写真●ITproの田中淳副編集長
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 「日経BPコンサルティングが7月に実施した調査では,IT専門家の約7割がIFRS(国際会計基準)をよく知らなかった。何しろ会計の話であり,無理もない。しかし企業のIT部門やITベンダーにとってチャンスにもなり得る」---。東京ビッグサイトで開催しているITpro EXPO 2009展示会で2009年10月29日,ITproの田中淳副編集長が「最低限押えておきたいIFRS対応5つのポイント」と題する講演を行った。以下,講演の骨子を紹介しよう。

 IT関係者がIRFSについて,いま押さえておいてほしい5つの“コ”がある。(1)ココロ(心・精神)を知る,(2)コトバ(言葉・用語)を知る,(3)コワサ(怖さ・インパクト)を知る,(4)コンゴ(今後)を知る,(5)ココロガケ(心がけ)を知る---だ。

 まず,(1)ココロ(心・精神)を知ろう。IFRSとは何かを詳細だけでなく,その精神を理解しよう。IFRSは会計基準,すなわち企業が活動した結果を数字(金額)で分かるようにするための尺度である。企業価値を正しく評価することを目的としたグローバルな(世界中で通用する)基準であるといえる。投資家をはじめ,株主や債権者,取引先などステークホルダーを対象としたものだ。

 次に,(2)コトバ(言葉・用語)を知ろう。IFRSでは聞きなれない言葉が数多く登場する。すべてを知る必要はないが,ココロに基づいて理解する必要がある。例えば,B/S(貸借対照表)やP/L(損益計算書)という言葉はない。企業の資産・負債・資本の状況を表示する「財政状態計算書」,当期純利益にその他包括利益を加え,包括利益を算出する「包括利益計算書」となる。詳しくは,ITpro連載「キーワードで理解するIFRS」の「包括利益」を参照してほしい。

 それから,(3)コワサ(怖さ・インパクト)を知ろう。企業にとって「会計基準」が変わるインパクトは極めて大きい。収益認識や研究開発費,のれんなど,財務諸表にかかわる様々なルール変更に対応する必要があるだけでなく,会計システムや販売管理システムなど情報システムも変更が必要になる。何より,原則主義やマネジメント・アプローチなどのもとでは,経営者の意識改革が欠かせない。

 IT関係者にとっても,IFRSへの対応は大きな試練となるのではないか。IT部門にとって,IFRS対応は極端な言い方をすると究極の「非機能要件」といえる。現場のユーザーから要件が上がるというたぐいのものではない。これはJ-SOX(日本版SOX法)でも同じことが言えたが,ITの役割はJ-SOX以上に見えにくい。受け身の姿勢を取りがちだったり,経営との距離があるIT部門や,局所的な提案しかできないITベンダーは“IFRSの波”に乗るのは難しいだろう。

 そして,(4)コンゴ(今後)を知ろう。まず2009年6月に金融庁が出した「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」はロードマップであり,ココロを知るためにも読んでおいたほうがよい。IFRSは現在進行形であり,不確定要素は多い。情報収集が不可欠だ。内部統制.jp/IFRSをぜひ活用してほしい。

 最後に,(5)ココロガケ(心がけ)を知ろう。会計分野の国際化は今に始まったことではない。今後どのような形で進むかは不明な点も多いが,基本的には避けられない。しかも,IFRSが示しているのは単なる会計分野の変更点にとどまらない。大げさに言えば,会社経営のあり方の見直しを迫られる。IT関係者にとっても,正しい意味でのITガバナンスを実践できるか,ITガバナンスにつながる提案ができるかがカギとなる。