公園に「しずかに」と紙が貼られたり、うるさいと保育園が訴えられたり。記者(30)の子育て中の友人も、みな外出時は肩身が狭そうです。子どもは「社会の宝」だったはず――。このまま少子化が進んだらどうなるのか、記者が65歳を超えた2050年を高齢者の立場で試算してもらいました。

 ■年金は

 「赤ちゃんを騒々しいと迷惑に感じる人も、老後にはとてもお世話になるかもしれませんよ」。試算した東北大学経済学研究科の吉田浩教授(加齢経済学)は話す。

 女性が生涯に産む子供の数(合計特殊出生率)は昨年で1・43。国の機関は60年の出生率を3通り推計、今の少子化傾向が続く「現状維持」ケースで1・35、少子化がより「加速」するケースで1・12、若年層の結婚・出産が親世代の水準に戻り少子化が「緩和」されるケースで1・6としている。

 三つのパターンで年金を比較すると、50年に受給開始する夫と専業主婦の妻という平均的賃金のサラリーマン家庭の場合、少子化「緩和」ケースでは、「現状維持」ケースより受給が月2万円増。逆に「加速」ケースでは「現状維持」より月2万2千円減る。少子化の「緩和」と「加速」では月4万2千円の差に。20年間受け取れば、合計の差は1008万円になる計算だ。

■担い手は

 貯金があれば大丈夫だろうか。「サービスを提供する若者世代がいないと生活は成り立ちません」と吉田教授。

 10年の国勢調査の年齢別人口分布と将来の人口推計をもとに計算すると、10年に26万3千人いる医師は、50年には3割減って18万9千人に。若い人が多い看護師や介護従事者、警察官、消防員も減って今の6割近くになる。「医師1人あたりの高齢者数は111人から、約2倍の200人になる。医師不足の地方都市や特定の診療科では、さらに深刻化するかもしれません」

■心への影響は

 子どもが減ることは、高齢者の精神面にも影響がありそうだ。

 東京都健康長寿医療センター研究所は04年から、絵本の読み聞かせボランティアを通して、子どもとふれあう高齢者の心身への影響を研究している。

 読み聞かせに参加するグループと、子どもと接する活動に参加していないグループに分け、定期的に調査し続けたところ、読み聞かせグループは「やりがいや生きる意味を感じる能力」が増加し、ストレスに対処する力が向上したという。同研究所の村山陽さん(34)は「今は定年といってもまだまだ元気。第二の人生で元気に活躍するためにも、子どもとのふれあいは重要です」と分析する。(笹円香)

 ■女性8割「社会で見守って」

 「子どもを社会で温かく見守る雰囲気がほしい」。こども未来財団が11年、妊娠・子育て中の親を対象に「社会の印象」を尋ねると、女性の8割がそう思っていた。「制度や施設だけでなく国民全体の意識改革が必要」「積極的に産み育てたいと思える社会ではない」は、ともに65%超。子連れ時については、「迷惑がらないでほしい」が半数を超えた。

 1月、「赤ちゃんにきびしい国で、赤ちゃんが増えるはずがない。」と題したコピーライターの境治さん(52)のブログが話題になった。「赤ちゃんを飛行機に乗せるな、ベビーカーを通勤電車に乗せるなと言われ、絶望する母親たち」「泣きやまなければ、みんなであやしてあげよう」。社会で支えようと訴えた。

 「一般論を書いたつもり」が、ハフィントンポスト日本版に転載されると数日でフェイスブックの「いいね」が12万超に。記事を広め、感想を寄せたのは主に母親。境さんは「子育てから遠い存在に見える『おじさん』が書いたのが新鮮だったのかも。言えなかったことを代弁してくれたという空気を感じました」。

 男性や子育て中でない人からの「いいね」も多かった。「本当は手助けしたい人も多いはず。お母さんたちも勇気を出して『手を貸して』と声をかけたらどうだろう。ありがとうと言われれば、助けた人も、お互いに気持ちよく一日過ごせるのではないでしょうか」

 著書に「若者を見殺しにする国」などがあるフリーライターの赤木智弘さん(39)は4月、保育所建設に住民の反対運動が起きる様子を報じた記事に「住民のエゴだ」と、ツイッターで感想をつぶやいた。

 自身は未婚で子どももおらず、子育て中のママとは遠い存在の一人だ。でも、子どもを邪魔者扱いする場面を見聞きするたび、関心を寄せる若者の貧困と問題意識が重なるという。

 赤木さんは、俳優の伊武雅刀さんの「子供達を責めないで」という歌を例に挙げる。大人が主人公のこの歌は、子どもについて、礼儀知らず、気分屋、足手まとい、お荷物……と散々嫌いな理由を挙げた上で、「私は子どもに生まれないで良かったと胸をなでおろしています」と続く内容だ。

 「『ばかばかしいね』と楽しむのがこの歌なのに、今の社会には真剣に言っている大人がたくさんいる」と赤木さんは言う。「安定した職に就けない若者を『自己責任』と切り捨てることと同じで、『自分たちと同じように振る舞えない人に対する差別』だ。過去の自分はどうだったか、自分もそうなる可能性はないか。冷静に見つめ直せば、そんなにイライラしなくなるかもしれませんよね」