プロセッサの性能向上、それは終わりなき研究テーマ。その成功の鍵はトランジスタのサイズをどれだけ効果的に縮小できるかにかかっています。そんな中、縮小の究極形ともいえる単原子トランジスタを使った新型プロセッサによって、処理速度が飛躍的に向上しようとしています。半世紀も続いてきた「ムーアの法則」がついに終焉を迎えるかもしれないのです。
「ムーアの法則ってなんですか?」という方のために、ちょっとおさらいしましょう。ムーアの法則とは、米インテル社の共同創業者ゴードン・ムーアさんが1965年に自らの論文で記した「集積回路(IC)上のトランジスタ数は2年ごとに倍増する」という法則です。パソコンのCPU速度が2年で2倍になるという話なら耳にしたことがあるのではないでしょうか?
New Scientist誌(イギリスの科学雑誌)によると、単原子トランジスタ自体は目新しいものではありません。にもかかわらず今回ニューサウスウェールズ大学で作られたトランジスタが注目されている理由は、コンピューティングの世界をがらりと変えてしまうかもしれないからです。
その正体はリン原子。ゲートとあわせてシリコンベッドに埋めこまれ、電圧を印加するために電流と金属接点をコントロールします。え、これの何が今までの単原子トランジスタと違うのかって? それはこのプロセスを繰り返せること。つまり、将来的には商用として実用化できる可能性を意味しているんです。
Nature Nanotechnology誌で報告されたこの研究には、周囲の科学者たちもかなり驚嘆した様子。マリーランド大学の物理学者ブルース・ケインさんも「まったく素晴らしい物質だよ」とNew Scientist誌で語っています。サイズは極小でもプロセッサの発展には大きく貢献してくれそうですね。
とはいえ技術革新には障壁がつきもの。今回もその例外ではありません。この原子を配列位置におさめておくには、なんと摂氏マイナス235度に保つ必要があるのです。コンピュータをその温度で冷やしながら使うなんて、いくらなんでも難しすぎますよね。
というわけで、これはまだコンセプト証明にすぎません。でもすごく大切な証明です。だって単原子でトランジスタを作ろうなんて発想自体、10年前なら「こ、こいつ狂ってる...」と思われて終わりだったんですよ。それが今、ここまで進歩している。だから次の10年で何が起こるか、みんなで楽しみにしようじゃありませんか。
追記:表記ミス大変失礼しました。ご指摘いただいたみなさま、ありがとうございました。
[Nature Nanotechnology, New Scientist 画像:Bascom Hogue]
Jamie Condliffe(米版/Rumi)