500MB未満なら一切通信料がかからない、ソネットの「0 SIM」は、登場直後から大きな話題を呼んだ。MVNOの登場によって通信料金は大きく下落しているが、それでも完全に無料というものはなかった。0 SIMの前身は、エムオン・エンタテインメントの雑誌「デジモノステーション」の付録「コラボSIM」だ。当初は雑誌の付録限定の料金プランだと思われていたが、So-netはこれを一般サービス化した。その際の名称が0 SIMとなり、新たに音声通話対応SIMと、SMS対応SIMも発売されている。
あまりにユーザーに“有利”な条件になっているため、「本当に1円もかからないのか」「解約手数料が高いのではないか」「期間が限定されていて自動的に解約になるのではないか」など、疑いの目で見るユーザーもいたほどだ。
確かにユーザーにとってみれば非常にうれしいサービスだが、0 SIMはあくまでいち企業が提供しているもの。ボランティアではないので、収益をきちんと出せなければ、継続していくことができない。MVNOである以上、帯域を大手キャリア(この場合はドコモ)から買わなければならず、毎月大きな支出も発生する。ユーザー全員がお金を払わなければ、大きな赤字を生み出してしまうことになる。ユーザーが疑問を投げかけたのも、その持続性がどう保たれているのかが見えなかったためだろう。
この大胆な料金プランはどのような観点で企画されたのか。また、本当に収益性があり、将来に渡ってきちんと提供が続けられるのか。こうした疑問を、ソネットで0 SIMを企画したネットワーク基盤事業部門 兼 モバイル事業部門 部門長の渡辺潤氏と、マーケティング基盤事業部門 営業部 マーケティング課 課長の森静子氏にぶつけた。※本稿の価格はいずれも税別。
―― 最初に伺いたいのは、どのようなコンセプトや経緯で0 SIMを企画したかということです。0円というのは大きなインパクトがありましたが、普通だとなかなかそこには踏み込めないと思います。
渡辺氏 今メインで使っているスマホだけでなく、もう少しデバイスの裾野を広げたい。生活の中で、SIMが入った端末が1個だけというのではなく、挿せるものについてはなるべく挿して使うというふうになればいいなと思い、企画をしました。
家の中に余っているスマホがあれば、それにこのSIMを入れてもいい。その端末を起点にしてBluetoothで周辺機器をつなげて、家の外から何かをするというような使い方もあります。そういうものも含め、スマホは1人1台ではないという形が広がってほしいという思いで出しています。
もちろん、0 SIMをメインにされる方もいて、それはそれでいいのですが、500MB未満までであれば、そういう使い方もできますという提案ですね。
―― とはいえ、0円というのはやはりインパクトが大きかったです。そこまでする必要はあったのでしょうか。
渡辺氏 常に挿してもらうことを考えると、有料だとなかなか使いづらい。毎月数百円でも、積みあがると結構な金額になりますからね。500円でも年間6000円で、そうなると果たして3台目、4台目とSIMを挿してもらえるのかという疑問があります。
―― ただ、1円も受け取らないのは、ソネットさんにとっても困りますよね。
渡辺氏 あくまでそういう使い方のときに、お金がかからないということです。確かに500MBを皆さんが超えないと成り立たない一方で、これは基本として、何か必要なときにオーバーして使っていただく。そうなれば、ありがたいと思っています。
MVNOが出てきて料金がかなり安くなり、一部のヘビーユーザーのトラフィックは非常に大きくなっています。ただ、0 SIMの場合、500MB以上は傾斜がかかって高めに設定されているので、ヘビーユーザーが使うにはあまり適していません。ヘビーではなく、クレバーに使うユーザーを想定しているのです。
今でも上限まで使う方はあまりいらっしゃいません。500MBで収めようとするため、大量にトラフィックをはく方もいない状況です。
―― やはり、みんなが450MBぐらいで止めると困ることは困るんですね(笑)。
渡辺氏 そういう使い方もありだとは思っていますが、時々使ってやろうじゃないかと思っていただけるとうれしいですね。ただ、今でも採算が悪いかというと、実はそうでもありません。すごくもうかるかと聞かれれば、もうかりませんが、赤字で続けられないということもありません。
―― では、もうからないから「やめます」ということにはならないわけですね。
渡辺氏 今のところはありません。
―― トラフィックの状況は、通常の料金プランとは違うのでしょうか。
渡辺氏 先ほど申し上げたように、ヘビーな使われ方はされていません。皆さん上手にコントロールされているので、そこまで大きなデータは流れていない状況です。
―― 時間による偏りについてはいかがですか。
渡辺氏 時間帯によっては遅くなることも当然ありますが、詰まって通信できないということはないですね。
―― やはり昼休みは遅くなりますか。
渡辺氏 そうですね。お昼と、夜は一部の時間が遅くなります。ただ、夜については、お昼ほど体感として遅くなっていると分かるほどではありません。1台目のSIMだとトラフィックがガンと上がってしまいますが、そうではないので、ピークがスパイクしない特徴があります。
―― 帯域はほかのサービスと分けているのでしょうか。
渡辺氏 はい。分けています。当初はどのくらい波が立つのかが見えなかったので、そうしました。ただ、ソネットとして一定のポリシーがあるので、そこまでプランによって速度が大きく違うということもありません。(帯域を)増設するタイミングによっては、その直前に少し遅くなるということはありますが……。
―― 帯域も増やしているんですね。
渡辺氏 はい。それは今もしています。「0円だからすごく遅くて使えない」というものは、出したくないですからね。
―― 先ほど、3台目、4台目というお話も出ましたが、今は1人1回線に制限されていると思います。やはり、1人で何枚も契約されてしまうのは厳しいということでしょうか。
渡辺氏 いろいろな使われ方をするようになってくるので、そこは、これからを見ながらだと思っています。1枚にしているのは、法人で大量に使われてしまうことも出てくるだろうと想定したためです。まだやり方ができあがっていませんが、1人が複数契約できるようにはしたいと思っています。
―― 2回線契約できれば、デュアルSIM端末に挿して合計1GB使えると考える人も出てきそうで、実際にSNSでの反応を見るとそういった意見もありました。
渡辺氏 そういうふうに工夫して使っていただくのも、ありだと思います(笑)。それでも、今までにない使い方ですからね。
―― 今は、どういう方が契約されているのでしょうか。
渡辺氏 やはり、リテラシーの高い方が多いですね。ただ、データの中身を見てはいけないので、あくまでTwitterの投稿など、外から見られる声での印象です。
森氏 SIMを買って、お父さん、お母さんに「無料だから使ってみなよ」という方もいますね。実際私もそうで、母はクックパッドだけを使いたいので、0 SIMを渡しています。リテラシーの高い方の周りに広がるというのは、狙いとしてありました。
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