未発表オリジナルの創作小説・イラストを募集します。
応募者全員に共通する課題テーマは「萌え」(具体的には、少なくとも一人は美少女キャラが登場すること)、課題モチーフは「夏」「姉」「妹」「幼馴染」から選択(複数可)してください。
400字程度(プラスマイナス一割程度の誤差は可です)の日本語文章、または一枚絵(最大600×600のサイズで、jpg・gif・pngのいずれかの形式)を、回答で掲示(イラストはリンクで可)してください。
創作物の紹介ではなく、書き下ろしでお願いします。他人のコピペは回答拒否のペナルティ。投稿作品は「萌え理論Magazine(http://d.hatena.ne.jp/ama2/)」または「萌え理論Blog(http://d.hatena.ne.jp/sirouto2/)」へ転載することを予めご了承ください。選考の結果、最も優れた作品には200ptを差し上げます。
その他細かい事項はhttp://d.hatena.ne.jp/ama2/20060728/p1を参照してください。質問はこの記事のコメント欄でどうぞ。
『夏』
もうすぐ八月といっても、雨のふった後はけっこう涼しくなるものだ。その子は人ごみが苦手だから、祭や花火大会に連れて行ってやることはできない。だからこんな雨上がりの夕方は、外に連れ出してやりたいとおもうのだ。
「ほんとだ、涼しいね。外に出てよかった。」
「でしょ。きょうは鴨川を北に上ってみようよ。行ったことある?」
「ううん。」
親父が二年前に再婚して、その再婚相手には一人娘がいたのだが、今年の春、その子が僕の近所の大学に入学して、一人暮らしを始めたのだった。
川沿いの道は、雨に洗われた緑のひろがりに囲まれていた。遠くには鞍馬山の小さな連なりが見える。
「お兄ちゃん、明日からまたしばらく仕事だよね。」
「うん。」
「偉いなあ。わたし、将来どんな仕事をしたいか、ぜんぜん分からない……。」
「でもまだ一年生だし。」
「うん、そうだね、もっと楽しまなきゃ。でも、夏、どんどん過ぎていっちゃうなあ。」
その子の黒い大きな瞳は、遠く向こうの緑を見ていた。
「彼氏、早くできるといいね。」
その子は振り返った。
「彼氏は、いらないよ。」
こうして、僕らの長い夏がはじまった。
タイトル:俺と妹と砂浜と
「お兄ちゃん、一緒に海に行こうよ♪」
というかわいい誘惑によって来てしまったが。
「何だよ。海水浴じゃなくて、砂浜掃除かよ」
「お兄ちゃん、わたしの水着でも見たかったの?」
「バ、バカいえ。お前の水着姿なんて見たいかって」
そう言って俺は別のところへ行った。
しばらくして、砂浜掃除は終わった。
「砂浜、きれいになったな」
「そうだね、お兄ちゃん。じゃあ、わたしもきれいになっちゃおうかな♪」
そう言って、突然服を脱ぎ始めた。
しばらくして俺の目に飛び込んできたのは。
妹の水着姿だった。
「お兄ちゃんはスクール水着の方がお気に入り、なのかな?」
妹が少し、不安そうな表情を見せた。
俺は慌てて首を振った。
「ううん。すごくかわいいよ! すごく似合ってる!」
「ありがと。おにいちゃん」
そう言うと、妹は俺の手を引っ張った。
「さっきはわたしのワガママきいてくれたから、今度はお兄ちゃんのワガママきいてあげる!」
俺は妹のかわいらしいお礼を、素直に受け入れることにしたのだった。
(俺と妹と砂浜と・完)
では講評を開始します。まず最初の作品。スタンダードで、どこが悪いということはないんですが、もう少し意外性が欲しいですね。
「突然服を脱ぎ始めた。しばらくして~妹の水着姿だった。」とありますが、いくら海水浴じゃないと前置きしても、最初に題名の「砂浜」を見た時点で予想の範囲内だと思うので、こういったところでは読者は驚かないでしょう。
最後の「ワガママ」というのは、たぶん海水浴なんでしょうね。それ以外はスラスラ読めます。が、「妹が少し、不安そうな表情を見せた。俺は慌てて首を振った。」も抜いてしまって構わない感じですし、全体的にやや薄味な印象です。
『It's my sister』
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「おっはよー」
わざわざベッドの中で挨拶してくるこのバカは俺の義妹であるわけで、お兄ちゃんとしは将来が心配ですよ。
「えへへっ」
いや、笑ってないで早く部屋から出て行きなさい。正直、俺の着替えの邪魔。
「お兄ちゃん」
だから、お前はどうされたいのかと。朝からそんなことはしたくはないのですよ。うん、そう、また今度ね。
あーもう、ようやくベッドを抜け出した俺に上目遣いでおかしな要求をしないでくれ。学校に行かなきゃ行けないの。
「お兄ちゃんは私と居るのは嫌なの」
いや、天に誓ってそんなことはない。断言できる。だからいい加減着替えさせてくれって!
