第2回「なんで使わないの?」ささやきに揺れた心 思い浮かべた我が子の顔
見慣れた光景だった。
トレーニングジムの営業時間が終わり、ロッカールームを掃除していると、床には使用済みの注射器が落ちていた。
「お客さんがステロイドを打つのに使ったんだろうな」
そう思いながら、金子弘樹さん(31)は淡々と片付けを続けた。
大学卒業を機に、全国展開するトレーニングジムに就職。トレーナーとして筋力トレーニングを指導するようになった。
ある日、40代の顧客から、筋肉増強作用のあるアナボリックステロイドの注射を打ったと聞かされた。
顧客は当時、趣味でジムに通い始めて1年ほど。「筋力の伸びが鈍ってきた」と悩んでいた。
そこからの変化に金子さんは驚きを隠せなかった。
「人ではない、というくらい筋肉が発達した」
仰向けになり、胸筋などを使ってバーベルを持ち上げるベンチプレスでは最大重量が数カ月で120キロから200キロまで伸びた。
顧客は、ステロイドの使用感をこう表現したという。
「リミッター(限界値)が解除された感覚」
金子さん自身、ステロイドを使おうか迷ったことがある。
アナボリックステロイドによる劇的な肉体の変化を目の当たりにした金子さん。記事の後半では、金子さんの心が揺れた理由や、思わぬところまで広がっているアナボリックステロイドの誘惑について紹介します。
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- 【視点】
高校時代、ラグビー部でした。練習の一環でウェートトレーニングに精を出していました。ベンチプレスのマックスが数カ月で120キロ→200キロにアップするなんて……。私的経験から考えるに、「人ではない」という表現は全く大げさに聞こえません。 同
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