米Qualcommは6月5日(現地時間)、台湾の台北市内で開催されているCOMPUTEX TAIPEI 2012で、同社のモバイルコンピューティング戦略に関するプレス向けミーティングを実施した。米QualcommのQCT(Qualcomm CDMA Technologies)製品管理担当シニアディレクター、スティーブ・ホートン(Steve Horton)氏によるSnapdragonに関する新しいブランディング戦略の説明のほか、Snapdragonを搭載したリファレンスデバイス上で動作する「Windows RT」(Release Preview版)のデモが行われた。
Snapdragonといえば、スマートフォン向けSoC(System on Chip)で大ヒットをとばした人気商品であり、ITmediaの読者であればその名前を聞いたことがあるだろう。ブームのきっかけは、Googleがスマートデバイス市場に参入する際にリリースした「Nexus One」でAndroidのリファレンスデザインに採用され、一気に利用が広まったことにあると考えられる。
その後、Windows Phone 7の登場時にもMicrosoftにリファレンス製品として採用されたほか、間もなく製品版が登場するといわれている「Windows 8」の世界では、QualcommがARM版プラットフォームで規定されている3つのSoCベンダの1社に選ばれ、Snapdragonならびにドライバの提供を行っているなど、多くのプラットフォームに採用されてきた。
もともとSnapdragonは「顧客向けにカスタマイズされたSoCを提供する」というSoCベンダの常もあり、製品そのものは個々のコンフィグレーションを反映した型番がつけられ、それで区別されていた。だが2012年を期にQualcommでは「体系をシンプル化する」というマーケティングメッセージを反映し、世代ごとに「S1」「S2」「S3」「S4」という形でシリーズ名をつけており、2012年に登場した現行世代では「Snapdragon S4」の名称でブランディングを行っている。
過去の製品についても、後付けで「S1」から「S3」のブランド名が付与された。今回はこれに加えてさらに「Prime」「Pro」「Plus」 「Play」と、対応する製品カテゴリに応じて4つのブランド名を付与している。最上位がPrime、エントリーモデルがPlayに該当する。
Qualcommでは、他社製品に対するSnapdragonの優位性をいくつか挙げている。その1つが「独自開発されたプロセッサコア」で、ARMからIPと呼ばれる設計図を購入している他社製品とは異なり、より電力効率が高く、高パフォーマンスのSoCを提供できていると説明する。
それを実証すべく、デモ映像も公開した。この映像は、Snapdragonとライバルの同等製品でCPUに負荷がかかるDhrystoneを同時に動作させ、その温度変化をサーモグラフィで比較するというものだ。プロセッサは電力を消費すればするほど熱を発するので、同じパフォーマンスでも電力効率が高ければ発生する熱量は抑えられる。つまり発熱が少ないということは、それだけバッテリー駆動時間が延びるということでもあり、Snapdragonはこれを実現しているというのが同社の説明だ。またお遊びとして、これら端末に“バター”をのっけて、それが溶ける過程を比較する「Melting Butter」というデモ映像も公開されている。これについてはYouTubeにも映像がアップロードされているので、ぜひ確認してみてほしい。
Qualcommが公開した、Snapdragon S4の電力効率のよさ、発熱の少なさをアピールする映像。サーモグラフィによる温度の違いや、バターの溶け方などで“発熱の少なさ”を伝える (表示されない場合はこちらから) |
Snapdragonのもう1つの優位性が製品ラインアップだ。Snapdragon S4をとっても、前述のようにハイエンドからエントリーまで4種類のカテゴリーが存在し、それぞれの要求に応えている。3Gから4G LTEまで、通信モジュールを含む豊富なチップセット環境を提供できる数少ないベンダの1社である。主にハイエンドを中心、あるいはローエンドを中心にラインアップを構成しているARMプロセッサベンダー他社との大きな違いがここにある。
盛り上がりつつあるローエンド向け市場戦略に関してホートン氏は「基本的には、技術がハイエンドからローエンドにまで落ちてくることを念頭に、ラインアップの拡充で対応していく」と説明する。例えば初めてSnapdragonが発表された当初、市場には1GHz駆動のARMプロセッサはなく、「こんな性能を何に使うんだ?」と言われるくらい、超ハイエンドの存在だった。だが現状ではローエンドの「S4 Play」が1GHzのデュアルコアプロセッサになっていることからも分かるように、結果的に当時のハイエンドがローエンドのレベルまで落ちてきている。もちろん価格も手ごろになってきており、こうした形で広がったラインアップを、それぞれのカテゴリーに当てはめていくというのが、前述のS4における4つのカテゴリーというわけだ。
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