ウクライナ紛争地域で飛び交うコードネーム
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【12月22日 AFP】ウクライナ東部、紛争地域の前線近くにある親ロシア派の基地で「イタリアン」と「理髪師」が壊れたテレビを直すかたわら、「アキュレート(正確)」がカラシニコフを肩から下ろしてボルシチを食べている。
政府軍と親ロシア派の武装勢力による紛争が始まってからというもの、親ロシア派が制圧する地域では、戦闘員らがコードネーム(暗号名)で呼び合うことが普通の光景になっている。彼らは素性を明かさないよう名字も名前も使わず、自分の性格や経歴を表すような呼称を選ぶ。ノイジー(うるさい)やクワイエット(静か)、モトローラやイノシシなど、そのバリエーションは様々だ。
大柄の「イタリアン」は「正直、どうやって考えたんだろうっていう名前もあるよ。ほとんどの人は自分に明らかに関連した名前を選ぶけれど、妄想みたいな名前もある」と語る。ちなみにイタリアンは4年間、イタリアのサレルノ(Salerno)やナポリ(Naples)の農場や建設現場で労働者として働き、5年ほど前に出身地のドネツク(Donetsk)に戻ってきた。
コードネームは紛争が始まったときから使われている。戦闘員らが、敵だけでなく仲間同士の間でも素性を明らかにしたがらなかったためだ。
イタリアンは「活動が始まった初期の頃は、命を奪われるのではないか、家族が苦しむのではないかと誰もが恐れていた。それでコードネームを使い始めた」と語った。「本名が分からなければ、与える情報も少なくなる。それでもコードネームがあれば連絡できるからね」
だが、良い偽名を考えるにはなかなかの技がいる。音節は2つがベストだ。無線で話すときに聞き分けやすく、かつ戦闘中に叫ぶにしても長すぎない。だが、独創性も大事にしたい。
大隊を率いるシド司令官(40)は「トムキャット(雄猫)が30人くらいいるよ」と嘆く。元建設作業員で近くの町の出身のシドは、武勇に優れ戦略に長けたスペインの騎士「エル・シド(El Cid)」にあやかったという。「彼の逸話が好きだし、少し読んだこともあるから選んだ」と白髪まじりのシドは言う。「武装勢力の中でたった1人しかいない。シドは俺1人だけだ」
しかし紛争が8か月目に突入し、状況が変わるにつれ、コードネームも今後は必要がなくなるかもしれない。力を合わせて戦い続けてきた戦闘員たちの間に信頼関係が生まれたのだ。そして、彼らは少しずつお互いの本名を呼び合うようになっている。
そして、ウクライナ東部で分離派による支配が強化されつつある今、武装勢力は自分たちのイメージを変えようとしている。
シドは「自分たちは、ただの民兵組織ではなく、本物の軍になろうとしている」と言う。「今は名簿を作っていて、ファーストネームや名字を使う方向に向かっている。コードネームは段階的に廃止していくんだ」(c)AFP/Max DELANY