「育児をする男が過剰にもてはやされるのがおかしい」。立命館大学教授の中村正さん(54)は、別姓の「パートナー」と共に、時に父子2人暮らしをしながら、21歳になる一人娘を育ててきた。「イクメン」の先駆けともいえる中村さんに、自身の体験や男の育児について意見を聞いた。

 ■ママ友に助けられ

 私は事実婚で、パートナーは日本語教師。海外での仕事も多く、今もUAEに単身赴任中です。父母それぞれが、海外生活をしながらの子育ても経験。父娘だけの生活は都合三年ほどになります。

 大変だったのは、やっぱり子どもが病気になった時。助けてくれたのは地域の人たちです。いい病院は「ママ友」から教えてもらったし、仕事がどうしても忙しい時は迎えに行ってもらった。そのまま泊めてもらったこともあります。

 子育ては「父:母=5:5」ではなく、「父:母:他人=3:3:4」くらいがちょうどいい。保育園や地域も含めた「4」を任せられるチャンネルが要る。それに、子どもが外で学ぶことは多いのです。

 育児に関わる能力とは、決して本能などではありません。母性本能なんて言葉は、もう死語にしてもいい。仕事と同じで、努力して身につけるものです。小学生時代に困ったのが「三つ編み」。知り合いの美容師に習って練習しました。なかなかうまくいかなかったですが……。あと裁縫。洗濯のたびに糸がほつれ、娘に怒られました。

 ■声のかけかたひとつで

 男性の育児って、休日に全力で遊んでくれるといった「いいとこ取り」の「非日常型」になりがち。育児への意識は、私が育児をしていた頃と大きく変わっていないというのが正直な気持ちです。日常生活でガミガミ叱るのは母親の役割であることが多い。まだまだ性別による役割の固定化意識が残っているのでしょう。

 「非日常型」でも、やらないよりははるかにいい。ただ、やはり大変なのは日常です。

 日々の苦労に対し、きちんと敬意を払えるかどうか。家事を何時間手伝ったとかよりも大切なことだと思います。

 例を一つ。子どもが妻と一緒に外出していた時、万引きしてしまったとしましょう。この時、妻にどう声をかけるか。「一緒にいたのになんでこんなことをさせてしまったのか」と責めるのは短絡的です。

 妻だって疲れている。店で怒られ、子どもを叱り……そんな気持ちを思いやって、まず「大変だったな」と言葉をかけられるかどうか。それが、相手へ敬意を表すということではないでしょうか。

 ■感情を言葉にしよう

 家族とは「感情共同体」。子どもは感情のかたまりのようなもの。育児は感情のやりとりが仕事になる。私も心の中で「このガキめ!」と思うことはしょっちゅうでした。

 感情や気持ちを言葉にして伝えることは育児をする上で重要なこと。そしてそれは、仕事や他のところでも生きてくるはずです。(構成・中村瞬)