公共空間の椅子の座り心地が、ずいぶんよくなっている。映画館や電車の椅子も適度にクッションがきいて、適度に硬い。人間にとっての使いやすさという観点から、機械や道具のあり方を研究する「人間工学」(エルゴノミクス)という学問があるが、その考え方をとりいれた製品が増えている。またビジネスシーンでも、パソコンの普及により長時間椅子に座ったまま過ごす人が増えたこともあり、体に負担のかからない椅子が注目されている。
椅子が進化し、よい製品と出会えそうな今、いつも座っている椅子について見直してみよう。
正しい姿勢の基本は、あごを引き、首をできるだけ長く伸ばし、背筋も伸ばして、腰をあまりそらさず、お尻も後ろに突き出さないまっすぐな姿勢である。こうすると、背骨や背骨を支えている筋肉に無理な負担がかからない。座っているときも立っているときも同じ。ただし、立っているより座っているほうが、腰に大きな負担がかかるのだ。
楽に立っているときに、腰の椎間板にかかる力を100とすると、背もたれのない椅子に腰かけたときは、40%も増えるとか。座った姿勢のときは、立っているときより体の重心線が椎間板の近くを通ることになり、腰の筋肉などがより強くはたらいて腰椎への圧力を増すためだと考えられる。それだけ、座ることは体に負担がかかるのだ。
ちなみに、座る姿勢が悪いために起こる体のトラブルや病気で、最も警戒すべきは腰痛。そのほか、背中の痛みや肩こり、精神的なストレス、内臓のトラブル(胃腸の調子を崩したり便秘になるなど)などが考えられる。また、パソコンを長時間使っている場合だと、視力低下や眼精疲労、腱鞘炎を招くこともある。
では、さまざまなトラブルを回避するためには、どんな椅子を選べばよいのだろうか。パソコンに向かう場合を中心に、体によい椅子選びのポイントを紹介しよう。
背骨は通常、S字状のカーブを描いている。正しい姿勢で座るためには、この背骨のカーブが保たれ、背もたれに背中がぴったりついて体重を十分支えてくれる椅子が、体に負担がかかりにくくてよい。パソコンを使う場合、高さや背もたれの角度が調節できる、肘かけのある椅子を選ぼう。ちなみに、机の高さは、椅子に座ってキーボードに手を置いたとき、肘が90度になることが望ましい。
もちろん、普段使っている椅子が理想に叶わないからといって、すぐ椅子を買い換えるわけにはいかない人もいるだろう。最後に、椅子を座りやすくする簡単な工夫を紹介しよう。