それを全世界の共通認識として話を進める。今更スプラトゥーンの評価について語る必要はないだろう。もし未プレイかつ少しでも興味がある方がいるのであれば、今すぐにでもポチるべきだ。
この記事で自分は、「なぜスプラトゥーンは楽しいのか?」について語ろうと思った。
しかし、これがまた非常に難しい。なぜなら全方位において優れ過ぎているからだ。ゲームルールの秀逸さ、世界観の面白さ、ゲームバランスの良さなどなど…、全部語ろうとすれば本が1冊出せるほどの物量になってしまう。
なので今回は、焦点を絞って「なぜスプラトゥーンは『塗る』ことがこんなにも楽しいのか」について語らせて頂きたい。
「インク銃で街を塗る」に含まれるたくさんの「楽しさ」
『スプラトゥーン』は、水鉄砲でインクを撃って街を塗りつぶすゲームだ。4対4のチームに分かれ、塗った面積で勝負を競う。イカに変身すればインクの中をスイスイと泳ぐことができる。子供は塗り絵で遊ぶ。また、プールで水をかけあって遊ぶ。地面に氷が張っていたらそこを滑って遊ぶ。また、単に散らかすだけの行為も遊びになる。ラクガキは子供もするが、大人の中にも街にラクガキする人がいる。大人だって雪の上を板で滑って楽しむ。これらは全て「遊び」であり、その行動原理は本能的に感じる「楽しさ」によるものだ。
そして、スプラトゥーンはそれらを全て含んでいる。スプラトゥーンの「塗る」というアクションは、ラクガキであり、塗り絵であり、水遊びであり、散らかす行為でもある。イカでインクの中を泳ぐのは、どちらかというと氷や雪の上を滑る楽しさに近い。
インクを撃って床や壁を塗る。スプラトゥーンの基本アクションである「塗る」行為それ自体がまず、人間の本能に基づいた「楽しさ」がたくさん詰まったアクションなのだ。だから塗るのが楽しい。
また、犬は電柱におしっこをかけて縄張りを主張するし、人間にも同じような縄張りの意識はあるはずだ。オフィスに食玩のフィギュアを並べるのは、そこが自分の場所であるということを主張するためなのだと思う。
スプラトゥーンの「ナワバリバトル」という対戦ルールは、「縄張りを守りたい、広げたい」と考える生き物の本能に基づいたデザインだ。そして、ナワバリを主張するための行為が「塗る」なのだ。
また、敵チームのインクで塗りつぶした場所を自チームのインクで塗り替えす作業は「掃除」に通じるものがあるとも感じる。敵チームの「嫌な色」を綺麗に消していくのは、掃除のスッキリ感に近い。
このように、スプラトゥーンの「塗る」という行為には、人間の本能的な部分で気持ちよい、楽しいと感じる要素がたくさん内包されているのだ。だから塗るのが楽しいし、だからスプラトゥーンは楽しい。
ゲームデザイン的にも「塗るメリット」がたくさん用意されている
ここからが本題だ。スプラトゥーンは、インクを塗る行為に対して、沢山のメリットが用意されている。プレイ済の方は既に理解しているとは思うが、床や壁を塗ったときに生まれるメリットについて箇条書きで個別に解説したい。高速移動
インクに潜れば高速移動が可能。行きたい場所に素早く向かえるし、敵の攻撃を避けることにも使える。周囲の広い範囲がインクで塗りつぶされていれば、敵が使ってくる全てのスペシャルウェポンは回避可能だ。ハシゴ
壁を塗ることで、その部分をつたって高台に登ることができる。ショットは基本的に重力で下に落ちるため、このゲームでは上を取ることが非常に有利だ。弾薬の補給
インクに潜るとインク(弾薬)を補充できる。インクは自然回復するが回復速度は非常に遅いため、定期的にインクに潜って補給するのが基本となる。付近にインクがあればいつでも補給可能だ。隠れる
イカになってインクに潜れば同化して敵から見えなくなる。移動すると飛沫でかすかに見えてしまうが、移動しなければ完全に見えなくなる。これを利用して不意打ちをしたり、隠れてやり過ごすなどが可能。敵の足止め
インクで床や壁を塗る行為は、敵の移動を妨げる効果もある。相手チームのインクの上は足が取られてまともに歩けず、また隠れたり弾薬補給もできなくなる。地面を自チームのインクで塗りつぶしておくことは敵の行動範囲をせばめる効果があるということだ。移動範囲の拡大
前述の通り、敵インクの上は歩けない。そこを自インクで塗り替えしてしまえば、そこも普通に移動できるようになる。インクで床を塗る行為は、行動範囲の拡大に繋がる。レーダー代わり
ゲームパッドに表示されるマップ画面には、両チームのインク塗られ状況がリアルタイムに表示されている。また、大多数のプレイヤーはインクで地面を塗りながら進行してくる。つまり、マップをよく見ておけば、敵がどのルートから攻めてきているかが一目瞭然というわけだ。インクを撒いておけば、それがレーダーとして機能する。スペシャルゲージの増加
戦況を覆すほどに強力なスペシャルウェポン。それを使用するためのゲージも、インクで地面を塗った面積に応じて増加するシステムだ。勝利点
基本ルールである「ナワバリバトル」では「制限時間が切れた時点でどちらが広い面積を塗っていたか」で勝敗が決まる。つまり塗ることは勝利に直接的に繋がる行為ということだ。お金
