焦点:欧米で広がるマイナス金利、消費より貯蓄促す逆効果も
[ロンドン 18日 ロイター] かつて奇想天外な概念だったマイナス金利が、欧米市場であっという間に普通になりつつある。マイナス金利は、金融市場のストレスを除く目的で実施された金融緩和が一因だが、消費を促進するどころか、高齢化する人々の貯蓄率を高めるという逆効果を招きかねない。
HSBCの資産配分グローバルヘッド、フレドリック・ナーバンド氏は顧客に対し「直観的に考えると、(マイナス金利下では)消費者は明日まで貯蓄して資産が目減りするより、今すぐ支出しようとするため消費を押し上げるはずだ。しかし事はそれほど単純ではない」と説く。
ナーバンド氏の主張では、国債利回りと足並みをそろえて投資や年金基金の収益率が低下するため、消費者は不十分な年金を補うため、通常よりも貯蓄を増やさざるを得なくなる可能性がある。「これが節約のパラドックスだ。需要に影響を及ぼす」という。
ナーバンド氏によると、今後30年間の投資収益率を2%、給与の年間上昇率を1%と想定すると、現在40歳で、給与1年分の貯蓄があり、70歳で退職する計画の人は、退職まで現在の給与の約3分の1を貯蓄し続ける必要がある。そうすることでやっと、退職時の給与の60%に相当する年金を、85歳で死ぬまで確保できるという。
高齢化が急速に進むなら、先進国の消費はさらに減り、結果として景気は一段と減速、ソブリン債需要が高まり、中銀による国債買い入れ・紙幣増刷が増え、利息がほとんどつかない証券の需要は一段と増す。
悪循環に陥る可能性ははっきりと見えている。
<金利を支払って貸し出す>
マイナス金利はどこまで広がるのだろうか。
ドイツ政府は18日、表面利率ゼロの2年国債を初めて額面を上回る価格で発行した。発行利回りは年率マイナス0.06%だ。
つまり、ユーロの将来と世界的な景気減速を取り巻く不透明感ゆえに他の主体への貸し出しを恐れる投資家は、ドイツに資金を貸すという特権と引き換えに「保証付き」の損失を喜んで受け入れている。ドイツなら何があろうと元本を償還してくれる(今や「手数料」を取られるとはいえ)と想定しているからだ。
応札倍率は2倍に達し、そうした需要の強さを物語っている。
しかしユーロ圏と米国で広がる利回り低下の動きの中で、18日のドイツ国債入札は1つの通過点に過ぎない。期間3カ月の米財務省短期証券利回りはわずか0.1%、米10年国債利回りは1.5%を割り込んでいる。
しかも、国債利回りがマイナスになっているのはドイツだけではない。
2014年半ばまでに償還されるオランダとフィンランドの国債は利回りがマイナスで取引されている。フランスの短期国債もマイナス利回りで、ベルギーの短期国債は17日の入札ではじめて発行利回りがマイナスとなった。
INGの金利ストラテジスト、パドライク・ガービー氏は「目覚ましい動きだ」と言う。フランスとベルギーは昨年10、11月には金融市場の厳しい圧力にさらされていた。だが460ベーシスポイント(bp)もあったベルギーの2年国債の対ドイツ国債プレミアムはそれ以来縮小して現在は35bpに、フランスも同様に140bpから24bpになった。
最も安全とされる国の国債利回りがマイナス幅を広げているため、投資家は元本さえ返ってくるなら良しとして、より期間の長い証券や信用力の劣る発行体の証券にそっと手を延ばさざるを得なくなっているのかもしれない。
「中核国」から「準中核国」の国債にまで需要が広がっていることは、ユーロ圏の緊張を和らげる上で思わぬ効果をもたらす可能性がある。
今週はスペインとポルトガルの短期国債も落札利回りが低下し、アイルランドは今月、2010年に国際支援を受けて以来初めて短期国債入札を再開した。
ガービー氏は「フランスやベルギーの証券が人気を回復しているのなら、イタリアのような国にも人気が広がるはずだ。当社の見方では、重圧を受けているスペインの状況に比べ、イタリアはずっと良好だ」と話す。
<いつまで続くのか>
利回り低下の原因が各国中銀の量的緩和や、欧州中央銀行(ECB)が預金ファシリティー金利をゼロに引き下げたことにあるとすれば、今後もこうした流れは止まりそうにない。
バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は17日の議会証言で追加的な量的緩和策について慎重な言い回しを維持したが、今後の可能性には含みを残した。世界中の投資家の間では依然として、FRBが11月の米大統領選挙前は控えるにしても、直後には追加策に踏み切ることが幅広く予想されている。
ブラックロックの固定利付きポートフォリオ・マネジメント・グループ責任者、ピーター・フィッシャー氏は「FRBの新たな量的緩和策に対する反応の『半減期』は短期化しているが、弾が尽きたわけではない。バランスシートを無限に拡大することが可能な中銀はどこも、兵器庫が空になることはない」と強調する。
問題は、量的緩和の副作用が効果をしのぎ始めたのではないか、そして政策をめぐる見解がばらばらなのではないか、ということだ。
(Mike Dolan記者)
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