リアル店舗でせめぎあう「都合のいい店員」と「都合のいい客」牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2012年06月28日 10時30分 公開
[牧ノブユキ,ITmedia]

目的にふさわしくない店員に接客を求める人々

 ネット通販の普及によって、量販店(ネット通販に対するリアル店舗)の役割は数年前とは大きく変化した。かつては、送料がかかるネット通販は不利といわれたが、Amazon.comのように送料無料を打ち出すサービスもあるので、価格面のハンデはかなり解消されたといっていい。業態にも依存するが、ネット通販で安く買えることも珍しくない。

 こういう現状におけるリアル店舗のメリットを挙げるならば、以下の項目になるだろう。

  • 現物を見られる
  • 在庫があれば持ち帰れる
  • 店員の説明を受けられる
  • 値引き交渉ができる

 店員に製品について質問するためリアル店舗を利用する人は、依然として多い。周りに詳しい知人がおらず、ネットで質問するのもまどろっこしい。それなら量販店に行って店員に直接聞いてしまえ、というわけだ。どの製品にするか家族で意見がまとまらず、店員にアドバイスを求めにいくというのも、よくあるパターンという。

 ところが、店員を頼りたい人に限って、その目的にまったく適さない店員を捕まえてしまう場合がある。競合製品との違いを見極めるために質問したいのに、違うメーカーに肩入れする立場の店員に質問してしまったり、価格交渉をしたいのに値引きの権限がない店員を捕まえてしまったりするケースだ。そんな無駄足を踏まないために、「店員の身分の違い」と「店員と応援販売員の違い」という2点に集中して解説しよう。

量販店にいる店員は同じなようで同じじゃない

 量販店では基本的に、一般社員が出世して売場を統括するフロア長になり、そこからさらに昇進して店長や副店長、チーフなどと呼ばれる役職になっていく。一般社員はいわゆるヒラで、入社したての新人もいれば、ある程度年季が入っていながら昇進とは縁のないベテランもいる。身分については、正社員の場合もあれば契約社員の場合もあるなど、量販店によって異なる。

 店頭で接客にあたるのが、この一般社員だ。フロア長は、彼らを統括する立場になる。フロア長が接客することは、100パーセントないわけではないが、フロア長が接客しているとなると、自己マネジメント能力の低さを露呈しているようなものなので、トラブルシューティングのような特殊なケースを除き、普通はありえない。

 一般社員は、それぞれの専門分野について詳しい知識を持っている(とされる)が、その一方で、値引きに関する権限は弱い。一定のラインまでは自己決断で値引きを許されているが、ある程度のレベルになるとフロア長に伺いを立てる必要がある。そういう意味では、値引き交渉をする相手として不適切ではないのだが、こうした仕組みを知っておかないと、値引きをお願いするたびに店頭で延々と待たされることになる。

 一般社員の中でもある程度のベテランになると、肩書きはなくとも、ある程度の値引きの権限を持っているケースがある。また、値引きは無理でも、何らかのおまけをつけるなど、店の決済ルールの裏技を駆使するテクニックを持っている場合もある。こうした店員は、製品についての説明も聞けて一石二鳥ということで、わざわざ店頭に足を運ぶだけの価値がある。

 逆に若手の店員になると、こうしたテクニックもなければ、製品についての知識もまだまだあやふやなところがあり、購入相談の相手として適切でない場合が多い。上の人間がついていなければ何もできないレベルの新人をOJT目的で立たせているのであれば、かえって権限のある店員を引っ張り出すのに役立つ場合もあるが、それは、たまたま運がよかったね、というレベルの結果論にすぎない。

 いずれの場合も、量販店における店員のレベルは差があり、若手よりもなるべくベテランを狙うのが、商品説明の面でも価格交渉の面でも購入する側にとって都合がいい。もちろん、ベテラン店員は接客に長けているだけに、“得したつもりが得していなかった”ことも有り得るし、白物家電などならまだしも、PC周辺機器やスマートフォンなどの最新機器については、プライベートの時間を費やしてでも知識をつけようと取り組んでいる若手店員が相談するのに適切なこともある。とはいっても、逆に店員個人の好みを押し付けられる可能性もあるので、どちらがよいとはいえない。「商品のカテゴリにもよるが、基本的には若手よりベテランを狙う」という作戦で間違いないだろう。

応援販売員は応援するメーカーに有利な説明をする

 量販店の店頭には、販売店側の社員とはまったく別の属性を持った「店員」がいる。それはメーカーが派遣した応援販売員だ。バイトの場合もあれば、派遣会社が手配している場合もあるが、いずれにしても、メーカーが費用を負担し、自社製品の拡販を目的に店頭に立たせている「準店員」にあたる存在だ。店側が派遣を強要するのは独禁法の禁じる「優越的地位の乱用」に当たるので、表向きはメーカーが自主的に派遣したことになっている。セール期間中などには、メーカーの営業部門に属する社員が店頭に立つこともある。

 彼らは、派遣元の製品について詳しい知識を持っており(当たり前だ)、その点においては量販店の店員よりも頼りになる存在だが、そもそも、派遣元の製品を売るために雇われている立場上、客のニーズに合わせて競合メーカーの製品を勧めるといった考えを持たない。中には競合メーカーの応援販売員同士でそうした客を相互に融通し合っている場合もあるが、基本的には、派遣元の製品が買いたくなるように誘導することになる。そもそも、競合メーカーの製品に関しては、直接の比較ポイント以外は詳しくないのが実情だ。

 こうしたことから、すでにそのメーカーの製品に決めていて最終確認だけを行う場合や、該当のメーカーの製品同士で比較検討をしたい場合であれば、頼りにはなるかもしれないが、それ以外のケースにおいては、応援販売員から客観的な製品説明を受けるのは、まず無理といっていい。応援しているメーカーの製品同士を比較するといっても、製品ごとの売上ノルマに左右されるのが普通であり、どこかで必ずバイアスはかかることになる。

 ただ、「応援販売員は必ず派遣元に有利な説明をしてくる」ということを考慮していれば、どのメーカーに肩入れしているか分からない量販店店員から説明を聞くのに比べると、むしろ、バイアスを差し引きやすいメリットはある。例えば、A社から派遣されている応援販売員が、A社の製品のメリットを語ったときは割り引いて考え、逆にライバルであるB社の製品のメリットをわざわざ語ったときは、それだけ信憑性が高いと判断する、といったようにだ。

 応援販売員は、ジャンパーやウィンドブレーカーの色やデザインで量販店の店員とは見分けがつく上、名札を見ればどのメーカーから派遣されているかがすぐに分かるので、どうしても応援販売員に説明を求めなくてはいけない場合は、このテクニックはそこそこ使える。

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