試合終了後、塗った面積がそのままお金としてゲットできる。基本モードである「レギュラーマッチ」では、勝ったらボーナスはあるものの、勝敗に関係なく塗った面積分のお金が貰える。塗る行為はお金を稼ぐことに直結している。経験値
お金同様、塗った面積がそのまま、ランクを上げるための経験値となる。また装備に付いているギアパワーも経験値の蓄積により解放されていく。これも貰える量は塗った面積に比例する。名誉
「ナワバリバトル」では、試合終了後、リザルト画面に塗った面積が大きく表示され、最も多く塗ったプレイヤーが一番上に表示される仕組みとなっている。塗った面積で勝敗が決まるゲームではあるが、勝つためには敵を倒したり、敵を牽制したり、復活ポイントを確保するなど貢献できることは多い。しかし、少なくともナワバリバトルでは「塗った面積のみ」を褒める作りとなっている。
ここに挙げただけでも12個ものメリットがある。インクを塗れば動きやすくなる。インクを塗れば戦いが有利になる。インクを塗れば勝てる。インクを塗ればお金が貰える。「インクで地形を塗る」たったひとつの行動に、これだけ多くのメリットが込められているのだ。
最初に挙げた、インクを塗る行為自体の気持ちよさに加え、この大量に用意されたゲーム的なメリットの数々。それこそが「インクを塗る=楽しい!」と感じる理由なのだと自分は思う。
そして、あらゆる行動が「塗る」ことに収束していく
先ほど紹介した12点の「塗るメリット」だが、それらは実は、いずれも最終的に「より効率良く塗れる」という結果に収束するようになっている。イカダッシュや壁登りは、効率良く塗り進めるためのものだし、弾薬を補給するのもインクを塗るために行う行動だ。敵から隠れたり、逃げたり、足止めしたりするのも、敵という「塗るのをジャマしてくる存在」を無力化し、塗りに専念できる時間を少しでも長くするためだ。
このゲームでは、敵を倒すことすらも「塗る」ために行う行為だ。敵を倒してもスコアは入らないし、敵をいくら倒しても評価されることはない。あくまでも「塗りをジャマする存在を排除する」という意味合いでしかない。
ただし、敵を倒すことで得られる唯一のメリットがある。それは「敵から自チーム色のインクが飛び散る」という点だ。敵を倒したご褒美として用意されているのも「塗れる」というメリットなのだ。「敵を倒すのが目的」なのではなく、あくまでも「塗りたいから敵を倒す」という作りになっているのだ。
戦いに勝利して、お金や経験値を稼ぐのは何のためか。ブキやギアを購入、強化、カスタマイズしてより最適に戦えるようにするためだ。何のためにカスタマイズするのか? それはもちろん「より効率的に塗るため」だ。
あらゆるアクションが「塗る」に繋がり、「塗る」ことで様々なメリットが生まれる。そのメリットを活用して、さらに「塗る」。そしたらさらにメリットが生まれ… という循環が生まれている。
図にまとめるとざっくりこんな感じだ。
重要なのは、この循環の途中で全てが一旦「塗る」という点に収束することだ。全ての楽しい循環を生み出す根っこに「塗る」が存在している。塗ればあらゆる事が解決し、「塗り」により生まれるメリットによって、さらに次の「塗る」を目指すことができる。このサイクルがあるからスプラトゥーンは「塗る」ことが楽しいし、その繰り返される楽しさにハマって何度もプレイしてしまうのだ。
スプラトゥーンが受け継いだ、マリオの収束型ゲームデザイン
実は、このスプラトゥーンの「塗る」楽しさとまったく同じ構造を持っているゲームがある。それが『スーパーマリオブラザーズ』だ。マリオも、「ジャンプ」をすることで様々なメリットが発生するように作られている。ジャンプすることで穴を飛び越え、ジャンプすることで敵を倒す。アイテムを出すためにブロックを叩くのもジャンプだ。ゴールのポールも、ジャンプで飛びつくとスコアが高い。
だからマリオのジャンプは楽しいし、だからスーパーマリオは面白い。
マリオのゲームデザインについて、詳しくはこちらを参照 『スーパーマリオ』のファイアはなぜ斜め下に落ちるのか / ハンマーブロスは「伏線」だった
http://togetter.com/li/25699
Webで読めるスプラトゥーン関連記事を読む限りでは、スプラトゥーンは若手スタッフが中心となって制作されたもので、どうやら宮本茂氏はスプラトゥーンにあまり関わっていないようだ。
宮本氏がいなくてもここまで素晴らしいゲームを作る事ができた。そしてそのゲームデザインが偶然か必然か、見事にマリオのゲームデザインを踏襲している。それはつまり、宮本氏が持っているゲームデザインのノウハウが、新しい世代に見事受け継がれたということを証明しているのではないだろうか。
新たな時代が、切り開かれようとしている。
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ちょっと論理が飛躍しすぎでは?
