連載
【西川善司】ニンテンドー3DSの立体視を予測してみる〜2D/3D兼用裸眼立体視とは
西川善司 / グラフィックス技術と大画面とMAZDA RX-7を愛するジャーナリスト
(善)後不覚 |
2010年3月23日,任天堂は「次世代携帯ゲーム機として,裸眼立体視対応のハードウェアを2011年3月期にリリースする計画がある」という内容の発表を行いました。
それを受け,ビジネス面では,「現行のニンテンドーDSが現役でありながら,次世代機の発表は買い控えを助長するのでは?」という部分が懸念されているそうな。「裸眼立体視に対応する」ということだけを発表したことについては,「競合メーカーや,マスコミの動きを牽制した」という見方もなされているらしいです。
ビジネス面の話題は自分の専門ではないので,それらについては“そっち方面のプロ”の方にお任せすることにしましょう。今回は,ディスプレイ☆マニアのボクなりに,ディスプレイデバイス面での予測を立ててみたいと思います。
ニンテンドー3DS(仮)の裸眼立体視方式は?
さて,ゲーム機としての映像パネルを考えたとき,「立体視専用」にしてしまうと,遊べるゲームを限定してしまうリスクを背負うことになります。
ニンテンドーDSでも,「すべてのゲームがペン入力前提」ではありませんでしたし,二つあった液晶画面も,一つは補助表示に割り当てた“実質1画面”のタイトルが多くありました。任天堂のやり方を踏まえると,裸眼立体視は次世代DSの目玉要素ですが,すべてのゲームを立体視前提で開発してくるとは考えにくいと思います。
また,23日にあった任天堂の発表文には,「ニンテンドーDSiを含むニンテンドーDSシリーズ用ソフトもお楽しみいただける互換機能も有して」(※原文ママ)いると記載されていますから,ニンテンドーDS用タイトルをプレイするときには立体視にならない画面で利用できる液晶パネルが実装されることになるはず。
つまり,ニンテンドー3DS(仮称)には,立体視非対応(以下,2D)表示と,立体視対応(以下,3D)表示とを交互に切り替えられるポテンシャルを備えた裸眼立体映像パネルが採用される可能性が高いと予想できるわけです。
拙著『図解 次世代ディスプレイがわかる』にて,現存する裸眼立体視技術について一通り解説したことがあるのですが,ここでも簡単に紹介しておくと,裸眼立体視には大別して,
- レンチキュラーレンズ/マイクロレンズアレイ方式(※インテグラルピクセル方式ともいう)
- 視差バリア方式(※視差遮蔽方式ともいう)
この方式での2D/3D兼用は,やってできなくはないのですが,液晶パネルに貼られた微細光学系を剥がすことができないので,左右の目に同じ情報を見せるよう,液晶パネルに映像を表示しなければなりません。そのため,この方式だと,2D解像度は,単純計算で,液晶パネルが持つネイティブ解像度の半分になってしまいます。
もう一つの視差バリア(Parallax Barrier)方式は,左の目からは左目用のピクセルだけ,右の目からは右目用のピクセルだけが見えるように最適化したスリットを液晶パネル前面にあてがい,立体像をユーザーに知覚させるものです。
この方式でも,左右の目に同じ情報を見せるようにすれば,液晶パネルのネイティブ解像度の半分程度の2D映像を見せることができます。
ただし,視差バリア方式で,左右の目の視線を制御しているのは,レンチキュラーレンズ方式のような凹凸のある微細光学系ではなく,平面の単なるマスクパターンです。
このとき,「視差バリアを作り出すマスクパターン」を白黒液晶パネルで形成できれば,視差バリアをリアルタイムかつアクティブにオン/オフできるようになります。イメージ的には,「フルカラー液晶パネルの上に,視差バリア表示専用の白黒液晶パネルを貼り被せる」という感じですかね。
視差バリアの役割を果たす白黒液晶マスクパターンを黒表示にすれば,視差を実現できて裸眼立体視が実現されますし,逆に,マスクパターンを白(透明)表示にすれば,視差バリアが消失してユーザーに液晶パネルのネイティブ解像度を見せられます。つまり,液晶パネルのフル解像度で2D表示できることになるわけです。
ニンテンドー3DS(仮)は画面内に2D&3D表示を混在可能に?
