原田マハさん、泉鏡花賞受賞に喜び「棟方志功はヒーローの一人」
【石川】金沢出身の文豪・泉鏡花の名を冠した第52回泉鏡花文学賞(金沢市主催)に原田マハさんの「板上に咲く」(幻冬舎)が選ばれた。3日の東京都内での選考委員会後、原田さんが受賞の連絡を受けたのは、日本から遠く離れたとある国のとある場所。報道各社の電話取材に喜びを語った。
受賞作の「板上に咲く」は、世界的な木版画家・棟方志功を、妻チヤの視点で描いた作品。
ゴッホに憧れ、画家を目指して上京したものの芽が出ない志功が、油絵から木版画に道を変え、「世界のムナカタ」になっていくまでの気迫に満ちた創作の様子や、それを支えた友人や妻の献身が胸を打つ。
選考会場と金沢をオンラインでつないでの取材に、選考委員で作家の村松友視さんは「事実とフィクションを練り上げて見事な小説を作り上げた文学的手際への評価が高かった。満場一致です」と評価した。
その後、原田さんは報道各社の電話インタビューを受け、「文学賞の中で、最も気高く最もすばらしい賞をいただいた。心から光栄に思います」と喜びを語った。
報道陣から、受賞の知らせを受けた場所を問われた原田さん。その答えは意外な場所だった。
「じつはただいま取材でリスボンに来ておりまして。ポルトガルのリスボンのお城の前にいて……」
新作の取材でお城に向かう途中に連絡を受け、その道中は「凱旋(がいせん)パレードのような気分」だったという。
志功という人物の存在は原田さんが10歳の時に、俳優の渥美清さんが主演したテレビドラマで知ったという。父親から実在の画家で会おうと思ったら会えると聞き、「アーティストと同時代を生きているという生身の感覚を初めて知った。小説をいずれ書くようになった原点のような体験があり、それからヒーローの一人です」と語る。
日本近代文学・現代文学を専攻した原田さんにとって、泉鏡花の幻想文学は「最も敬愛する文学」だという。「美や幻想に対する強い憧れがあったので、整った叙情的な文体を書く作家ということで、強い憧れを持っている」
一方、能登半島地震や豪雨水害があるなかでの受賞に、「未曽有の状況にあって文学の力とはと常に考えている。災難に遭ったときに、文学が少しでも明日に向かって小さな灯火がともればいいなと」と語った。
授賞式は来月9日、金沢市民芸術村パフォーミングスクエアで予定されている。正賞の八稜鏡(はちりょうきょう)と副賞150万円が贈られる。
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