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Xbox Oneで独立系デベロッパをサポートするプログラム「ID@Xbox」とは。参入説明会に参加して分かった“Microsoftの狙い”
ID@Xboxとは,独立系デベロッパがXbox One用ゲームを制作し,セルフパブリッシングを可能にするプログラムのこと。開発キットの提供や技術サポート,プロモーション,マーケティングなど,さまざまな面でプラットフォーマーであるMicrosoftがサポートするというものだ。
したがって今回の説明会も,主な対象は独立系デベロッパだったが,ID@Xboxについて新たに分かったことも多かった。本稿では,ID@Xboxの概要を紹介するとともに,同社の狙いを読み解いてみたい。
「Xbox One」公式サイト
「ID@Xbox」公式サイト
なお,一般的な「インディーズゲーム」という用語の定義では,同人サークルや個人が制作するゲームを含んでいるが,ID@Xboxがターゲットにしているのは「法人格を有するゲーム開発会社である」とされた。法人格を持たない団体や個人は,現状だと対象外だが,「将来的には分からない」とも付け加えられている。
法人格を持っていればスタジオの規模の大小は問わないとのことで,実際にID@Xboxに参入を表明している小規模なスタジオとしてNinja BeeやZen Studios,日本国内ではイニス,comceptといった名前が挙がっていた(関連記事)。
逆に,パブリッシャ企業は,どんな規模であってもID@Xboxには参入できないという。ID@Xboxは,開発スタジオがパブリッシャを介さずに,独自に自社作品をXbox Oneでオンライン配信できるという仕組みなので,そのあたりのルールは厳格に定めてあるようだ。
また,「独立系の開発スタジオを対象にしている」というと,ID@Xboxは中小規模スタジオのための仕組みに聞こえるかもしれないが,大手企業であっても独立系の開発スタジオであれば参入可能だ。その一例として,「Ryse: Son of Rome」や「Crysis」シリーズで知られるCrytekが紹介されている。
ID@Xboxのメリットとは
というのも,フルスペック版のXbox One用ゲームを,機材面での負担なしに開発できるからだ。ID@Xboxへの参入が承認されると,スタジオには開発用機材が2台まで無償で提供される。また,年会費等の費用も請求されない。
では,Microsoftは何で儲けるつもりなのか。
これは,Appleのアプリケーションストアなどと同様で,流通させたゲームの売上の一部をMicrosoftが徴収する仕組みになっている。言い換えると,これまでゲームが流通したときにパブリッシャが徴収していた分が,Microsoftの懐に入るというわけだ。
売上の取り分としては,基本的な目安として開発スタジオ側が7割,マイクロソフト側が3割というバランスになるが,条件によって変動するとのこと。
なお,ゲームのリリース後に機能拡張やバグフィックスのためのアップデート(パッチ)を提供する場合にも,開発スタジオには手数料等の費用負担が発生しない。
ここで気になるのは,従来どおりにライセンシーとして参加する場合と,ID@Xboxに参入する場合では,開発環境においてどのような違いがあるのか,という点だ。
しかし,この疑問に関しても「機能差はまったくなし。通常のライセンシースタジオと同等の開発環境が提供される」と明言されている。グラフィックス機能,ネットワーク機能,そして新型Kinectの機能も,すべて通常のライセンシーと同等に活用できるとのことである。
また,Microsoftのクラウドサービス「Windows Azure」,あるいは自社サーバーによるオンラインサービスも利用可能とのこと。つまり,本格的なオンラインゲームだって開発できるかもしれないわけだ。
唯一,ライセンシーと格差があるとすれば,無償で提供される開発用機材が2台までという点くらいで,中小規模の開発スタジオでも大手デベロッパや大手パブリッシャと同じ土俵で戦える,それがID@Xboxである。
従来の流通システムとID@Xboxの違い
パブリッシャを介した従来の流通システムと,パブリッシャを介さないID@Xbox。それぞれに一長一短はある。
従来の流通システムの場合,デベロッパはゲーム開発に必要な費用をパブリッシャに支援してもらえるというメリットが存在する。ただし,デベロッパ側が本当は完全新作を作りたかったとしても,パブリッシャ側から支援の交換条件として続編の制作を要求されるといった,自由な創作活動が妨げられる局面は考えられよう。
一方,ID@Xboxでは,デベロッパに開発用の機材や環境は無償で提供されるが,そのほか必要な費用に関してMicrosoftからの支援は一切ない。その代わり,制作するゲームに対してのリクエストや口出しも行われない。つまり,デベロッパは開発コストの問題さえクリアできれば,自由にゲームを作れるというわけだ。
参入からライセンス契約,配信の流れ
Microsoftとしても,「自社知財であるXbox Oneの開発環境をハード/ソフトの両面において無償提供する以上,相手を選びたい」という思惑があるようで,ID@Xboxへの参入は認証制を採っている。デベロッパはID@Xbox公式サイトから申し込むと,Microsoftによる審査があり,これをパスして初めて参入できる。
なお,申し込みに際しては,過去の開発実績などの情報を添付したほうが有利に進むようだが,この時点ではID@Xboxで開発したいゲームの企画書は不要とのこと。