「そんな液晶パネルってあるの?」と疑問を持った人も多いことでしょうが,結論から言えば,すでに存在します。
シャープは2010年4月2日,組み込み機器向けとなる,2D/3D兼用の液晶パネルを発表しました。シャープは2004年に,これと同じ原理を採用した液晶パネルを搭載して,ノートPC「PC-RD1-3D」を発売した実績があったりしますが,その延長線上にある製品です。
ドイツに本社を持つNewSight(ニューサイト)も,そうしたパネルを製造したことがあるのです。日本法人もあるNewSightは,2009年に,フル解像度2Dと裸眼3Dの兼用パネルを搭載したPC用ディスプレイやノートPCなどを試作発表していました。
細かい数字パラメータや文字メッセージ表示を表示する場所は2D表示させ,ゲームのメイン画面を3D表示させることができるんですね。
さらに,2Dをメインにしたゲームでも,爆発したときだけ3Dで見せたり,キャラクターがダメージを喰らったりしたときに3Dに見せたりできますし,逆に,インパクトを与えたいメッセージだけ,ワンポイントで立体文字表示するなんて応用もできることでしょう。
試作ノートPCでは,2D/3D表示の切り替えスイッチが取り付けられていたが,ソフトウェア駆動でもリアルタイムに視差バリアのオン/オフが可能とのこと |
LG Electronics製の21.5インチ フルHDモデル「W2261V」をベースとした,裸眼立体視PCディスプレイの試作機。こちらも2D/3D表示を切り替えられる |
ニンテンドー3DS(仮)は6画面ゲーム機?!
ここまでは,比較的まじめに3DSの映像パネルを予想してしまいましたが,ついでなので,もうちょっと暴走してみましょうか。
かつてのニンテンドーDS発表時,「DS」には「デュアル・スクリーンの意味も込められている」という説明がありました。
その法則で行けば,3DSは「三つのデュアルスクリーン」となり,3×DS=6画面の可能性も出てきます。
「仮想空間の世界を,この立方体の本体で切り取ったような感じ」で,五つの液晶画面に映像を表示したり,立方体の中の仮想空間に対して,この立方体を振ることでインタセクションを行うことができたりと,かなり斬新な表示とインタラクションシステムを搭載していましたが,試作段階だったため,1画面あたりの画面サイズは10インチ以上。総重量は30kgもあり,とても携帯ゲーム機とは呼べませんでした。しかし,当時の研究グループは「技術的にはルービックキューブくらいの大きさにはできるはず」と自信を見せていました。
発表当時,デモされていたのは,往年の名作「Marble Madness」的なゲーム。取っ手を持って箱を傾けたり,揺らして弾ませたりしてボールを操りながら,ゴールを目指すという内容になっていた |
仮想空間(=ゲーム世界)を立方体で切り取ったようなビジュアル表現は斬新。5面分の液晶画面には,その方向からの視界が表示されているので,本当に,この中に世界が存在しているように見えてしまう |
さすがにボクも,ニンテンドー3DS(仮)が,立方体デザインの5画面ゲーム機になると思ってはいませんが,任天堂は今世代,ニンテンドーDS,Wiiと立て続けに固定観念を超えたゲーム機を投入してきているので,ここで予測してきた以上のアクロバットが何か隠されているような気がしてなりません。
任天堂はニンテンドー3DS(仮)にまつわる発表を今年のE3で行うとか。
今から楽しみです。
■お詫び
(善)後不覚「Windows 7発売記念ホームパーティで,「Forza 3」を多画面プレイした話」のなかで解説した「スクリーン間の角度」についての説明が誤っていました。実際には,各画面を直線に並べた状況を0度とし,そこから何度角度をつけるかという数値になっています。より詳細な情報は,この件に関しての情報提供をしてくださったKoji TAKANE氏のWebサイトをご覧下さい。■■西川善司■■ テクニカルジャーナリスト。4Gamerの連載「3Dゲームエクスタシー」をはじめ,オンライン/オフラインのさまざまなメディアに寄稿したり,バカゲーを好んでプレイしたり,大画面にときめいたり,観切れないほどBlu-rayビデオを買ったり,オヤジギャグを炸裂させたりして毎日を過ごしている。 |
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