11月8日未明、福岡市のJR博多駅前で起こった大規模な陥没事故。地表から深さ約20mの地下では当時、NATMと呼ぶ工法で地下鉄七隈(ななくま)線のトンネルを掘削していた。設計や施工の段階で想定していたリスクとその対策は妥当だったのか、検証していく必要がある。
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高い地下水位や薄い岩かぶり。こうした地盤条件に対して、工法の選択に問題はなかったのか――。日経コンストラクションの取材で、NATMを採用した経緯と理由が明らかになってきた。
NATMとはNew Austrian Tunneling Methodの略。もともと山岳部などにある硬い岩盤質の地盤にトンネルを掘る工法として開発された。NATMによるトンネル掘削の一般的な手順は以下の通りだ。
まず、トンネルの断面を掘削した後、壁面や天井面にコンクリートを吹き付ける。トンネルの内周を補強するとともに、落石などを防ぐ役割がある。断面に沿って、支保工と呼ぶ円弧上のH形鋼などを建て込む場合もある。
次に、トンネル内から地山に向かって、ロックボルトと呼ぶ鋼材を放射状に打ち込む。地山を補強する効果があり、トンネル全体の変形や崩落を防ぐ。ロックボルトは周辺の地山を縫い付けて安定させる「画びょう」や「くぎ」だと考えると理解しやすい。最後に、トンネル内部を覆工コンクリートで巻き立てる。
掘ったトンネルが崩れないように、トンネル内部からコンクリートやH形鋼で固めるだけでなく、地山全体で支えるようにするのがNATMの特徴だ。