「むぅ…」
布団を被って見えないつもり…って、見てないから着替えろと?既に制服姿のこのバカが羨ましいのは何か間違っているんだろう。うん。
制服に着替える途中も誰かの視線をひしひしと感じた。
「もう学校の時間だよ?」
そんなことは分かっている。毎朝、俺を遅刻寸前まで追い込むのはどこの誰だ。
六畳一間の狭苦しい部屋の扉に鍵をかけて学校へ向かう。
こんなだからいつまでも彼女できないんだろうなぁ。
扉を閉めるときにも、俺の愛用抱き枕は今日も変わらず微笑んでいた。
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どうにか400文字+一割の範囲内には収まりました。
叙述トリック的に、妹は抱き枕でしたという落ちですね。最後に、制服姿の義妹がいながら、部屋に鍵を掛ける時点で抱き枕が確定したということなのでしょうが、それでもやや無理があるし、伏線とかもう少し欲しいですよね。リアリズムに固執しなくてもいいですが、例えば発話があるのは音声付きの抱き枕だったみたいなことかな。あと「お兄ちゃんとしは」は「としては」(校正)。
確かにオチは重要ですが、例えば前回のセミのオチと違って、ただのサプライズで、しかも一人芝居ですから、内面の拡がりがないですね。形が綺麗にまとまっていても、二人以上の関係性を描いた作品よりどうしても世界が狭くなります。モノローグよりダイアローグ。バフチン。
メタ萌えというか、萌えの対象に萌えている人自体には萌えないことが多いですね。痛さを通り越している感じは良い(良くない)ですけど。音夢の抱き枕の人みたいな。そこで今回の場合もし私なら、抱き枕と思わせて妹だったという逆の落ちにしますね。「抱き枕」というのは通称(これはひどい)。
すみません。
どちらかを選べなかったので、二本投稿させていただきます。
よろしくお願いいたします。
『弱点』
ロフトへと続く、急な階段を登る。
チトセが背中を向けて、あぐらをかいていた。
一心不乱にジグゾーパズルを組み立てている。
私が登ってきた事にも気が付かない。
天窓からの日差しが、チトセの上に落ちている。
冷房の届かないこのロフトは、そりゃもう、かなり、暑い。
そっと近付く。
ホルターネックの背中にアイスの袋をくっつけた。
「ひゃああ!!」
「あはははは!」
チトセが泣き出しそうな顔で振り向く。
「お姉ちゃん! 何するのよぅ!」
「ん」
持ってきたアイスキャンデーを、目の前に差し出してみせた。
「う、ありがと……」
「それ、面白い?」
「すっごい大変――」
チトセはアイスをくわえて、パズルの方に身体を直した。
無防備な背中が目の前。
私は低い天井に手をかけて、上からのぞき込む。
くわえたアイスキャンデーから、一滴しずくが垂れた。
「ひゃあああ!!」
「あはははは!」
チトセの弱点は知っている。
彼女の背中に落ちた白いしずく。
私はそれを指先で拭き取り、口に含んだ。
(411文字)
『付き合うとか付き合わないとか』
窓から、常夜灯の光が差し込む。
狭い布団部屋。
動かない空気に肌が汗ばむ。
リサとユッコは、テレビの話をしている。
僕はコウと学校の話で笑い合う。
「好きな子できたか?」
「いないよ」
僕は即答する。
「えー、そうなの?」
ユッコが、いきなり割り込んできた。
「じゃあ、付き合ってる子いないの?」
「あ、当たり前だろ」
今年、小学校を卒業したばかり。
半年ぶりの同窓会。
消灯時間を過ぎてから、二人に誘われこんな所にいる。
二年同じクラスだったけど、リサともユッコとも話なんてした事がなかった。
僕だけ遠くの中学に進み、コウと会うのも半年ぶり。
「付き合ったりしないの?」
「付き合ってるヤツとかいないから」
「えー、ウソだー」
ユッコがコウをチラチラと見る。
そういう事か。
ため息をついた僕を、リサがいきなり下から覗き込む。
スパッツの太腿が足先に触れる。
「あたしなら、付き合うんだけど」
強気な言葉に僕は怯む。
逆光でリサの表情は見えない。
「興味ないよ」
僕は慌てて足を引っ込める。
動揺を悟られないように顔を背ける。
布団が、小さく揺れた。
(446文字)
一本目、前回も触れましたが、アイスキャンディをセクシーに使うのはエロを直接描けない場合の常套手段ですね。「ロフト」という単語一つで、二人だけの私的空間にいる雰囲気が効率的に出せます。こういうのが400字で収めるコツですね。「アイス」自体はベタベタなネタなんだけど、「アイス」に対して「パズル」を配置する対比が光ります。何かこう、パズル(答えを出す理性)からアイス(冷たいという感覚)に向かうみたいな。
二本目、「僕」「リサ」「ユッコ」「コウ」と400字で少なくとも四人の登場人物を出してますね。かなり難しいことに挑戦しています。これは同窓会ですが、修学旅行で夜ヒソヒソ話をするみたいな、私的空間の舞台設定がやはり上手いです。中学生になって半年という微妙な年代とか、設定が上手いし、「『いないよ』僕は即答する。」とか子供の視点で見ている細部も上手いですね。今回も文章が透明で読みやすいです。
「アレルゲン」
えー、このたびは「真夏の美少女コンテスト・決勝大会」への進出、おめでとうございます。
ところで、まあ、その、何といいますか……同じ美少女といえども、30人も集まれば、おのずとその優劣がハッキリしてしまうと申しますか、一概に美少女といってもピンからキリだなあ、というのが選考委員長としての私の率直な感想でありまして……あ、そこの美少女17番の人、不安な顔をしないように。別にアナタが劣っているとかいう話ではないですからね。
あ、そこの美少女29番の人も。アナタは、自惚れが表情にあらわれるタイプみたいだから、気をつけたほうがいいですよ。
えー、おほん。
つい、話が横道にそれてしまいま…へっぷし!
あ、失礼。
まあ、とにか…へっぷし!
ちょっとお待ちくだ…へっぷし!
ハハハ…お恥ずかしながら、私は「萌えアレルギー」でありまして、美少…へっぷし!…美少女とか幼女とかが近くにいる…へっぷし!…くしゃみが止まらな…へっぷし! へっぷし! へっぷし!
