システム開発は、物事に名前を付ける作業の連続。一般の仕事でも、名前の善しあしは永久に残り、設計思想をも表すものだ。
開米瑞浩著 『ネーミングの掟と極意』(翔泳社刊)
人間が何かを考えるときは、アタマの中だけでなく、考えたことを声に出して図を書いてみることで、より理解が深まり、新たな発想も生まれてきます。
それをわかっていた椎名先輩は、安藤君に「プレゼン」をやらせました。プレゼンテーションというのは、まさしく「考えたことを図に書き、ゼスチャー混じりで大きな声に出して説明する」活動なので、この目的には最適なのです。(p.24)
Biz.IDでも連載を持つ開米瑞浩氏の著作。他に類を見ない「名前のつけ方」の解説書である。
名前とは何か? 著者は「すべてのコミュニケーションのベースになる重要な要素であり、建築物でいうなら土台に当たる部分」としている。そのうえで、名前を付けることの重要性を次の3つの理由を挙げながら力説する。
1つ1つ見ていこう。まず、「名前の良し悪しの影響」。これは、あなた自身の下の名前を思い浮かべればすぐに分かるだろう。一度付けた名前はそう簡単には変えられない。変な名前を付けられたばかりに小学生時代にからかわれた、という例もある。同様に、仕事においても誰もが違和感を抱きつつも「今から変えるとなるとあちこちに影響するから……」ということで放置される名前もあるだろう。
例えば、「似たような社内資料が多すぎて困る」という記事で取り上げた事例がまさにそうだ。
次に、「誰でもすぐに始められる」という点。これについては、本書では「ネーミングに成功するための7つのワーク」という7カ条でまとめられている。
BOOK DATA | |
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タイトル: | ネーミングの掟と極意 |
著者: | 開米瑞浩 |
出版元: | 翔泳社 |
価格: | 2394円 |
読書環境: | ×書斎でじっくり ◎カフェでまったり △通勤でさらっと |
こんな人にお勧め: | ファイル名やメールの件名をつける際に悩みまくる人 |
それぞれのワークの詳細については本書に譲るが、いずれも具体的な事例とともに解説されており実践的だ。
最後の「教育効果」。これについては本書の体裁そのものが物語っている。冒頭での引用にも登場する椎名先輩と安藤君という2人の人物による掛け合いで話が進行する。後輩である安藤君が椎名先輩とのやり取りを通して、少しずつネーミングの極意を身につけていく過程を疑似体験することができるわけだ。
本書はエンジニア向けの本ということで、挙げられている事例はプログラミングの知識なしには理解が困難なものもあるが、解説そのものはエンジニアでない人にも分かるように書かれている。エンジニアでなくともドキュメントの名前やコンピュータファイルの名前など、チームで仕事をしていく上で誤解の少ないコミュニケーションを目指そうとするなら、読んでおくと役に立つ1冊といえるだろう。
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