審査をパスしたデベロッパは,NDA(機密保持契約)を結んだ後,いよいよ開発に乗り出すわけだが,ここでMicrosoftにゲームの企画書を提出しなければならない。Microsoftは「こんなゲームを作ってほしい」と口出しをしないまでも,そのゲームがXbox Oneのプラットフォームイメージを損なうものではないかをチェックしたいのだろう。おそらく,アダルトゲームや差別的な内容を含むゲームの場合,この段階で承認されないものと見られる。
その次はデベロッパとMicrosoftの間で,ゲームのライセンス契約が結ばれる。前出した売上の分配に関する内容なども含まれており,これは新作ゲームがリリースされるたびに結ぶことになる。
ゲームの配信直前にも,Microsoftによる審査が行われる。ここでは,安定してゲームが動作するかといった観点で審査されるようだが,事前に提出された企画書からゲームの内容が大きく逸脱していないかもチェックされると思われる。例えば,企画書では「ファンタジーRPG」だったものが,完成したら「アダルトRPG」になっているようなことがあれば,審査をパスすることはできないだろう。なお,Microsoftによる審査にあたって,デベロッパに費用負担は発生しないとのことだった。
ただ,もちろんゲームが配信される国や地域に準じたレーティング審査を受ける必要があり,日本ではコンシューマ向けゲームを発売するためには,CEROレーティングを取得しなくてはならない。こうした手続きはデベロッパ側の負担で行うことになる。
開発時のサポート体制
ゲームの開発時には,解決不能なバグや不可解な動作に悩まされることがよくある。PCやスマートフォン向けのゲームであれば,開発者向けのオープンな掲示板サイトや,開発にまつわるTIPSをまとめたサイトに頼って,なんとか解決できる場合もあるが,Xbox One向けのゲームとなるとそうもいかない。前述のとおり,ID@Xboxに参入するにはMicrosoftとNDAを結んでいるため,公の場でXbox Oneに関する情報を公開できないのだ。
この点についても,Microsoftは支援を約束している。
というのも,ID@Xboxに参入するデベロッパには,通常のライセンシーと同等のサポートが提供されるからだ。サポート回数は無制限となっており,ID@Xboxだからといって通常のライセンシーとの格差はない。また,このサポートは日本マイクロソフトが窓口になっているので,日本語での質問が可能という点もメリットになるだろう。
さらに,通常のライセンシーが利用している情報交換ポータルサイトへのアカウントも提供され,Xbox One向けのゲーム開発者と交流も図れるようになっている。
ID@Xboxで開発したゲームはどう扱われるのか
ID@Xboxで開発したゲームは,Xbox Oneが正式展開されているすべての地域で配信できる。もちろん,言語や宗教的な理由により,配信地域を限定することも可能だ。なお,ローカライズにかかる費用については,Microsoftからの支援は行われないとのことだった。
実際に配信されたゲームはオンラインストアで購入できるようになるわけだが,「ID@Xboxで開発したゲーム」だからといって格付けされることはなく,通常のライセンシータイトルと同様に扱われる。Xbox Oneのゲームストアでは,プレイヤーの嗜好に合わせて「おすすめ」が表示されるのだが,ここに大手スタジオの大作とID@Xboxから生まれたゲームが同時に並ぶこともありうるわけだ。
これは,「新作以外はすぐに埋もれてしまう」「インディーズゲームに関心がない人の目に触れない」といった,現状のインディーズゲームの待遇改善につながりそうである。開発者からすれば,自分の作品がプレイヤーの目に触れやすくなるため,嬉しいはずだ。
おわりに――“Microsoftの狙い”を読む
据え置きゲーム機は,世代交代のたびに機能と性能を向上させ,そこで動作するゲームを高度なものにしてきた。ハリウッド映画的な大作ゲームは,もちろんすばらしい体験をもたらしてくれるが,自由な発想によって生まれた「小粒でもぴりりと辛い」ゲームがPCやスマートフォンなどに流れてしまっているのも事実である。
Microsoftは,Xbox Oneを「トータルエンターテインメント」の核となるハードウェアとして訴求しているが,ID@Xboxには「気軽に楽しめるユニークなゲームをどんどん登場させたい」との期待を持っているのだろう。
また,Xbox OneはWindows 8コアが動作していることから,Microsoftはノンゲームアプリケーションのプラットフォームとしての浸透も狙っていると見られる。ID@Xboxはゲームの開発スタジオを対象にしたものだが,Xbox Oneと新型Kinectの組み合わせによる斬新なノンゲームアプリケーションの登場を待っている節も感じられた。
Xbox OneとPlayStation 4の登場により,据え置きゲーム機は新たなフェーズに移行したわけだが,サードパーティのタイトルは両機種ともに同じような展開が予想される。プラットフォームの差別化はファーストパーティのタイトル次第となるだろうが,Xbox Oneの場合,どうしてもそのファーストパーティが海外向けであるため,日本国内への訴求力が弱い。
その意味では,実力派デベロッパが自由な発想で勝負できるID@Xboxこそが,日本におけるXbox Oneの存在感をアピールする立役者になりうるかもしれない。盛り上がりを期待したいところだ。
「Xbox One」公式サイト
「ID@Xbox」公式サイト
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