異次元の金融緩和に取り組む黒田東彦氏は終始冷静に次のように語り続けた。30年余に及ぶ彼との議論から、彼を支えているものについては私なりに見当をつけている。確かめたかったのは、てらわず、おもねらず、思ったことを口にできる彼の因って来たる心に秘めた確信である(編集部注:この記事は、田中直毅さんによる仮想インタビューです)。
――20代半ばの時期のオックスフォード大学への留学が、旧大蔵省での実務よりもより強烈な影響力の源泉であったことについては、常々感じていたが。
黒田 4月8日にサッチャー元英国首相が亡くなったね。現代史の泰山北斗ポール・ジョンソンが述べていることが面白い。彼女は自らの因って立つものについて、カール・ポパーとフリードリヒ・ハイエクの著作からの感銘としているが、実際には父親のアルフレッド・ロバーツの生き様だったというのだ。青果を中心とした小売商だった彼は、英国の社会階級からすれば中の下というところだろう。ジョンソンによれば、彼を表現する3つの要素は“勤勉、正直、期限通りの弁済”だったという。彼女は奨学金ガールであり続け、オックスフォード大学のときも然りだった。首相のときの行動を説明するのならばこの3要素で十分だし、それを哲学者の著作で説明する必要はない、というわけだ。しかし私はジョンソンよりも彼女の肩をもつ。
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