【PCゲーム極☆道】第二十一回:『House Flipper』リフォームで家を転売する究極の作業ゲー
ゲームでする仕事は楽しい
できることならば、働きたくない! ゲームだけして過ごしていたい! ゲーマーのみなさんは常々思っているのではないでしょうか? ボクは毎日思ってますね。明日休みだったらいいな。そんなことばかり考えてしまいます。来る日も来る日も作業、作業、作業です。もういやになります。
ただ、こうした作業が結実し、成果となるのはやっぱりうれしいですよね。仕事というのは多少のうれしさ楽しさがあってこそなのかもしれません。
さて、仕事にそうしたうれしさ楽しさがあるならば、そこをゲームに落とし込んでやろうという作品が登場するのも当然です。今日、ゲームの中で仕事、作業をするのは普通のこととなりました。なんともおかしな話ではありますが、作業はコンテンツになる。なってしまう。俗に作業ゲームと呼ばれるこうした作品は、いまや一大ジャンルです。何時間も仕事に従事したあと、何時間も作業ゲームに溶かす。そんなプレーヤーが世界中にたくさんいるんです。……こう書くと地獄みたいですが。
みなさんのまだ知らないかもしれないPCゲームの世界を紹介する「PCゲーム極☆道(きわめみち)」。今回はそんな作業ゲーム界に彗星の如く現れた新作『House Flipper』を紹介します。
『House Flipper』はポーランドのインディディベロッパーEmpyreanが開発した作品です。2010年に設立されたスタジオではありますが、2016年まで同スタジオオリジナルの作品を発表することはなく、クラウドソーシングサービスで仕事を受注していたスタジオだったようです。長い下積みを経て、成功を掴んだ。そんな作品と言えるかもしれません。
本作でプレーヤーはフリーのリフォーム業者となり、家にまつわる多くの仕事、作業をこなしていきます。掃除、設備の取り付け、塗装、そして改築。絶対に一人でやるような作業ではありませんが、そこはフリーランスですからがんばるしかありません。
とにかく作業作業のゲームです。本作はマウスボタンを長押しすることで作業を行い、ひとつひとつ作業をこなしていきます。当然長押しですから1つの操作終了までに時間がかかるように作られていますし、床材を貼る以外の作業を一切自動化ができません。
例えば、上のSSで行っている壁タイルの張り替え作業ですが、ありがたいことにタイル一枚一枚を貼る必要まではありませんが縦一列ずつ貼っていかなければいけません。バスルームの壁面ぐるっと貼り終わるには相応の時間がかかります。しかも、タイルは貼ったらわざわざ新しいタイルを山から取らねばならず、貼っては拾い、貼っては拾いを繰り返す必要があります。もちろんタイルの山は有限。なくなれば新しいタイルを注文する必要があります。
他の作業もいちいち細かい操作を求められます。設備取り付けはネジ1本1本回させられますし、汚れは自分で場所を確認して掃除しなければいけません。ぱっぱと終わる作業など、このゲームには存在しません。とにもかくにも操作を求められます。
作業ゲームが苦手な人は、ここまで読んだだけでダメだ……と思うでしょうね。ただ、作業ゲーム好きからすればこれはむしろアリです。マゾかなにかなのか。
いや、でも本作はこの作業量の調整に気を使っていると思うんです。先ほどのタイル貼りで言えば、本当に一枚ずつ貼るわけではなく縦一列同時に貼れて、マウスの長押しだけで作業が進行するように作られています。ようするに、ある程度作業がディフォルメされているわけですよ。作業をより忠実再現したければ、タイルにFキーで石膏をぬる、キーを押すたびタイルが一枚ずつ貼られていく……みたいな、そういう細かい作業を用意することもできますしね。プレーヤーが作業に没頭できる、ギリギリの作業量を本作は狙っています。
で、マウスの長押しですべての作業を統一しているのもいいですね。内容に合わせて操作方法を変えていく……というのも面白いとは思うんですが、ある程度作業を統一して、プレーヤーの負担を減らす工夫がされている。ほかにも、作業をこなすとスキルポイントが手に入り、より効率的に作業をこなせるようにプレーヤーを成長させることもできます。
