教育が行政を支配するとどうなるのか。つまり、教育基本法が与党案の線で改正されるとどうなるのか。私たちはそのサンプルを既に知っている。教育行政がどれほど無知で無責任で狡猾で嘘つきであるのか。この10月に出たばかりの本だが*1、国旗・国歌法制定以来の経緯が、丁寧な実例とともに整理・紹介されている。
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- 作者: 野田正彰
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2006/10/13
- メディア: 単行本
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目次は次のとおり。右側に簡単な内容を紹介。
Ⅰ 「心の教育」が学校を押しつぶす | 「心のノート」など心理主義的ナショナリズム導入の契機となった1998年中教審答申の批判。 |
Ⅱ 「民間人校長」は、なぜ自殺したのか | 「民間人校長」をトップダウンの教育行政貫徹の道具として扱う教育行政の実態。 |
Ⅲ 「君が代」強制によって、学校はこんなに変わった | 東京都の音楽教員の「君が代」伴奏拒否に対する一連の弾圧の記録。 |
Ⅳ 思いを打ちくだかれる教師たち | 精神医学的意見書を書くための東京都教員に対する聴き取り調査。 |
Ⅴ コミュニケーションを奪われた子どもたち | 把握することが不可能なほどの複雑多岐にわたる評価項目を要求することで、形式の整った「嘘」を要求する教育行政の実態。 |
正直、読んでみて、よくぞここまで、と思うほどの呆れた内容ではある。行政が教員をいじめてて、子どもの間でいじめが起こるのは当たり前ではないか。行政がいじめを作り出し、いじめを理由として行政支配をさらに進める。まったくのマッチポンプである。是非とも内容を読んで欲しいが、さしあたり一つだけ。日の丸・君が代については個々人の思想信条もあるだろう。しかし、教職員の心身がこれほど急激に悪化しているという事実だけを見ても、都の教育行政は異常であり、かつ大失敗であることの証拠である。
文部科学省が編集する広報雑誌『教育委員会月報』の一二月号には、毎年前年度の教職員の休職数などの統計が載っている。その数年分を並べると、近年の教育行政の荒廃が浮き上がってくる。
強制の効果は歴然としている。月報から東京都の教職員についての数字を拾うと、一九九九年度、全病気休職者は二六九人、そのうち精神疾患は一四三人(約五三%)であった。二〇〇二年度は病気休職者二九九人、そのうち精神疾患一七一人(約五七%)であり、以前からの微増傾向のままであった。ところが戒厳令通達が出た二〇〇三年度、一気に病気休職者四三三人(前年度比約四五%増)、そのうち精神疾患二五九人(同約五一%増)となる。二〇〇四年度はさらに増え、病気休職者四六四人、そのうち精神疾患二七七人。二〇〇五年度も異常な数字のままであろう。
教職員数は少しずつ減らされているので、一万人あたりの比率を学校職員定数条例に基づき計算したところ、二〇〇二年度の病気休職者四八人、そのうち精神疾患二七人だったのが、二〇〇三年度には病気休職者六九人、そのうち精神疾患四二人となっている。二〇〇四年度は、それぞれ七五人、四五人である。 (pp.180-181)
【追記】若干の留保(20:54)
俗流若者論ケースファイル61・野田正彰: 新・後藤和智事務所 ~若者報道から見た日本~
↑野田氏の本と併せて、この記事も読むと良い。野田氏の本を読みながら「?」な気分も少しあったのだけれど、きちんと詰めていなかった。「野田氏もまた現代の青少年が精神的な病理状況に陥っている、と認識しており、結局のところ「心の教育」推進派と同じ認識を共有している」。後藤氏指摘のこの問題点は、最新著の中でも繰り返されているように思う。その部分は割り引いて見るべし。
*1:via. id:noharra:20061025。