(終)
以前より、第2回開催を楽しみにしていました。
参加できて嬉しいです。
これもメタ萌えというか小話系ですね。それは基本的に変化球の手法で、やはり司会に注目しても萌えないところです。
あとくしゃみをするだけでは読者が想像で遊ぶ余地がないですね。遊ぶというのはどんなのかといえば、美味しんぼにおける海原雄山みたいに、美少女通が勝負するみたいな話とか。舌の上でシャッキリポン。
タイトル:田んぼの国からやってきた若苗の子
「夏休みの間、こちらでバイトさせて頂く萌緒です。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく。いやあ、こんな可愛い子が入って嬉しいよ」
「萌緒さんは店長の孫なんだってね。ホント、名前通り、萌ちゃんは萌える子だよな~」
「……………」
「うん、萌える萌える。萌緒ちゃんって、なんか長門さんに似てる感じだよね」
「似てる似てる、本読んでるとことか似合いそうだよな」
「メガネっ子だし!涼しげな感じもまんま初期長門さんだよね。萌えるよ~」
「ああ、やっぱり夏服でショートで眼鏡で寡黙な感じは最高の萌え要素だな。萌えの四大要素だ」
「ああ、眼鏡かわいいよ眼鏡!」
「……………」
「たなちゃん、ちょっとこっち手伝って」
「ん、なんで萌緒さん行くの」
「萌えオタ萎えですから」
「えっ」「えっ」
(終)
後書き:気軽な萌え小話です(^^)
萌緒田苗です(笑)
色々惜しいです。まずオリジナル勝負なので、「長門」さんの情報はなしで扱います。また後書きは作品の評価外で(例えば作者が後書きで犯人を明かすミステリみたいな)、「萌緒田苗」は謎のままにしておきます(「萌緒+たな」までは情報があるので、結末は理解できそうですが)。そして普段のkagamiさんのブログを読めば、萌えオタに対する諷刺的な面白さを読み込めますが、それは少し贔屓なので、あくまでこの400字のみで判断します。
たくさん本を読んでいて頭の良い人がメタ萌えをやりたくなるのは分かるんですけど、やはり賞の選考的には、物語の展開や小説的な描写がある方が正統派かなと思います。でもまあ気軽な小話もあって幅が広い方が読者が楽しめますね。
タイトル「夏娘」
http://www.jtw.zaq.ne.jp/cfedh601/00/moeri.jpg
イラスト応募です、課題モチーフの「夏」で描きました。
夏といえばなんだろうなぁと考えて思いついたものを詰めてみました。
よろしくお願いします。
唯一のイラスト作品。上手いし丁寧に描かれています。夏を感じさせる淡い色合いが素敵です。コンポジションのバランスが良くて流麗なので、何か雑誌の表紙になっていてもおかしくないですね。完成度が非常に高い作品です。
ただ…人体のプロポーションとしては上半身に対して脚が短めで、しかも矢印型(↓)の構図のために脚に視線が行きますが、ポーズがつま先まで決まってないですね。車から降りるシャンプーのCMみたいに、スラっとした脚を見せれば完璧でした。
そんなこんなで画面下部に視線が滞留して少々圧迫感があるので、画面外に断ち落としてもいいかなと思います。モチーフが枠内に収まる絵画的画面もいいのですが、こう夏は開放的な気分で。
タイトル『素人2.0』
「姉ちゃん、なんで萌理賞なんて始めたの」
「好きだから」
電光石火で即答された。モニタを見つめる横顔が凛々しい。うちの姉は id:sirouto2 名義で萌え関係のサイトを作ってる。家族の前ではネット話はしないが、ヒット記事を書いたときは機嫌がいい。鼻歌で『さくらんぼキッス』なんか歌ってたりする。いまやってるのは"萌理賞"だ。はてなで小説を募集する企画で、割と評判がいいらしい。ま、主催者は選考でひどく苦しんでるけど。ふだん冷静な姉がモニタの前では簡単に一喜一憂する。かわいい。
「いやだ、また xx-internet が来た…」
なだらかな眉が歪む。姉曰く、"萌えが分からないと言いつつ毎回萌理賞に全然萌えない小説を出してくる狂人"だそうだ。激怒しつつもきっちり講評を書く姉がかわいい。
「 xx-internet のやつ、絶対わたしにケンカ売ってるのよ……。イラつく……」
申し訳ない。オレが xx-internet なんだ。
(終)
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明らかに反則なので、失格扱いで結構です。つい思いついてしまったもので。
思いっきり楽屋ネタですが、別に規定に違反していないから結構ですよw …まあどちらかといえば、人力検索で賞を開催する方が酔狂ではありますね。それに自らをネタにするのは「狂人」じゃなくて、「強靭」な精神を持っていると思います。
違反ではないですが、といって、身内しか分からない読者を選ぶネタだし、もし賞をあげてしまうと「えー」となりますね。身内ネタは嬉しいんだけど、贔屓はダメですね。
ただ真面目な話、前回より面白いし、(私が言うのもなんですが)萌え度も高いでしょう。やはり基本はオリジナルなので、楽屋の知識は差し引いて見ますが、匿名的な誰かが実は身近にいる人だったという設定が良いです。そういう題材では『ピュアメール』や古くは『街の灯』があります。
*タイトル[幼馴染は2度は牙を剥く]
「ダマらっしゃいな。」
目をあわせる事もなく手をひらひらさせ、奴は子供をなだめるように言い放った。
もう夏休みもなかばになる。
地元の図書館で久しぶりに見た幼馴染に挨拶した俺はあまりに予想外の展開に開いた口がふさがらなくなった。
数年前まで一緒に公園を駆けまっていたあのハナタレが何をどう間違えたらこんなお嬢ぶれるのだろうか?
