっておらず、その将来が不安定であることが指摘される。

そして、その要因として、国からの予算削減と、90年代のポスドク1万人支援計画は民間への優秀な人材の提供が目的であったのに、多くがアカデミアに残留した影響があげられている。

このような状況を見てであろうか、大学院博士課程への進学者は2003年をピークに下降線をたどっている。なので、どの時点かで平衡点が訪れてポスドク余剰が解消されることになる。

しかし、それだと、いずれそのツケがまわって日本の研究能力に大きな溝ができてしまうこと必至である。

他にも、大学の常勤ポストについている教員の高齢化や、日本の若手研究者にはPI(Principal Investigator:研究室主宰者)になる意欲が高くないことが問題としてあげられている。

紹介していて情けなくなってくるような話ばかりだが、ここ何年かの間に感じてきたこととそう大きなズレはない。いや、もっと正直にいうと、まだこれくらいで踏みとどまれているのか、という印象の方が強い。

 

競争力低下の最大要因とは

ちょっとしたきっかけがあって、最近、血液学のBLOOD誌、循環器学のCirculation誌という、それぞれの分野での一流雑誌について日本からの論文数を調べてみた。

そうすると、15年ほど前の全盛期に比較して、どちらも3分の1から4分の1に激減していた。これは、超一流雑誌での論文と比較してはるかに著しい減り方である。

文科省は世界トップ拠点プログラム(WPI)などで、トップ中のトップ機関には多額の研究費を配分しているが、先端をとがらせただけでは不十分なのではないだろうか。

数も多く、分野の基盤を形作るべき、おそらくは安定した科学インフラには最も重要なレベルへの手当が不十分になっていて、そのような層が総崩れになっている可能性があるのではないかと危惧している。

関連記事