オラフの正体に注意して『アナ雪』を読み解く
この人はどうもアナ雪を「ありのままの自分」になる話だと思っている。
それははっきりと違います。
引用先が吹っかけてる男女議論には立ち入らないのですが、それよりもアナ雪のお話をあんまり理解出来てないままの人が結構居るっぽいのは前から気になっていました。
きちんと説明したいと思います。大好きな映画です。
オラフは何者なのか
オラフの話をします。
アナ雪のお話を理解するにはオラフの正体へ注意を払うことが不可欠です。
少なくともアナ雪を「ありのままの自分になる話」という風に思っている人達は、オラフの正体について不注意か、勘違いをしています。
オラフについて、ただのジャージャービンクスだと思ってる人は論外ですが、本質について混乱する人は少なくないはず。個人的にも最初はオラフのことを2人の絆の象徴だと思っていました。オラフ(雪だるま)が産まれたのはエルサとアナが2人で遊んだ時だったことから。何の壁もなく楽しく遊べた頃の2人の絆。
5. オラフは愛の象徴!
彼は映画の中で自分の場所を勝ち取らなければなりませんでした。ジェニファー・リー監督曰く、彼はただ登場させられたのではなくて、目的がなければならなかったとのこと。その一つが、彼こそがエルサとアナの姉妹愛の化身だったということなのです。
https://ciatr.jp/topics/219447
検索上位に出てくるサイトでもこのような見解ですし、一般的な認識から大きく外れた理解ではなかった筈。
プロットではっきり明かされるオラフの正体
しかし物語終盤でオラフがやったことはどうだったでしょうか。
いよいよ雪が強くなり政体は水面下で乗っ取られつつあるという終末状態の王国。氷結死秒読みで「真実の愛」を探すアナは、ハンスに盛大に裏切られて凍りかけます。立てなくなったアナを暖炉まで引き摺っていき延命させるのはオラフです。そして熱に自分の体を溶かしながらもオラフがアナに語ることは、「ハンスじゃなくクリストフならどう?」
クライマックスと結末を見ればわかるように、ここでのオラフの提案はベストではありません。アナがクリストフに走っていた場合、助かるのはアナだけです。エルサはコントロールを失っていく冷気の世界でハンスを返り討ちにするか相討ちになるかしたのちカタストロフを起こして自分ごと王国を雪の中に葬り去ったでしょう。
なのにオラフはあのクライマックスでやたらクリストフ推しなのです。ハンスについては邪心を見抜いて「ほんとにあいつが真実の愛なの?」と警告するのにクリストフのことはお勧めしてきます。
オラフがエルサとアナの絆の守護者なのであれば、あそこはアナが「クリストフなのかな?」と言いオラフが「そいつにいくのも違うんじゃね?」と警告する流れでなければおかしい。
オラフ=
つまり、そう、オラフは思いっきりエルサだけのアバターだったのです。
「おねえちゃんあの金持ちボンボンはあんたを愛してないことや問題のある人格を見抜いてるから認めません。」
「あっちの労働者は馬みたいな顔だけど可愛いし生活力あるしあんたを愛してるからOK出しましょう。」
「おねえちゃんは実家の問題の責任と始末があるから1人ここで朽ち果てるけどあんたは彼と一緒に逃げて自由になんなさい。」
というのがあの場面でオラフが伝えるエルサのメッセージです。
だから泣けるんでしょう?
私がアナ雪を好きなのも半分ぐらいはここです。最初オラフの正体について勘違いしていて、クライマックスで正体がわかるからもう涙が止まらないんですよ。
オラフが「抱きしめて(Hi! I'm Olaf and I like warm hugs!)」と言ってたのも思い出されます。ずっと孤独で人と触れ合えなかったから間抜けな顔の雪だるまとして本音が出ていたのがわかるんですよ。
そのお姉ちゃんの本音がまた最後の時に、妹の行く末を真剣に考えて、助言をして、体を溶かしながら逃げる為の最後の力を与えて「彼と一緒に逃げなさい」と言っている。
ここで見捨てて逃げるわけにいかないでしょう?
これはたまたま主人公が女性なだけで、兄弟であっても泣けるプロットだし、女性の解放とかそういうあやしい概念じゃないんですよ。ただ女性が主人公なだけ。恋愛とか王子様を中心に据えるパターンから脱却しているだけ。だから好きなんです。私は正直恋愛主導の話にあんまり感情移入できないので。
大きな問題を背負い押し潰されそうになりながらも心から妹のことを思いやる姉と、お気楽なアホに育ちながらもそんな姉を見捨てて逃げることは決してよしとしない妹の話は、恋愛なんていうふわふわしたことよりよっぽど尊いし胸に迫るでしょう?
ところでこのオラフの正体についての最初の勘違いと解けるタイミングが私個人のたまたまのものなのか、ちゃんと狙って設定されたものなのかはいまいちわからないんですけどね。最初から自然にオラフをエルサのアバターだと認識していた人も居るだろうし、人に感想を聞いたりネットを観測した限りではそもそもオラフについては大した注意を払ってない派が多いし。
結末とオラフとありのままの自分
それでやや脱線した話を戻しますけど、結末でのオラフに注目してください。結局女王に復位したエルサと、一緒に居るアナと、更に王国の臣民達、その間でオラフはアホな遊びをして走り回っていましたね。溶けないためのミニ雲をエルサに与えられてずっと気ままな遊びを続けていきそうでした。
一緒に見にいった人が「あれエルサが死んだ後どうなるの」と言ってましたが、もちろんエルサが死んだときはオラフも溶けてなくなります。維持のための雲が無くなるという以前にオラフはエルサの化身ですから。
エルサは”ありのままの自分”にはならなかったのです。「残念ながら社会はそこまで自由でもないけど折り合い付けて生きることを肯定したいよ」という意味なのか、「そもそもありのままの自分というのは行き過ぎであり有害な妄想(吹雪であり自分1人の氷の城)なのでは」という意味なのか、どっちなのかわかりませんが。
とにかくエルサは氷の城に1人でLet it go!する人生を選びませんでした。女王になって仕事も責任も背負ってしまいました。
でもまあ周りにそれなりに人は居てくれます。MAXに自由な童心の自分は視界の隅で夏の夢を歌ったり踊ったりアホな遊びをしたりしながら走り回って居ます。それでいいよね、*1というのがアナ雪のオチです。
Let it go!は大好きなシーンですが、あれは少なくともエルサが最終的に手に入れるものではないし、肯定できるものとして描かれてすらいないのかもしれません。そういうものをあんなに魅力的に力強く描いたところが最高なんじゃないですか。アナ雪がありのままの自分になる話だったらLet it go!はあんなに切なく素敵なシーンになってませんよ。*2
人を遠ざけアナにすら襲い掛かる猛吹雪と氷の城とそれを守る恐ろしい雪の巨人もありのままの自分であり、オラフもありのままの自分です。
エルサはどちらにもなれませんでした。
それほど悲しいことでもないけどね。
そういう話です。