進学して以来すっかり話さなくなってしまったが、すくなくともコイツは図書館にワンピース着てきて本を読むような奴ではない。
断じてない。
俺から借りた漫画にポテトチップスを挟んで返すような奴だ。
「もう少しアホ面引き締めたら?」
ようやく俺の顔を仰ぎ見ると、第二声がこれだった。
ァ…、アホ面っ!?
声にならない声をあげる。
もはや少し涙目だ。
「あぁ!お姉ちゃん久しぶりぃ!」
後ろから声が聞こえる。一緒に来ていた俺の妹だ。
妹は俺を呼び捨てにするのに他人のコイツをお姉ちゃんと呼ぶ。
楽しそうに話し出す二人。アホ面のまま凍りつく。
なんだこのモヤモヤは…これが萌え?
いや悶え。
…つづかない。
====
……。ムズ。
なにがムズいって400字がムズ。ストーリ展開までは無理ですな。
よくわからなかったのでお題は全部盛り込んでみました。
萌え属性っていまいち理解できないのだけど、俺マーケティングによると多分こんな感じだ!という各種学習の成果。
萌えの次は悶えが来る。きっと。
テンポよく印象深い文体。「あのハナタレが何をどう間違えたらこんなお嬢ぶれるのだろうか?」「俺から借りた漫画にポテトチップスを挟んで返すような奴だ。」辺りの表現が軽快で痛快です。短編に最も必要な、「ゴチャゴチャ説明しないセンス」を感じますね。モヤモヤしながらも爽やかな読後感。
ただ、題名とオチが弱い。「は」の連続で語呂が悪いので「幼馴染は2度牙を剥く」が普通でしょう。あるいは「幼馴染2度牙を剥く」でも。それとオチは例えば、ポテチを挟んだコマにお嬢キャラが描いてあって、本人がそういう風に成長していて、その願望を伝えたかった、それを今主人公が気付く…みたいにもまとめられますね。
「眠い日、暑い日」
シズは暑い日が大の苦手だ。
夏ともなれば、彼女は、日陰の縁側に、一日中いる。
そこで彼女は、頭の上の耳をはたはた動かしたり、ウチワのつもりか尻尾をふりふりして、なんとか涼もうと苦心する。
我が妹ながら、だらしない大の字の格好で眠るシズは時々、ごろり、と寝返りをうつ。
時間とともに縁側に差し込んでくる日光を避けるため。
ほとんど本能として彼女は影の中にいようとする。
仰向けから半回転して、うつぶせになると、宙を泳いだ彼女のしっぽが、ぱたり、と力なく床に落ち、耳はあいかわらずぴくぴく動いている。
こうして、床替えを済ませると、それから、まるで生まれてきたことを後悔にするような寝言を呻く。
この作業を繰り返し、ごろり、ごろり、と転がると、やがて縁側から外へと落ちてしまう。
それでも彼女は目を覚まさず、今度は縁の下に潜り込むと、そのまま夜まで眠っている。
(370字)
擬人化で来ましたね。可愛らしい寝姿です。描写のみで書くのも一手法でしょう。400字しかないので思い切って要素をデザインすることが必要です。ただ、擬人化のモチーフが犬なのか猫なのか狸なのか狐なのかよく分からないところは物足りない。何となく猫だとは思います。
こういうパターンは何せヒロインが寝ているので展開がダラダラしがちですが、「生まれてきたことを後悔にするような寝言」とか、レティサンスが香辛料として効いています。寝言の内容を具体的に書かないのは意図的なものでしょう。ただ、設定のみで物語が展開しないのはやはり変化球ですから、単純に彼女が起きて何か発言してもいいような気がします。
タイトル『夏姉妹』
田舎の親戚の家。姉と二人で畳に寝っ転がる。風鈴の音、セミの声。
「夏……だね」
「夏……ですねぇ」
「暑いね……」
「暑いですねー……」
「……ねえ。アイスもってきてよ」
「……じゃんけん、です」
「お姉ちゃんなんだから、妹の世話してよぉ」
「お姉ちゃんは偉いんだから、妹がもってきてくださいよぉ」
「むーっ……」
「うーっ……」
「「じゃん、けんっ」」
「はい、もってきましたよー」
「……って、一本だけじゃん」
すると、姉はアイスバーの封をピリッと開いてぺろりと舌を出し、アイスの先を舐めながらこう言った。
「二人で、食べましょ?」
瞬間、私の頬がかあっと紅に染まる。心臓がトクトクとビートを刻みだす。私が身動きできないでいると、姉は私の口にアイスを突っ込んできた。ひんやりとした暴力が口の中を犯す。
「むーっ!」
「ほらほら、もっとお行儀よく食べなさいな。涎たれてますよぉ?」
「ぷはっ……お姉ちゃん!」
すると、姉は私の涎のたっぷりついたアイスを愛おしげに舐めだしので、私はまた真っ赤になってしまった。
「もう……お姉ちゃんの馬鹿っ!」
(改行抜きで455文字です。これくらいが限界?)
