ある不動産関連会社では、昼休み中にパソコンの電源をシャットダウンするというルールがあります。新入社員のTさんは、部長とランチに出た後に、電源を切り忘れたことに気づきました。
部長はルールに厳しく「ちゃんと切るべきだ。今すぐ戻れ」と言います。
仕方なくビルのエレベーターを使い、オフィスに戻り電源を切るなかで、Tさんは「ここまでする必要ある?」と疑問を感じます。
その日の午後は部長と一緒に外回り。
社内で必要な書類にお客様から印鑑をもらいます。
しかし、お客様が印鑑を持っていない。
すると、部長はカバンの中から認め印を100個近く出し、1つを選んでお客様に貸していました。
珍しい姓で、部長が印鑑を持っていないときには、「T君、あそこの100円ショップに売っているか見てきて」と指示。
自分の印鑑ですらない。社内で使う書類なのに、ここまでしてハンコが必要?
部長に質問すると
「そういうルールなんだよ」
これ、説明になってないですよね。
このルール部長、報告書を出しても「書式が違う」「記入方法が違う」と細かいんですよ。
ああー、めんどくさい!
一貫性
そんな気持ちになったときは、本棚から『スラムダンク』24巻を取り出してみましょう。有名なバスケットボールマンガです。
エースの流川楓が片目をケガし、遠近感がつかめないのにシュートをスパッと決めたり、目をつぶってフリースローを決めたりするシーンでのセリフです。
「何百万本も打ってきたシュートだ」
反復練習を続けることで、身体が動作を覚え、型ができるのです。
そうすれば、視覚に問題が出ても、身体が反応してくれます。
これは、スポーツに限りません。
脳も同じです。
同じ仕事を続ければ、型ができ、スピードが速くなるでしょう。
目をつぶっても傾きなくハンコを押せるはずです。
「何百万回も押してきたハンコだ」
しかし、徐々に頭が固くなってきます。
やがて頭がカチンコチンになると、型どおりの仕事はラクにできるものの、型から外れた仕事には対応できなくなってしまいます。
人は、過去と一貫性を持って行動します。なぜなら、過去と同じことをしていた方が考えなくていいのでラクだからです。
木を見て森を見ず
ルールやマニュアルを徹底していくと、自分の仕事だけしか見えなくなります。
マニュアルがないときは、どうすれば問題が出ないか考えながら全体のことを考えながら仕事をしていたのに、マニュアルができたら、その通りにやれば良くなりました。
ラクにできるので仕事は早くなります。
しかし、マニュアル以外のことに対応できなくなりました。
とにかく目の前の行動に集中。昼休み前にパソコンの電源を切る行動に集中してしまいます。ちゃんと行動するためには、エレベーターを往復させたり、時間を使ったりするのも気になりません。
「一貫性」と「木を見て森を見ず」により、頭カチンコチンのルール人間が大量生産されてしまうのです。このようなルール人間から、理不尽なルールを押しつけられたら、どう対抗すれば良いでしょうか?
フレーズ1「何のため?」
私たちも行動に集中し過ぎて、「何のため」にしていたのか、忘れてしまうことは多いです。
久しぶりに彼女ができたIさん。
デートの際、楽しい思い出を残しておこうと、たくさんの写真を撮りました。
ところが、帰り際に、彼女が誤操作であなたが撮った写真を全消去してしまいました。
「は!?信じられない」と大きな声を出してしまい、険悪なムードに。
ちょっと待ってお兄さん!
「何のため」に写真を撮っていたんだっけ?
→楽しい思い出。
ケンカしたら、そもそも楽しくなくなるじゃないですか。
5歳の子を持つパパTさん。
たまの休日に子どもと遊びます。子どもがやりたいというゲームで一緒に遊んでいました。そのゲームを分析したところ、効率的に進めるには、まず自分がレベルを上げてから、子どもと遊んだ方が良さそうです。その仮説に基づき、必死にレベル上げをします。子どもが「パパ、ボールで遊ぼうよ」と言っても、「いま、レベル上げなきゃいけないから、後でな」
ちょっと待ってお父さん!
「何のため」にゲームを始めたんだっけ?
