アングル:日銀マイナス金利、地銀は新戦略へ暗中模索 

[東京 4日 ロイター] - 日銀のマイナス金利導入を受けて、地方銀行は運用やビジネス戦略の見直しに着手した。ただ、どの分野を見渡しても高い収益を獲得できる「すき間」はなく、各行とも「暗中模索」の状態だ。また、一部には当座預金の3階層システムが融資拡大努力をした銀行に不利になるとの不満もくすぶる。金融庁幹部は、環境が激変しても適正な金利を支払う融資先の掘り起こしを求めて行く方針を示している。
<日銀当預「3分割」の波紋>
「正直者がばかを見るような仕組みではないか」――。日銀が1月29日に打ち出したマイナス金利政策をめぐり、金融庁のある幹部はこう指摘する。民間金融機関からも「金融機関の扱いが不平等だ」との声が上がっている。
批判の矛先は、日銀が当座預金残高を3つの層に分けて、別々の金利を付けるとした新システムに向かっている。
日銀は、2015年の平均残高を「基礎残高」として0.1%の金利をつける。一方、「基礎残高」と所要準備額などで構成する「マクロ加算残高」(ゼロ金利)を上回る預金は、「政策金利残高」としてマイナス0.1%の対象とした。
金融庁関係者や地銀関係者の一部は、このシステムを現実に実施すると、貸出先の開拓や運用先の多様化に取り組まず、ひたすら当座預金に積み上げていたところほど「基礎残高」が多くなり、プラス金利の影響を受けることになると指摘する。
反対に、マネーの当座預金滞留を回避し、国債運用や貸出に回していた金融機関は、イールドカーブ低下の影響をより受けやすくなると述べている。
このため金融業界では、来年も当座預金の3層別々の扱いが維持されることを前提に「今年、多少のマイナス金利が付くことを覚悟しても、当預を積んでいくところが出るのではないか」(メガバンク関係者)との声も出ている。
一部の銀行には、今年の当預の平均残高が多いほど「基礎残高」が増えるとの解釈があったが、日銀はこの解釈は誤っていると明確に否定。3日に日銀本店で開催した金融機関の運用担当役員などを対象にした説明会でも、基礎残高は今年の平均残高とは無関係であると、数回にわたって説明した。
出席者によれば、その会合では公表資料以上の説明はなく、来年の制度設計についての質問にも日銀側は明確に答えなかったという。日銀側からは「詳細の検討はこれから」と回答する場面が目立ち、多くの参加者はマイナス金利の新制度に関するイメージが固まらなかったようだ。
<預金金利はマイナスにせず>
「預金金利をマイナスにはできない。マイナスにしたら預金が逃げてしまう。サービスを充実させて、広く薄く手数料を上げて収益を上げて行ければ」――。
ある地銀の幹部はこう話す。日銀のマイナス金利政策を受け、その地銀は来年度の計画の全面的な見直しに着手した。従来想定していた計画の柱は維持しつつも、どうすれば金利低下の悪影響をしのげるのか模索している。
地銀の多くが悩んでいるのが、運用面での明確な「打開策」が見つからないことだ。日銀当預を昨年の平均額までは積み上げる一方で、マイナス金利が適用される「政策金利残高」を避け、外銀口座へのドル預金や他の民間金融機関に振り向ける「安定収益」確保案も浮上しているという。
ただ、円からドルへの大量のシフトは、ただでさえ上昇しているドル調達コストを引き上げ、果たしてプラスの収益を確保できるのか微妙な情勢だ。
他の民間金融機関への資金預入は、同じことを考える他行からの預け入れで相殺されるケースも想定される。
金融庁は、これまで担保や保証に過度に依存せず、企業が持つ潜在的な成長力を評価し、積極的に融資するよう地銀に求めてきたが、この方針は今後も変わらないという。
同庁のある幹部は「マイナス金利政策の下でも、適正な金利を出す借り手は必ずいる。地銀は借り手企業の掘り起こしに努めるべきだ」と話している。
*本文8段落目と9段落目を差し替えました。

和田崇彦 編集:田巻一彦

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