姉妹の口癖とか百合具合が萌えを押さえています。偉いのに敬語を使ったりするところにセンスがあります。照れずにエロスを描くのも素晴らしいです。この後も二人で食べるんだろうなという余韻を残しており、楽しみな結末です。ただわりと無難なのでもっと過激に行くなら、最後はアイスが溶けるまで抱き合って接吻しててもいいでしょう。
前半の反復とか、前半後半でガラッと変えるのは効果的だと思います。前半ではまだ視点が定まらないけど、後半は妹視点になっていて、その選択も妥当なところでしょう。
ただ「…」で間を作るのは便利なんですが、更なる工夫の余地はありそうです。「「じゃん、けんっ」」で二人が同時に発言してるのを表してる工夫は面白いけど、ちょっと無理っぽいですね。またアイスキャンディのモチーフが『弱点』と被っていますが、これは早い者勝ちです。
書きたかったので懲りずに書きました。
よろしくお願いします。
本文のみで880バイト。
『レイニィボーイ・シャイニィガール』
「絶対に晴らすから」
物騒なお誘いの時とは人が違ったように彼女は黙ってしまった。
まさか駅に着く前に降りだすとは、しかも土砂降り。
慌てて雨宿りに入った軒先で、彼女は下唇を噛んでいる。
俺は彼女の濡れた横顔と、そこに貼りついたセミロングに見入ってしまっていた。
一体どうすりゃいいのさ。
「なんで? 私がいれば絶対晴れるのに」
口を開いたと思えば恨み言か?
「そりゃあ……」
口ごもると問い詰められ、仕方なく言った。
「そりゃあ俺が雨男だから」
「そんなこと! わかってる、わよ……」
また俯いてしまった。顎から雫が落ちた。
「晴女の君が知らないことを一つ教えてあげようか」
南の空を指差して言ってやった。
「止まない雨は、ないんだぜ」
雲間からさす陽。それを見た彼女の顔にも光が差したように笑みが。
「そっか、そうだよね。みてなさい、今度は晴らしてあげるから。あーあ濡れちゃった。帰ろ。またね、雨男くん」
駆け出す彼女を見る俺の心には、天気とは裏腹に夏の日差しが降り注いでいた。
前回より面白いです。雪女のモチーフが前回出ちゃったので、その分印象が弱いですが、題名とか設定とか描写とか色々垢抜けています。今回は「物騒なお誘い」とか何となく分かるようになっていて、読者が想像することが可能になっていますね。ただまだ少し分かりにくい。
天気が内面を反映するように機能しています。これは400字に合っている手法です。ただ、天気一辺倒でも構わないですが、晴れか雨かの単調さを打破するために、虹が出て両者を調停すると映えるかなと思います。また風が吹くという第三の要素があってもいいでしょう。
タイトル:「ワンサイドゲーム」
「俺、緑と付き合うんだ」
ある夏の夜、弟の遼二が私に言った。遂にお隣の緑ちゃんが告白してきたらしい。
「ふうん。付き合おうと思った決め手は何?」
「小さい頃からずっと一緒にいたし落ち着くっていうか、いないと変な感じがするっていうか」
「ごちそうさま」
次の日の朝、さっそく緑ちゃんが家にやってきた。
「ね、早く行こ? プールっプールっ」
「こら、腕引っ張るなって! じゃあ姉ちゃん、行ってくる」
「遼くんしばらくお借りしますねー」と緑ちゃん。
「行ってらっしゃい。気をつけて」
私は微笑み、手を振った。
緑ちゃんの姿を見たのもそれが最後。
坂道で緑ちゃんの自転車のブレーキが効かなくなって、それ自身は別に致命的ではなかったけれど、運悪くそこに車が来てしまって。
確かに私は緑ちゃんの自転車に細工した。
だけど緑ちゃんが弟と二人乗りで出かけるなんて思いもしなかった。
二人乗りしよう、なんてどちらが言い出したんだろう。それも緑ちゃんの自転車で。
「なによ……わたしだってずっと傍にいたじゃない。死んでも二人は一緒ってわけ? そんなのズルいよ」
(462字)
ひんやりとした感触の作品。こういうダークサイドヒロインは印象に残りやすいです。題名とオチが結びついていますし、「ごちそうさま」とかごく普通の言葉を使うのも、この場合は怖い効果が出ています。抑制された文体が非常に内容に合っています。
しかし、問題は「萌え」という大元のテーマの実現です。ヤンデレはいいですが、救いがないのは萌えないですね。具体的な解決としては、これから殺す・死ぬことを予感させるところで踏みとどまるとかでしょうか。
『夏の姉は妹と幼馴染』
帰ってくるなり夕食を要求する姉に我慢ならなくて、姉ちゃんなんていなけりゃよかったと言ったら喧嘩になった。
その場では一歩も引かなかったけど、夜になって後悔した。
もちろん本心ではないのだ。
明日は土曜日だし、手の込んだ夕食をつくってやろう。
姉が妹になっていた。
問い詰めても泣くばかりで話にならない。
午後には、プールに行きたいとせがまれたので連れていった。
「おにいちゃーん」と抱きついてくるのを必死に引き剥がすと、姉はひたすら不満そうにしていた。
姉弟なんだからビキニで密着はまずいだろう。
いったいどういうつもりなんだ。
妹が幼馴染になっていた。
姉に「くん」付けされるのも妙な気分だ。
ちょうど夏祭りがあったので、手を繋いで一緒に屋台を巡った。
「十年前の夏祭り、結婚の約束したのおぼえてる?」
……おぼえてるわけがない。
幼馴染は姉に戻っていた。
妹と幼馴染のことを訊ねると「知らねーよバカ」とのたまい、次には朝食を要求してきた。
仕方ないので台所に向かった。
今日も暑くなりそうだ。
