Salesforce.comがCRMにとどまらない、開発環境をもオンデマンド化したサービスに乗り出す。この発想は、ソフトウェア産業の抜本的な構造変革につながる可能性がある。
「これまで当社はオンデマンドCRMアプリケーションによってSaaS(Software as a Service)市場を牽引してきた。これからはそのアーキテクチャーを基に、CRMにとどまらないアプリケーションの開発環境をオンデマンド化したPaaS(Platform as a Service:サービスとしてのプラットフォーム)市場を切り開いていく」
セールスフォース・ドットコム日本法人の宇陀栄次社長は、18日に行ったオンデマンドCRMアプリケーションの最新版「Salesforce Summer '07」の発表会見でこう強調した。会見は、米国本社が米国時間16日に発表した内容を受けたもので、2006年秋以来アプリケーション開発環境のオンデマンドサービス構想を描いてきた同社が、「PaaS」という新たなキーワードとともに同構想を正式に打ち出した格好だ。
Salesforce Summer '07は、同社の主力製品であるオンデマンドCRMアプリケーションの23代目となる最新版で、独自のオンデマンド・プログラミング言語「Apexコード」の採用をはじめ、ワークフロー機能、テスト環境、ポータル機能などを大幅に強化した。8月から提供開始される。
中でも同社がこれから展開するPaaSの重要な要素となるのが、Apexコードだ。Javaに似た開発言語で、Javaプログラマーであればすぐに使いこなすことができるという。また、Apexコードで開発したアプリケーションはWebサービスとして利用でき、SOAP(Simple Object Access Protocol)やXMLを通じてアクセス可能としている。
このApexコードを使って、パートナーであるシステムインテグレーターやソフトウェアベンダーに顧客向けの新たなアプリケーションを開発してもらい、同社のオンデマンドサービス基盤のもとで企業向けアプリケーションの世界を広げていこうというのが、PaaSのビジネスモデルである。
米国本社のマーク・ベニオフ会長兼CEOは、今回の新製品および新戦略についてこう語っている。
「PaaS環境では顧客が必要なコードを作成し、当社のサーバ上で実行することができる。つまり、ソフトウェアなしのプログラミングと言うことができる。これはまさに“ソフトウェアの終焉”といっても過言ではないだろう」
PaaSはまさしくオンデマンドによるアプリケーションの開発環境であり、Apexコードの浸透によってシステムインテグレーターやソフトウェアベンダーのビジネスが成り立てば、それがひいてはソフトウェア産業の抜本的な構造変革につながる可能性もありそうだ。
ただし、一方でPaaSは、SaaSのようなアプリケーションのシェア争いにとどまらず、OSに象徴されるようなユーザーの囲い込み合戦に発展する可能性もある。さらにその前に重要なのは、ビジネスモデルとして成り立つかどうかだ。先ごろ、SaaSにも本格参入することを表明した日本オラクルの新宅正明社長は「SaaSは強力な製品と市場のパイが大きくないと、収益を上げにくい」と語っていた。はたしてPaaSはどうか?
セールスフォース・ドットコムでは、Salesforce Summer '07およびPaaSのキャッチフレーズとして「IT Ready」という言葉を打ち出している。さしずめPaaSは「ITがすぐに活用できるプラットフォーム」といったところか。SaaS、そしてPaaSの流れは、今後ITがユーティリティ化していく上では必然のトレンドだろう。セールスフォース・ドットコムの今回の発表は、まさしくそのターニングポイントとなりそうだ。
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