作業ゲームが好きな人も、なにも苦痛が味わいたいわけではありませんからね。そのあたりのさじ加減をしっかり考えているな……というのが見えるところがいいです。作業ゲーム好きというマゾを喜ばせる、女王様としての資質を備えたゲームと言えます。どんな例えだ。
プレーヤーはフリーランスですから、さまざまな依頼がやってきます。例えば買ったばかりの居抜き物件を掃除してくれだとか、部屋を広くするために壁を壊してくれだとか。それぞれの依頼には最低ラインが設けられていて、最低ラインを超えればいつでも仕事をフィニッシュすることができます。
依頼によっては、ついでにあれも買ってくれだのこれも直せだのいろいろ要望がひっついてきますからね。面倒ならばそのあたりを断ってしまうこともできるわけです。また、一面掃除したが、どこに最後の汚れがあるかわからない!というときも諦めて次の仕事いける。このあたりのプレーヤーが楽をできる仕様になっているところもいい。もちろんパーフェクトに仕事をこなせば報酬は上がりますから、パーフェクトな仕事を目指すのもまたひとつの手です。選択肢が広い。
さて、依頼をこなしてある程度まとまったお金ができたら、ついにタイトルにあるハウスフリップ、住居転売に乗り出しましょう。
プレーヤーは不動産サイトからボロボロになるまで放置された物件を購入し、思うままにリフォームし、きれいになった家をフリップハウスとして競売にかけることができます。
これが実に面白いんです。まず、売りに出た家のバリエーションですね。家の大小だけでなく、火事で燃えた家だったり、汚れがひどかったり、なにかいわくつきだったりと家それぞれに過去をもたせているところがいいです。もちろんその過去にあわせ、修繕内容も変わってくるわけです。火事で燃えた家は床を全部張り替えないと住めませんが、汚れただけの家ならきれいに磨けば済みます。
そしてここからが一番面白いところで、家を買う顧客にはそれぞれ希望があって、リフォーム中にもちょくちょくコメントをよこしてきます。家族で入居を考えている方なら、たくさんの寝室や子供部屋がほしい。独り身だから寝室はひとつでいいが、できればオフィスを用意してほしい。広いリビングがいい。モダンなデザインの家具がほしい。壁紙を華やかに。
彼らの要望にあった家を用意することで、より高い価格での買い取りを狙えるわけです。間取りを組み換え、内装を凝り、家具をそろえて、要望にあった家へと廃屋を作り変えていきます。
モダンなデザインで若者受けを狙ってみよう。高級路線で統一してみよう。お部屋のコーディネートが、プレイの成果に直結してくるわけです。これがとっても楽しい。本作にはプレーヤーの想像を実現できるだけの数多くの家具が実装されているため、さまざまな家へと作り変えることができます。「○○に家を販売した」という実績があって全ての人に家を販売するチャレンジも用意されているので、家造りへのモチベーションもぐっとあがります。
最初に話したとおり、成果があってこそ作業にうれしさ楽しさが生まれるわけです。がんばって作業した結果が儲けにつながってくると、一仕事終えたな!とうれしくなります。この塩梅が非常によくできたゲームです。あと、家の売却時にどれくらい時間をかけてリフォームしたかが出るのも面白いです。時間に見合った報酬を得られるかどうか?プレーヤーのリフォーム技術が試されます。
ぜひ多くの方に触っていただきたい。発売すぐに評判になっただけはある、しっかりとした作りと面白さを感じるゲームです。作業ゲーム好きはもちろんのこと、マネジメント系のゲームが好きな人、サンドボックスゲームでお部屋のデコレーションに凝りまくる人、色んな人にオススメできるゲームです。変になっちゃてるところもたくさんありますが、発売したばかりだというのに日本語ローカライズも実装されていますし、興味のある方は遊んでみてくださいね。
……ただですね。本作が廃屋のリフォームというテーマでもって作られている以上、仕方がないといえば仕方がないのですが、汚れた家には、その、ゴキブリが出ましてですね。しかも、その表現がたいへん気持ち悪い。苦手な人が見たら卒倒するほどうじゃうじゃ床中を動き回っているので、耐性のない人はよく考えてから買いましょう。