今回もこれが一番萌えました。萌えのツボを押さえているなあ。前回も良かったのですが、「姉が妹になっていた」という発想がまたしても画期的。「知らねーよバカ」と「おにいちゃーん」のギャップが良いですね。オチが弱いとか細かい部分で色々あるんですが、とにかくこのアイディアは素晴らしいです。
「姉が妹」になる理由ですが、このままサッパリ説明しない方がいいかもしれません。惚れ薬系のドタバタとかできなくもないですが、単に演技でやっている可能性を捨てない方が、想像の余地を含ませていいでしょう。
『既に忘れられた話』
「兄さん、私が死んだらあの草原に埋めてね」
幼い頃から病気がちの妹は、あるときそう言って儚く微笑んだ。
その頃には1人では歩けないほどに衰弱していたが、星を見るのが好きな妹は、かつては近くの草原でよく夜空を見上げていたのだ。
そして妹は19歳の夏至に死んだ。
陽に当たらぬ肌は青白く透き通って、まるで月のようだった。
約束どおり亡骸は草原に埋めた。
ここなら好きなだけ星を眺めることができる。
何も遺せずに若くして逝った哀れな妹よ。
せめてその生きた証となるような何かを造ってやりたい。
そこで考案したのが、妹の愛した星の動きを映す大きな石の墓標である。
太陽と星の動きに正確に合わせて設計し、命日の夏至の日の出を示す仕掛けも作った。
完成には多くの費用と労力、そして20年の歳月を費やした。
石は朽ちることなく遥か未来まで残ることだろう。
これを見るものは知るがいい、その中央には1人の少女が眠っている。
こうして出来たのが、世に知られるストーンヘンジである。
切なくて儚いお話。言葉遣いも綺麗で格調高いんですが、最後の一行が大問題で、これは無い方が良かったのではないでしょうか。私的には今までの過程を一行で押し潰す感じの結末という印象です。そうした賛否はともかく、少なくとも、最後の一行があるかないかで、全く別の作品になるのは間違いないでしょう。
確かに予想を裏切るオチは重要ですが、病弱な少女の死と「ストーンヘンジ」の取り合わせには違和感があります。「墓標」は分かりますけどね。「今は墓標があるその草原に、(転生したかと思わせるような)可憐な一輪の花が、見る者もなく咲いていた」位でもいいような気がします。
星新一も、桃太郎は実は~みたいなのを書いていたと思いますが、そういう既知の歴史に組み込む結末は、どちらかというと、悲劇よりユーモアの効果に向いている気がします。
『里帰りジャジ子さんという新ジャンルの提案』
妹は元来ハートの弱い奴で、毎晩兄のベッドで女の子座りしては中学校であったあれこれをひとしきり愚痴り、うふふぅと低く笑ってから「お勉強頑張ってね」と言って部屋を出て行くのだった。俺は邪魔をしていたのはお前だと思いつつもわが妹の健全な成長を祈り温かく見守っていたというのに、
「キモいよ!
女子中学生の話とかしないの洒落にならないから」
10年たったらこの有様である。だらけてるのはいいとしてなんで高校のジャージなんだお前。あと何が洒落にならないんだ?
「というか暑い!なんでお兄ちゃん気を利かせてアイスのひとつでも買ってこないの?」
意味がわからない。それが東京の理屈か。
「暑い暑い暑い~。もうだめ叫んじゃうわ」
なんてさ。
「レイプされるー!」
馬鹿じゃないの?と言いつつ立ち上がる。もちろんコンビニに行くためだ。口ばっか達者になりやがって畜生。
ぼやく兄の姿を見て、妹はうふふぅと笑うのだった。
…まあ俺は、今のコイツの事もなかなか気に入っているんだけどね。
(了)
一気にまくしたてる冒頭が良いです。妹がキャラ立ちして、萌え分が凝縮されています。年齢からいくと、「女子中学生の話とかしないの洒落にならないから」は、「しないの(は)洒落に~」ではなく「しないの。洒落に~」の意味でしょうね。それにしても、ジャージを着てたらそりゃ暑い罠。ジャージを脱いでブルマが出てきてもいいかな。
しかしやはり、最後の一行が蛇足ですね。不安だと思うんですけど、絵で余白が大事なように、書かないことが行間を想像させる効果を発揮することもあります。題名も『里帰りジャジ子さん』でいいでしょう。
花火を見に行くことになりました。
「どうかな? お姉ちゃんのお下がりなんだけど」
「うん、かわいい。……どうしたのうずくまって。お腹痛い?」
「いや、そうじゃなくて」
「うん」
「あたしは今、照れているのであります」
「かわいいって言ったくらいで?」
「……あたしが君をどれだけ好きか、滔々と語らねばならんようだね」
「語るの?」
「語るとも。幼稚園に遡るから。……あ! 花火」
「ほんとだ」
「人も増えてきた。はぐれないようにしないとなぁ」
「そうだね」
「って、うわー、うわー!」
「どした?」
「どした、じゃないよ! て! いきなり手つながれたらうわー! ってなるでしょ! 普通」
「じゃ離す?」
「離すわけないでしょ!」
「了解」
「…………あ。ねぇねぇ」
「何?」
「わたくしは、発見してしまいました」
「何を?」
「君の耳が赤いことを」
「……長い間好きだったのはお互いさまだと言うことを、滔々と語らせてもらおうかな」
「……うん。語って」
花火も、綺麗でした。
(405文字)
応募規定に沿っていなかったらごめんなさい。
題名が見当たらないので、「無題(花火)」とさせて頂きます。「お姉ちゃんのお下がり」と一言入れることで、モチーフが全部揃い想像の幅が広がるので、常套手段ですがこれは美味しい出だしです。年齢を書かないで行くなら、全体的に幼い感じなので、「滔々」「遡る」は削った方がいい気がします。会話だけで行く場合、語彙の選択に注意が必要ですね。