返信削除>大人の中にも街にラクガキする人
はごく一部ですし、塗ること=本能的な楽しさ、の説得力に欠けます。
犬がおしっこで縄張りを主張するのは確かですが、そこから生物として完全に別種の「人間」に飛んでいるのも解せません。例えば、人間には住処を悟られないように巣穴から離れた場所で排泄するような本能はありません。机をフィギュアで飾る人も、ごく一部でしょう?
そもそも、スプラトゥーンが面白いことは同意ですが、自分は「塗ること」が面白いとは思っていません。
ガチバトルでは「塗る」要素は薄くなりますし、ビーコンやセンサーなど、自身で塗ることに直結しないウェポンも多く存在します。
どうも、「塗る」=面白いと自分の中で仮定ではなく結論して、その結論ありきで話している気がするのですが、どうでしょうか。
「塗ること」がおもしろくないのであれば、別のTPSをやればいいと思うのですが、イカがでしょうか
削除落書きは本能的な楽しさですよー
削除子どもとかみんな落書きするじゃなイカ。
みんな落書きしたいんですよ。
僕も落書きしたかったんですよね。
待ってましたスプラトゥーン。
イカ、よろしく〜!!!
最初に面白い事の全部を語るのは難しいから
削除塗ることだけに絞って話します。
って意味のことが書いてあるよ。
スプラトゥーンは塗ることも敵を倒すことも楽しい。
でも他のTPS/FPSでは気づけなかった
敵を直接撃たなくても良い所について言及したくなるのは
自然じゃない?
本能的な楽しさかはともかく
削除大人が落書きしないのはモラルとかそう言うので抑え込んでるからだろ、楽しくないと言う否定にはならない
まあ、大人の落書きはそう言う禁止行為を犯すと言うスリルの楽しさですから、リアルでは出来ない分ゲームで思う存分やれると言う楽しさではありますね
コメントどうもです。
返信削除「塗ること=本能的な楽しさ」の例についてはざっくりと説明しましたが、大筋は同意していただけていると思いますので、同意できない例があったとしても適当に流して頂ければ。本筋ではありませんし、専門家ではないので個々に議論するつもりはありません。
「塗ること=楽しい」というのは仮定ではなく前提として書いています。自分自身プレイして「塗る事が楽しい!」と感じましたし、他の方もそういう意見が非常に多いと感じています。「塗ることが楽しいと感じる。それはなぜか?」について書いたのがこの記事です。
歩兵になってリアルな画面で敵の頭を吹き飛ばすゲームは親として子供に買い与えにくいと思います。
返信削除FPSやTPSの良さをなくさずにこのヘッドショット問題をクリアする手法として日本ではガンダムなどのロボットを導入していますが、これは日本限定の回避だと思います。
スプラトゥーンはこの問題を世界に通用する手法で回避した。
水鉄砲的な楽しさはありそうですね。
考察してる自分に酔ってるだけな感じが。
返信削除「塗りに収束していく」って部分だけど、塗る行為を発端に開発スタートした訳じゃないだろうしゲームデザインはもっと包括的に考えて当たり前でしょう。他のFPSTPSがやってない事ではないし。図解の「塗る」も「撃つ」に置き換えたって成立してるし塗りだけで取り上げるなら他のFPSで「撃つ」行為と比較して考えた方がよかったんじゃない。
> 図解の「塗る」も「撃つ」に置き換えたって成立してるし
削除まあ経験値とか敵がどうとかは他のFPSでもあるかもしれないけど、
移動が高速になったり高いところに登れるようになったりリロードが高速化したりはしないでしょ……。
ここまで色々な要素をワンアクションに詰め込んだっていうのは実際すごいことだと思うよ。
公式の「社長が訊く」は読みました?
削除塗る行為を発端に開発スタートしてますよ。
インクを床に塗ることで陣地を取り合う陣取りゲームが基本になっているので、そもそもFPSTPSシューティングとして語ること自体が間違いですよ。
http://d.hatena.ne.jp/hamatsu/20140623/1403508107
返信削除この記事思い出した
エントリーの内容にもあるように、(ナワバリもガチも)塗って潜りながら進む、塗って登って撃つ、塗ったところに潜んで撃つという動作が出来たほうが勝利し易いのは事実です。
返信削除それプラス、対人戦ゲームが楽しいのは昔から言われていることですが、そこで問題になるチャットによる暴言や誹謗中傷を排除している作りが優秀だと思います。
フレンド申請をしない設定にすれば、自分に向けられる悪意をほぼ完全にシャットアウトできます。