2004年あたりのラノベ解説本ブームから、越境作家の増加、新規参入レーベルの増加、ハルヒのヒット、アニメ化作品の増加を経て、ついに「ラノベブームだ、これからはラノベの時代だ」とか「いや既にラノベは危ない、衰退しつつある」とかなんとか語られるようになったライトノベルですが、それを取り巻く状況はよく語られるのに、その具体的な変化についてはあまり取り上げられていないような気がするので、軽く書いてみたいと思います。
これまでのあらすじ
『スレイヤーズ』『オーフェン』で世界を支配した富士見ファンタジア文庫が衰退した後、代わって覇を唱えたのは『ブギーポップ』を擁する電撃文庫でした。それに伴ってライトノベル界の主流もファンタジーから学園物へと変わり、セカイ系ライトノベルの『イリヤの空、UFOの夏』、学園異能のテンプレートを作った『灼眼のシャナ』や、電撃文庫の出身ではありませんが、学園+ロボの『フルメタル・パニック!』、学園物作品のパロディである『涼宮ハルヒ』シリーズなどの学園物ライトノベルが次々と登場したのです。しかし、電撃文庫も絶対的な支配力までは持てず、その周辺では多くのラノベレーベルが興り、またかつての王者・富士見ファンタジア文庫も密かに力を蓄えていました。ここにライトノベル界は大戦国時代を迎えたのです…!
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萌エロ路線をとって台頭したMF文庫J
電撃文庫に対抗する非角川系ラノベレーベル*1の代表格といえばMF文庫Jでしょう。『ゼロの使い魔』を筆頭に、『かのこん』『えむえむっ!』『ぷいぷい!』『ねくろま。』『けんぷファー』『きゅーきゅーキュート!』といったラインナップを取り揃え、新人の作品は一冊出るごとにラブコメ分増し増しになっていくという恐ろしさ。この徹底したラブコメ・エロコメ戦略により、電撃文庫・富士見ファンタジア文庫の二強に迫るほどの躍進を遂げました。
また、他の中堅レーベルも多かれ少なかれ萌エロ路線を取っています。たとえば、創刊当初は硬派だったHJ文庫ですが、いまやパンツ付きライトノベルを売り出すようなレーベルに変貌を遂げていますね。→「AIKa R-16」 女子高生パンツ付ライトノベル 発売 - アキバBlog
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萌エロ路線をとって対抗する電撃文庫
対する電撃文庫も、MF文庫Jの好調を気にしたのか、萌エロ路線に傾きはじめているように思います。特に多いのは、わりとシリアスな作品を書いていた中堅作家が、萌エロ路線に転向するパターン。『カレとカノジョと召喚魔法』→『れでぃ×ばと!』、『ぼくと魔女式アポカリプス』→『C3 -シーキューブ-』、『座敷童にできるコト』→『タロットの御主人様。』、『神無き世界の英雄伝』→『Kaguya』などなど。いまのところどの作品も打ち切られていない、どころかけっこう売れているみたいなので、この戦略はとりあえず成功しているのでしょう。*2
- 作者: 水瀬葉月,さそりがため
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しかし萌エロ路線はマニア受けしない
keyword:2008年上半期ラノサイ杯結果ページ(新規作品部門軽量版)
keyword:2008年上半期ラノサイ杯結果ページ(既存作品部門軽量版)
「ラノサイ杯(ライトノベルサイト杯)」というのはラノベサイト管理人による人気投票イベントなのですが。その結果を眺めてみても、上位の中でラブコメといえるのは『SH@PPLE』と『とらドラ!』くらいしか見当たりません。ちなみに、『SH@PPLE』はともかく、『とらドラ!』にエロは皆無です。また、MF文庫Jの作品もほとんど票を得ておらず、ようやく『死神ナッツと絶交デイズ』が8票を獲得した程度。ちなみに『死神ナッツと絶交デイズ』はラブコメではありません。
こうしてみると、ライトノベルサイトを運営するようなマニアたちがラブコメ・エロコメ路線をほとんど支持していないことがわかります。萌え萌えエロエロした、いかにもオタク好きしそうな作品が、ラノベオタクに受け入れられないというのも、ちょっと面白い話ですが。