最初と最後の一行が額縁になっていますが、ややとってつけたような印象は拭えないです。花火「も」とするところは気を使っていますが、それでも題名を「花火」にするだけで、最初と最後は省けますね。また会話が合いの手が多くてやや冗長なのと、花火という舞台設定をもっと生かしたいところです。
【夏陰】
「でも夏って暑苦しくない?」
「俺は海水浴みたいに暑さの中にある冷たさが好きだけど」
「ふーん。そりゃ男どもは海で水着見るの好きでしょうとも。でもスイカのような胸とかさ、女からすれば絶対肩こりで辛そう。うらやましいけどさ」
「いやいや! そゆ扇情的な事じゃなくて差異だよ。こう、暑さの中でアイス食いまくってキーンとする感じがいいんじゃないか!」
「どうだか。男ってギャップに弱いの? 夕立みたいにさ夏の天気は変わりやすいって言うけど」
「そうそう。花火をどーんと打ち上げた後の肝試し、その後線香花火みたいなギャップが一番たまらんね」
「ベタベタとまとわりつくかと思ったら、とたんにクールになるからね」
「しかも怒りっぽいくせに笑顔は抱きつきたくなるほど可愛いぞ」
――へーぇ。私のことを無責任にも噂してくれやがりますか。
彼らの後ろで満面の笑みを浮かべる私。
気づいた二人は硬直したまま私を振り向いた。
さて、どうしてくれようか。
了
(411文字・課題モチーフ選択「夏」)
これもちょっとメタ萌え気味の変化球ですね。萌え語りには萌えないので、語られているものを実際に出して、人物にアクションさせて、できればその上ドラマがあるといいですね。誰しも好みを語ることは楽しいものですが、それをそのまま物語にしても、他人から見ると思ったほど楽しくはないと思います。
メタ萌えは嫌いではないですが、どうして評価を低めにしているかというと、何が好きかはブログで語れるので、ここでも優遇してしまうと、そもそも目立たない創作のために賞を設けた意義が薄くなってしまうんですね。
「そうそう。花火をどーんと~」位から始めて、二人が「私」に気付いた後の展開があるといいですね。結末は暗示しているようでいて、読者がその後を想像するには燃料不足です。
『主人公がオオアリクイに(以下略)』
俺の布団の上にオオアリクイがちょこんと座っていた。
「あ、やっぱりオオアリクイに見えるんだ?」
いつも起こしにくるはずの幼馴染の声でオオアリクイは口をきいた。
「おばあちゃんがね、オオアリクイだったんだって。クォーターってやつ。えへへ。かっこいいでしょ」
寝起きの俺はもう呆然とするほかない。
「なんかねー、私もおかしいと思ってたんだ。昔から蟻の行列見て美味しそうとか思うし」
小さいころ、お前が蟻つまんで食べてたのは、日射病の見せた妄想じゃなかったんだ。
「やだ、あれ見てたの?」
オオアリクイは両腕、いや両前足の鉤爪で布団をぽんぽんと叩く。
「もー、いいから早く起きなさいよ」
オオアリクイは布団からころんと転がり落ちると、とてとてと歩き、鉤爪で器用にドアノブをまわした
「そうそう、あたしね、さくらんぼの軸を口の中で結べるようになったよ」
そりゃあね……っていうかオオアリクイの上目遣い初めて見たよ。
動物奇想天外。古くは『変身』の系譜でしょう。基本はオリジナル勝負ですが、たぶんこれはネットで小流行しているネタを使った一発芸。擬人化ものによくある動物→人間ではなくて、人間→動物にひっくり返したとも見れるわけですが、さすがにオオアリクイはちょっと萌えないですねw
こういうタイプのものは、『らんま1/2』『フルーツバスケット』のように人間と動物を行き来できるならOKですけどね。固定している場合は「びんちょうタン」のように、人間にモチーフを乗っけるか。えーと脱線しますけど、松屋の「とろろタン定食」は、そのうちネトランとかで擬人化しそうですね。
『さした』
晴れやかな夏の快晴の下といっても、やはり墓地と言う場所には押し殺した雰囲気がある。
「もう、こんな時期か…」
彼岸であっても、奥まったここには人はいない。俺と、もう一人以外は。
「今日で姉さんの三回忌、か」
「ああ」
「覚えてる? 約束」
「忘れたほうが良かったか?」
そう言って、俺は声がした方に振り向かない。頭上をなにかが通り過ぎる。
破砕音。振り向くと努美の手は墓石を握り潰す。開いて砕いた石を落とし、ガキッガガキッもう一度手を握り締める。そしてまた開く。三本指の独特の構え。
「兄さん」
「なんだ」
「死んで」
構えた手を突きつけて、言った。
俺は笑わない。そう教えられた。
俺は笑う。笑う? そう。俺は笑う。
「わかった」
努美の手が胸に刺さり。
指が肋骨を数本掴み。
外し。
「なんで?」
肺に刺さり。
「なんでなの兄さん?」
血が。
口から。
漏れ。
努美が胸倉をつかんで、引き寄せる。
「なんでなの兄さん!」
怒鳴り声が唾が疑問が、
涙が、
俺の顔にかかる。
俺は、笑う。
努美の首筋に、竹串を当てて。
「こうする為さ」
すごい展開。なぜ殺し合わないといけないのか。「約束」というキーワードがあるので、兄が姉を殺し、その復讐を努美が…みたいな流れかもしれないとは想像できます。『北斗の拳』みたいなことでしょうか。しかしやや唐突な印象は免れません。インパクトはありますけどね。
「ガキッガガキッもう一度手を握り締める。」「俺は笑う。笑う? そう。俺は笑う。」「『兄さん』『なんだ』『死んで』」「血が。口から。漏れ。」など「感感俺俺」的な独特のセンスがあるので、これをもっと洗練させると、『JOJO』的に化けるかもしれません。
『夏』
