焦点:新興国で高まる不平等感への怒り、投資リスク評価に影響

焦点:新興国で高まる不平等感への怒り、投資リスク評価に影響
 7月16日、新興国では成長という「果実」の分け前に十分あずかっていないと怒りを抱える中間層が増えており、大手資産運用会社は新興国に対する評価の再考を迫られている。写真は反政府デモを行う市民ら。タイのバンコクで3月撮影(2014年 ロイター/Damir Sagolj)
[ロンドン 16日 ロイター] - 新興国では成長という「果実」の分け前に十分あずかっていないと怒りを抱える中間層が増えており、大手資産運用会社は新興国に対する評価の再考を迫られている。
政治リスクは新興国を主な対象とする投資家にとって避け難い現実だが、資産運用会社の多くは、「アラブの春」後の世界で貧富の差への不満が高じて混乱化するのを防げる組織や政府を備えた国はどこか、判別を進めている。
UBSウェルス・マネジメントの新興市場最高投資責任者、ジョルジ・マリスカル氏は「こうした中間層は、自分たちは学校、道路、医療制度、住宅など諸外国の中間層が手に入れているものを政府から与えられていないことに気づきつつある。恨みがものすごく膨らんでいる」と話す。
国際的に事業展開する企業がとりわけ社会的な不満の高まりに不安を募らせていることが、保険市場の動きからも読み取れる。
保険ブローカーであるウィリスのエグゼクティブディレクター、アンドルー・ファンデンボーン氏によると、戦争など「ハード」な政治リスクではなく、市民の騒乱に対する当局の強硬な対応といった「ソフト」な政治リスクを対象とした保険の需要が増えている。
ファンデンボーン氏は「所得格差、貧困、食品価格といったソフトなリスクは拡大している。アラブの春以降、こうしたリスクをカバーする商品の引き合いは高まっている」とした。
信用保険を提供するコファスは「政治的な脆弱性」を理由にトルコとベネズエラを「ネガティブウォッチ」に置いている。
世界的な資産運用会社もこうした社会的緊張の根源的な理由や影響を強く意識しつつあり、どの国の政府が政治的緊張を緩和する改革を十分なスピードで実施する能力を持つかを、以前より重視している向きもある。
例えばスタンダード・ライフ・インベストメント(SLI)のストラテジーヘッド、アンドルー・ミリガン氏は、メキシコ債は投資対象としてなお優れるが、街頭での抗議行動が発生していて10月の大統領選の見極めも難しいブラジルは、クレジットを「ゼロウエート」に評価している。
経済協力開発機構(OECD)は7月に公表した報告で、新興国は急速な成長で多くの国民が貧困から抜け出し、新たな中間層が生まれるのと同時に、中国やインドで不平等が拡大したと指摘。この結果、社会的な緊張が高まり、成長が阻害され、情勢が不安定化する恐れがあるとの見方を示した。
投資家は、組織や政府の安定性といった定性的な要因にも目を配る必要があることも承知している。不平等の量的な評価だけでは不十分なのだ。
例えば所得配分の非平等さを測る指標で世界銀行やOECDが採用し、注目度の高い「ジニ係数」でみると、ナイジェリアはフランスよりも不平等さが大きい。一方、ベラルーシと日本はいずれも世界で最も不平等性が低いが、投資面の見通しは全く異なる。
アライアンスバーンスタインの新興国市場ポートフォリオマネジャー、モーガン・ハーティング氏は「モザイクの一部だ。実際には多くの要因が絡んでいる」と話した。
資産運用世界最大手のブラックロックの「ソブリン・クレジット・リスク指数」は、政府の効率性と安定性の尺度となる「返済意欲」の比重が30%を占めている。
(Chris Vellacott記者)

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