鎌倉市にある面白法人カヤックの本社オフィスにお邪魔した。カヤックは,絵画を面積に応じた価格で販売するオンライン・ショップ「ART-Meter」や,音声データを使うコミュニティ・サイト「こえ部」など,ユニークなインターネット・サービスを展開しているIT企業である。給与の一部をサイコロの目の数で決める「サイコロ給」という変わった人事制度を持つことでも知られている。

写真1●外側半分がクッションになった受付カウンター兼仕事デスク
写真1●外側半分がクッションになった受付カウンター兼仕事デスク
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 そんなカヤックは,オフィスの作りも変わっている。初めて本社を訪問した人は,まず受付で驚く。受付カウンターの外側半分が,えんじ色のクッションになっているからだ(写真1)。

 受付カウンターは仕事デスクと兼用になっている。クッションは,デスクにいる人と会話するときに,腰掛けるのに使うそうだ。「誰かに話しかける際に,後ろから声をかけるよりも正面から近付いていった方が会話を始めやすいので,このような配置にしている」(カヤック 演出部(ディレクターや広報など)の松原佳代氏)のだという。

写真2●フリーアドレスなのでカーペット・スペースにパソコンを持ち込んで仕事をすることも可能
写真2●フリーアドレスなのでカーペット・スペースにパソコンを持ち込んで仕事をすることも可能
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 受付のあるフロアは一部がフリーアドレスになっており,社員は写真1のクッション付きデスクのほか,フロア中央にあるカーペット・スペース(写真2)で靴を脱いで作業することもできる。カーペット・スペースは,寝転んでパソコン仕事をしたり,あぐらを組んで会議をしたり,自由なスタイルで使ってよいそうだ。

 本社オフィスは2フロアからなる。フリーアドレスがあるフロアは,主にディレクターや企画,広報といった職種の社員がノート・パソコンをつないで仕事をしている。もう一つのフロアには,デザイナーやプログラマーなど,仕事に専用のデスクトップPCや大型モニターが必要なためフリーアドレスに適さない開発部隊が集まっているという。

 開発部隊のフロアも,面白い構造になっていた。舞台のように床から1段高くなった位置に,20畳ほどの畳スペースと縁側がある(写真3)。この縁側が仕事机になっており,社員はデスクと同じ高さにある畳スペースを取り囲む陣形で仕事をしている。前述のクッション付きデスクと同様に,「誰かに用事があるときは,靴を脱いで畳にあがり,相手の正面から声をかける」(松原氏)。畳スペースは,会議や定例のブレイン・ストーミングの場として利用されているという。カヤックの開発方針は「量が質を生む」。同社の開発部隊は,日々畳の上でたくさんの新しいサービスを作っている。

写真3●畳スペース周囲の“縁側”が仕事デスクになっている
写真3●畳スペース周囲の“縁側”が仕事デスクになっている
写真3●畳スペース周囲の“縁側”が仕事デスクになっている
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 「wonderfl build Flash online(wonderfl)」も,この畳の上で開発されたサービスの一つだ。wonderflは,ブラウザに入力したActionscript 3で書かれたソースコードをカヤックが運営するサーバーでコンパイルし,Flashを作成する無料サービスである。現在のユーザー数は約1万2000人。サンプル・コードが豊富に登録されており,さらにFlashの完成イメージを確認しながらコードを作成できる2画面のUIのため,Flashクリエイターだけでなく,クリエイターにプロダクト・イメージを指示するWebディレクターの利用も多いという。

写真4●カヤック 演出部の片岡巧氏
写真4●カヤック 演出部の片岡巧氏
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 「コンパイルするだけではなく,他のユーザーが投稿したコードを編集して使い回すことができるので,Flash初心者の勉強に役立つ」と話すのは,wonderflの企画開発を担当した片岡巧氏(写真4)だ。コードとFlashが2画面で同時に表示されるwonderflのUIは,初心者が体感的にコードを覚えるのに最適のツールだという。片岡氏は現在,Flashの基礎とwonderflの使い方をまとめたFlash初心者のための教本出版を企画している。さらに,wonderflに無料で遊べるFlashのオンライン・ゲームを用意して,そのゲームのコードを公開するというプロジェクトも進行中だ。

 カヤックのオフィスには,同社のオープンな社風がよく表れていると感じた。同社はホームページで全社員の名前と写真,社内のTwitterなどを公開しており,外部からも社員の顔や会話を見ることができる。同様に,オフィスも,社員全員の顔が見え,お互いの会話が聞こえる作りになっていた。

 様々なプロジェクトを抱えて毎日多忙な片岡氏に,本社オフィスの使い勝手を尋ねてみた。「人間は,無音の空間よりも適度な音がある空間の方が集中できる」という説を聞いたことがあるが,さすがに机の上(畳スペース)で他グループの会議やブレイン・ストーミングなどが始まったら,うるさくて仕事どころではなくなるのではないか。この問いに対して片岡氏は「すぐに慣れて,全く気にならなくなる」と答える。逆に,集中力が増すかというと「そこまでではない」(片岡氏)そうだ。

■変更履歴
記事公開当初,「wonderfl build Flash online」のスペルに間違いがありました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 また,オフィスのフリーアドレス利用に関する説明に一部誤りがありましたので訂正いたしました。[2009/10/07 22:00]