ネットフリックス、字幕で番組内容を改編・検閲? 人気番組出演者も批判
ケリーリー・クーパー、BBCニュース
米動画配信大手ネットフリックスが、聴覚障害者向けの字幕が番組内容をきちんと伝えていないという批判がソーシャルメディアで議論になるなか、人気番組「クィア・アイ」の出演者が、字幕の改善をネットフリックスに強く求めていくつもりだとツイートした。
「ファビュラス」なゲイ(同性愛者)の男性5人が、外見などに自信をなくしたストレート(異性愛者)な一般男性を、ライフスタイルや考え方など内面も含めて「改造」していく大人気番組「クイア・アイ」について、聴覚障害者向けの字幕が、内容を正しく伝えなかったり、改変・検閲しているのではとの批判が、ソーシャルメディアで持ち上がっていた。番組のファンによると、ネットフリックスが配信するほかの人気番組でも、同じ現象がみられるという。
カルチャー担当のカラモ・ブラウン氏は、「みんなのコメントを読んで、ものすごく悲しい。自分にどれだけ力があるか分からないけど、次にネットフリックスに行くときにはこの問題を内部の人に伝えて、何かが変わるまで問題にし続ける。聴覚障害の人も、ほかのみんなと同じ経験ができてしかるべきだ!」とツイートした。
ネットフリックス愛好者で音が聞こえないローガン・シャノンさんはツイッターで、なぜ聴覚障害者向け字幕が逐語に、つまり一語一語すべて表示しないのかネットフリックスに問いただした。シャノンさんによると、字幕は罵倒語を省いたり、発言内容を短縮している。
他にも複数の視聴者が、聴覚障害者向け字幕が、番組内で使われる外国語を表示しなかったり、特徴的な方言やなまりを標準的な英語に変更してしまっていると批判している。
BBCの取材にネットフリックスはまだ回答していないが、ソーシャルメディアで大量の苦情が寄せられるなか、ツイッターで問題の対応を検討していると書いた。
視覚障害者向け字幕は、放送局によって作り方は様々だ。多くの会社は専門の字幕製作会社に外注している。人間が音声に合わせて打ち込む場合もあるし、聞き取りソフトを使って自動生成する場合もある。
英カンタベリーに住むジェマ・レイナー=ジョーンズさん(31)は、認知障害があるため、オンラインで番組を観る際には字幕を表示させて集中しやすくする。
音声を聞き取ることができるため、字幕との違いに気づいたレイナー=ジョーンズさんは、約2年前からネットフリックス字幕の問題点を記録し、苦情を伝え続けていた。
これまでに約150回にわたりネットフリックスに苦情を寄せたが、一度も回答がないとレイナー=ジョーンズさんは言う。
「全員が同じように番組を経験できるべき」とレイナー=ジョーンズさんはBBCに話した。
「視聴者をなだめるため、問題点を報告する仕組みを設置しておきながら、何も対応しないというのは残念」
自分の苦情に何か対応したのか分かるよう、苦情への対処方法についてネットフリックスは透明性を高めてもらいたいとレイナー=ジョーンズさんは言う。
カリフォルニア大学で映画を学んでいるクリッシー・マーシャルさん(18)は、聴覚障害者のカルチャーや、アクセシビリティ(年齢や身体障害を問わず、誰でも必要とする情報や施設を簡単に利用できること)、手話についてYouTubeアカウントを運営している。
マーシャルさんも、「クィア・アイ」の聴覚障害者向け字幕についてツイッターで抗議した。
オンライン動画はほかに比べて使いやすい娯楽手段だというマーシャルさんは、「ケーブル・テレビや地上派テレビは見ない。字幕がいつもおかしかったり、出るのが遅いので。映画館に映画を見に行くのはたいてい、最悪の体験だし」とBBCに話した。
「ストリーミング・サービスではネットフリックスを一番良く使っている。一番使いやすいので。それでも、一番使いやすいサービスでも問題があるのが現状」とマーシャルさん。
「仕事としての字幕制作は、表現を『お掃除』するためのものではない。誰にでも番組内容が伝わるようにするためのもの。汚い言葉だろうが下品な言葉だろうが、場合によっては不適切な言葉だろうが、私たちはかまわない。何を言ったのか健聴者の耳に届くなら、私たちにもそれを知る権利がある」
これはネットフリックスだけの問題ではない。通常のテレビには聴覚障害者用字幕を表示する仕組みがあり、規則も整っているが、オンデマンドのインターネットサービスはまだこの面で遅れている。
YouTubeのブロガー、リッキー・ポインターさんは、「#NoMoreCRAPtions(ダメ字幕反対)」のハッシュタグを使って自動字幕サービスの品質改善を求めるなど、YouTubeのアクセシビリティ向上のため長年、活動してきた。
「二級品」
米国では連邦通信委員会(FCC)が聴覚障害者用字幕について、「会話で発せられる言葉に逐一合致し、背景音やその他の音を出来る限り最大限、伝えなくてはならない」と規則で定めている。ただし、この規制はテレビ放送のみが対象で、ネットフリックス限定のオリジナル・シリーズは該当しない可能性がある。
全米ろう者協会(NAD)が2012年にネットフリックスを訴えた結果、同社は4年間にわたり全番組に字幕をつけるとNADに約束した。
4カ年の合意はすでに期限が過ぎたが、NADは28日、BBCに対して、「ネットフリックスが約束した水準の字幕を提供していない様子で、残念だ」と述べた。さらに、逐語で正確な字を期待するとも話した。
英国では、聴覚障害者の権利実現を求める市民団体「Action on Hearing Loss」が3年前から、「Subtitle It!(そこに字幕を!)」運動を展開し、オンデマンド動画の字幕提供を義務付けるよう、英政府に対応を求めている。
同団体の政策・活動担当理事、ロジャー・ウィックス博士はBBCに対して、番組提供者が会話内容を字幕で要約したり編集したりするのは「非常に良くない対応」だと指摘。それをされると、聴覚障害者は「阻害されたり、見下された」ように感じるかもしれないと懸念を示した。
「字幕は音声の代わりになるもの。会話内容に完全にアクセスできるよう、逐語であるのが本来の姿だ。要約するなど、二級品を提供するに等しい。善意でやっているのだろうが、見当違いだ」
ウィックス博士は、「Action on Hearing Loss」としてもこの問題についてネットフリックスに接触するつもりだと話した。
自分のツイートが広く拡散され、議論のきっかけを作ったシャノンさんは、ネットフリックスに字幕の作り方を確認して変更してもらいたいと話す。
「それに、ネットフリックスなど(字幕製作者の)採用担当には、納品される字幕がすべて正確かどうかチェックしてもらいたい。ただ単に、問題ないだろう決め付けるのではなく」
「時間のかかる作業なのは分かるが、ちゃんとしたチェック体制がなければ問題は続く。アクセシビリティーは本当に大切なことなので」