→子どもと遊ぶため。
あなたの子ども、なんだか寂しそうにしてますよ。
私たちは、つい行動に集中してしまい、「何のため?」という趣旨を忘れてしまいます。仕事でも同じです。
半年後に海外勤務予定のFさん。
1日1時間、英語の勉強をすることに決めました。
残業後の疲れている状態で、睡魔と闘いながら、とにかく英語の資料を開きます。
「よし、1時間経過。今日はここまで」
これ、ただの自己満足。
多くの人が、行動だけに集中してしまい、「何のため」の行動だったのか忘れてしまいます。理不尽なルールを振りかざすルール人間は、マニュアルの行動面に集中してきたため、趣旨を忘れてしまっていることも多いです。
そんなときは、「何のため?」のルールだったのか、思い出させてあげると良いでしょう。趣旨に立ち返ってムダであることが分かれば、ルールそのものを変えてもらえるかもしれません。
パソコンの電源を切るルールが、節電目的であれば、エレベーターを使ってまで戻るのは、その趣旨に合いません。
郷に入れば郷に従え
新天地では、そこのルールに従おうということわざです。
こんなことわざができたのは、新天地では新人はルールを知らないからです。
ということは、逆にチャンスです。
新入社員、転職、部署異動などで新天地に行ったときには、そこのルールを偏見なく見ることができます。先入観なくルールを見ることで、おかしな点を見つけられるかもしれません。
新人ならではの視点で、「何のため?」と聞いてみると良いでしょう。
フレーズ2「時代は変わったのでは?」
社内のルールだけではなく、自分の習慣から抜け出せない人もいます。
上場企業に勤務し、年収1000万円以上。うらやましい。
と思いきや、多重債務でカードローンに苦しんでいる人も多いです。収入があると借金もいっぱいできるから、利息だけで年100万円以上払っていたりします。
そんな借金の理由を聞くと、部下におごりすぎて苦しいと言います。
かつては会社から交際費を支給されていたのですが、業績悪化によりそれが止まってしまい、自腹でおごり続け、足りなくなりローンを利用しているというのです。
部下と飲みに行く理由を聞くと、「やっぱり部署内のコミュニケーションをよくすると、仕事がうまく進むんですよ」と言います。
ちょっと待って部長さん!
頭の中は、ローンの返済のことだらけ。
「やばい、次の返済どうしよう……。いや、でもまた週末の飲みが……」
仕事に全く打ち込めていません。
何のために身を削ってるのでしょうか。
「部下を誘うなら、上司がおごる」という習慣にこだわり過ぎかもしれません。
古い習慣にしがみついている人を見かけたら、「時代が変わった」ことを伝えてあげると良いでしょう。
フレーズ3「シロートですから」
頭が固い人は、相手を型にはめて考えがちです。
「キミ、B型だからかー、変わってるよねえ」
「女だから結婚して30くらいで辞めるんだろ?」
「男なんだから、もっと野心を持て」
こんなふうに、相手をカテゴリーごとに分類して、自分の価値観でまとめてしまう人です。
そろそろB型でフツーの人、バリバリ仕事をしたい女性、平和主義の男性たちが全国各地で集団訴訟を起こしてもおかしくありません。
こんな人たちは、仕事でも無理を言ってくることもあります。
「営業なんだから、うちの言うこと聞いてよ」
「部下なんだから上司に逆らうな」
こっちが仕事で全力を尽くそうものなら、
「会社員なんだから、そこまでしなくていいよ」
とブレーキをかけることもあります。
何でしょう、そのカテゴリー思考。
相手の言っている「型」が古い!と感じるときは、時代が変わったことを伝えても良いですが、せっかくなので相手の「型」で考える型に乗っかって、「シロートですから」としらばっくれてみましょう。
「会社員なんだから、そこまでしなくていいよ」
「そうですか?新人なんで会社員がそういうものだなんて分かりません」
と相手のカテゴリー思考に気づかないふりをしてサラリとかわしてみてはいかがでしょうか。
シロートがムードを変えて成果を出すこともよくありますしね。
まとめ
頭がカチンコチンのルール人間に対しては、
「何のため?」という趣旨を確認、それが時代に合っているかのチェック、相手のルールに乗らないシロート思考が有効です。
ルールは使い方次第。うまいこと使っていきましょう!
P.S.
高校の陸上部時代、色白のわりには足速いよね、と何度も言われました。
今回のルール人間も、書籍『めんどうな人をサラリとかわしテキトーにつき合う55の方法』で取り上げています。ぜひチェックしてみてくださいね。
著者:石井琢磨
『めんどうな人をサラリとかわしテキトーにつき合う55の方法』著者。弁護士。幼少時から家族が次々と壺を買わされるという、ダマされ環境で育つ。偏差値35から中央大学法学部に合格。在学中に司法試験一発合格、消費者事件を中心に活動中。
ブログ「相模川の弁護士55」
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