もうすぐ八月といっても、雨のふった後はけっこう涼しくなるものだ。その子は人ごみが苦手だから、祭や花火大会に連れて行ってやることはできない。だからこんな雨上がりの夕方は、外に連れ出してやりたいとおもうのだ。
「ほんとだ、涼しいね。外に出てよかった。」
「でしょ。きょうは鴨川を北に上ってみようよ。行ったことある?」
「ううん。」
親父が二年前に再婚して、その再婚相手には一人娘がいたのだが、今年の春、その子が僕の近所の大学に入学して、一人暮らしを始めたのだった。
川沿いの道は、雨に洗われた緑のひろがりに囲まれていた。遠くには鞍馬山の小さな連なりが見える。
「お兄ちゃん、明日からまたしばらく仕事だよね。」
「うん。」
「偉いなあ。わたし、将来どんな仕事をしたいか、ぜんぜん分からない……。」
「でもまだ一年生だし。」
「うん、そうだね、もっと楽しまなきゃ。でも、夏、どんどん過ぎていっちゃうなあ。」
その子の黒い大きな瞳は、遠く向こうの緑を見ていた。
「彼氏、早くできるといいね。」
その子は振り返った。
「彼氏は、いらないよ。」
こうして、僕らの長い夏がはじまった。
水のように淡い交流を描く作品。最後の作品は大人しくなるジンクスなのか、パッと見地味ですが、よーく読むと、400字なのに情報量が多いことに気が付きます。奥が深く読み直すと発見がある。他の作品と比較したときに、表層だけではない人物像とその関係が描けていて、小説的な厚みのある豊かな空間を形作っています。かなり上手いですね。
ここでは台詞廻しに絞って注目してみましょう。例えば「ほんとだ、涼しいね。外に出てよかった。」という冒頭が、さり気ないようで上手い。なぜか。まず「ほんとだ」で「わたしには構わなくても~」というようなやり取りがあったと推測させます。次に「暑い」と連呼する作品が多いなかで、「涼しい」という台詞で夏を表現して奥ゆかしい。(大都市から)春に越して来て、雨上がりの涼しさを知らないのかもしれません。そして「外に出てよかった」は、相手に気を遣っているとも取れますが、けなげでもあります。萌えというか「情」を感じます。
「外に出てよかった」というくらいですから、「夏、どんどん過ぎていっちゃうなあ。」というのは痛切です。同年代の女の子は楽しく過ごしているだろうに、たぶん面白おかしい毎日ではないのでしょう。「鴨川」(シーワールドじゃなくて)とか「鞍馬山」から推測すると、大学に通うために越したわけだし、すごい田舎ではないでしょうが、性格的に遊びに行かなそうです。だいたい「再婚」する時点で、幸福な状況ではちょっとなさそうな気配なんですね。でもメロドラマみたいには一切説明しない。余裕と上品さを感じます。
「その子」という言葉が示すように二人に距離感があって、「彼氏、早くできるといいね。」もさらりと残酷なことを言っていますが、しかし同時に思いやりを感じます。なるべく相手に配慮しながら、仕事の合間にどこか連れて行ってやりたいと思っているからです。そのときに、「彼氏、早くできるといいね。」が効いてきて、彼女にしようと下心からそうしているわけではないことが分かります。いや、好意はあるかもしれないけど、抑制していて好感が持てる主人公です。そして結末の「彼氏は、いらないよ。」が心に染みます。現実はもっと打算的でしょうが、こんな娘がいたらそっと応援したくなりますね。
水のように淡い交流を描く作品。最後の作品は大人しくなるジンクスなのか、パッと見地味ですが、よーく読むと、400字なのに情報量が多いことに気が付きます。奥が深く読み直すと発見がある。他の作品と比較したときに、表層だけではない人物像とその関係が描けていて、小説的な厚みのある豊かな空間を形作っています。かなり上手いですね。
ここでは台詞廻しに絞って注目してみましょう。例えば「ほんとだ、涼しいね。外に出てよかった。」という冒頭が、さり気ないようで上手い。なぜか。まず「ほんとだ」で「わたしには構わなくても~」というようなやり取りがあったと推測させます。次に「暑い」と連呼する作品が多いなかで、「涼しい」という台詞で夏を表現して奥ゆかしい。(大都市から)春に越して来て、雨上がりの涼しさを知らないのかもしれません。そして「外に出てよかった」は、相手に気を遣っているとも取れますが、けなげでもあります。萌えというか「情」を感じます。
「外に出てよかった」というくらいですから、「夏、どんどん過ぎていっちゃうなあ。」というのは痛切です。同年代の女の子は楽しく過ごしているだろうに、たぶん面白おかしい毎日ではないのでしょう。「鴨川」(シーワールドじゃなくて)とか「鞍馬山」から推測すると、大学に通うために越したわけだし、すごい田舎ではないでしょうが、性格的に遊びに行かなそうです。だいたい「再婚」する時点で、幸福な状況ではちょっとなさそうな気配なんですね。でもメロドラマみたいには一切説明しない。余裕と上品さを感じます。
「その子」という言葉が示すように二人に距離感があって、「彼氏、早くできるといいね。」もさらりと残酷なことを言っていますが、しかし同時に思いやりを感じます。なるべく相手に配慮しながら、仕事の合間にどこか連れて行ってやりたいと思っているからです。そのときに、「彼氏、早くできるといいね。」が効いてきて、彼女にしようと下心からそうしているわけではないことが分かります。いや、好意はあるかもしれないけど、抑制していて好感が持てる主人公です。そして結末の「彼氏は、いらないよ。」が心に染みます。現実はもっと打算的でしょうが、こんな娘がいたらそっと応援したくなりますね。