特許を「開放」したテスラは利益を上げられるのか

「Tesla Model S」の航続距離はほかのEVの2倍以上。45分で充電が完了する急速充電ステーション網も全世界に展開している。研究と投資を続けてきた同社が特許技術を公開する理由。それは、ほかの大手自動車メーカーにも優れたEVを販売させて、EV自体の普及を目指すことだ。
特許を「開放」したテスラは利益を上げられるのか
Teslaイーロン・マスクCEOにとって、最大のリスクは「BMWやトヨタに技術を盗まれること」ではない。

米電気自動EV)メーカーのTesla Motorsは6月12日(木)、同社がもつ特許を開放すると発表した(日本語版記事)。同社の広報担当者サイモン・スプロールは、特許に関する発表を行う前に、インタヴューで次のように説明した。「当社の使命は、EVの普及を加速することだ。Tesla社がほかのメーカーを刺激する触媒の役割を果たせば、それが実現する」

もちろん、TeslaはEVを製造して販売したいと考えている。企業は利益を得るために存在するし、同社も非営利団体というわけではない。しかし、同社がEVの製造・販売を大規模に行うには、同社の「Model S」が現在参入しているニッチ市場から脱却する必要がある。有名人やシリコンヴァレーのエリート向けに90,000ドルのEVを販売しても、「世界は救えない」のだ。

いまのところModel Sは、従来のガソリン車の真の代替となる唯一のEVだ。現在のEVの航続距離は約110~160kmだが、Model Sの航続距離は320kmを上回る(Model Sの最高航続距離は、160マイル(約257km)、230マイル(約370km)、300マイル(約483km)の3種類がある。220Vなら4時間、440Vなら45分で充電可能とされている。Model Sは、「燃費」が「トヨタ・プリウス」のおよそ2倍で、370km走っても電気代500円程度で済むと謳われている)。

また、Teslaの急速充電ステーション網は全米に96カ所存在する(Teslaが全米で提供する無料充電ステーションだけを利用して2014年1月に初めて行われた米国横断を紹介する日本語版記事は<a href="" internal=""></a>こちら)。さらに、カナダや欧州、アジアにも、数十のステーションが出現している(日本でも20カ所以上のステーションがある。マップはこちら)。

日産自動車などのメーカーが認識しつつあるように、航続距離が約110~160kmのEVに興味を抱く人々は多くない。だが、ほかの自動車メーカーがTeslaの技術を導入して、航続距離の長いEVを開発していけば、Teslaにとっても好ましい状況が生まれる。

Teslaの長期目標は、航続距離が約320kmで価格が3万ドルのEVを販売することだ(Tesla社は、価格2万ドルから3万ドルの「BlueStar」を生産開始することを目標としてきた。2010年5月にはトヨタと提携して、共同で開発・製造する計画を公表した。この契約には、トヨタ側がTeslaの株を5,000万ドル分買い取ることも含まれていた)。

TeslaはEVの普及を目指しており、その最も手っ取り早い方法が、ほかの自動車メーカーにもEVを販売させることだ と考えた。最終的に、ほかの自動車メーカーがTeslaの技術を採用し始めたら、同社及びその技術の価値が高まり、その方向が正しかったと認められる。

特許の開放は確かに議論を呼ぶ動きだが、Teslaの株主はおおむね無関心なようだ。同社株は、特許開放の発表後もやや値を下げただけにとどまる。

結局のところ、Teslaのイーロン・マスクCEOにとって、最大のリスクは「BMWやトヨタに技術を盗まれること」ではない。彼にとってのリスクとは、こうした大手自動車メーカーが、わざわざ生産するほどEVに興味を持たないことなのだ。

※Teslaは2013年5月の決算発表で、創業10年目にして初の黒字決算(純利益)になったことを明らかにした(日本語版記事)。しかしその後は、売り上げは順調に伸びているものの、調査開発費がかさんで営業利益は赤字が続いている

TEXT BY JORDAN GOLSON

PHOTOS BY ARIEL ZAMBELICH/WIRED

TRANSLATION BY MINORI YAGURA, HIROKO GOHARA/GALILEO