WWDC 2016でMacの最新OS「macOS Sierra」が発表された。今は開発者向けバージョンのみ公開された状態だが、来月にもパブリックβ版、そして秋には一般向けにリリースされる。このOSはもしかしたら、マウス操作が世に広まって以来の、最大の操作革命を引き起こすかもしれない。
macOS Sierraで最も重要な新機能はSiriだろう。ご存じの通り、1984年に登場したMacは、マウスを使ったGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)のパソコン操作を世界に広めた。
それ以後もAppleは30年以上にわたってGUI操作のブラシュアップを重ね、つい最近では2〜4本の指でのマルチタッチも一般的な操作方法の1つとして確立した。
ただし、GUI操作である以上、ユーザーは目標達成までの道のりをメニューに用意された操作に分割し、1ステップずつこなしていかなければならない。
例えば、先週同僚から送られてきたPDFファイルを見つけるにしても
といった操作が必要になる。
これが音声操作であれば、メニューバーの右からSiriを呼び出し「先週作成されたPDFファイルを表示」「同僚が作成したものだけ」と声にすれば、たちどころにファイルの一覧が現れる。
音声操作は。アプリの切り替えやメニューにカーソルを合わせてクリックするといった目的達成の途中にある細かな操作ステップ、さらには文字の入力など、これまでのGUI操作では当たり前だった手間を一切なくし、いきなり目的を達成する操作として長らく期待を集めていた。
Appleも1990年代に一度、音声操作にチャレンジするが(※1)、当時はまだ認識率も低くほぼ実用化されずに終わっていた。しかし、その後、音声の認識率が飛躍的に向上。しかも、軽妙な受け答えもできるSiriが5億人以上のユーザーを抱えるiPhoneに搭載され、操作方法の1つとして一般化したこのタイミングで、複雑な編集作業を得意とするMacにもこのSiriが搭載された。
扱うファイル数も閲覧するWebページも、iPhoneやiPadより格段に多いMacに搭載されることで、アシスタント機能の「Siri」自体も大きな発展を遂げそうだ。
macOSとiOSの最大の違いは「ファイル」というものを意識するか否かだ。大容量のSSDやHDDに大量のファイルを溜め込んで使うパソコンでは、ユーザーは日々、目的のファイルを探したり、加工したりしている。このファイルを見つけ出す操作でSiriは絶大な効果を発揮するだろう。
作成日や容量、最後に開いた日付などFinderに用意されたさまざまな検索条件を使い、例えば「PDFファイルを見せて」といった具合に音声で指定。その後、「その内、今日作成されたものだけ」といった具合に絞り込んでいく。マウスカーソルをSiriアイコンに置いたままボタンを押し、声の命令を繰り返すだけで、どんどんファイルが絞り込まれていくのは、これまでのFinder操作と比べても圧倒的に楽だ。
中には「オフィスの中で声を出して操作するのか」と否定するための理由を先に考える人もいるかもしれない。しかし今から8年ほど前、日本に「iPhoneみたいな(新しい形の)端末で通話するなんて受け入れられない」と言っている人が大勢いたことを思い出してほしい。人の習慣なんて案外早く変わってしまうものだ。ましてや、仕事をする場所で、仕事を効率良く進めるための操作とあれば、それに文句を言う人はいないだろう。
もちろん、ほかの人と比べて声が大きい人など配慮が必要なケースはあるだろうが、それは今日における、他の人と比べてタイピング音が大きい人などでも同じこと。周囲の人に迷惑をかけていないか注意できる気遣いは音声操作を使うか使わないかとは別次元の話だ。
具体的にSiriで何ができる?
それでは新たに搭載されたSiriで、何ができるようになるのか、もう少し具体的に見ていこう。
圧倒的に便利なのは、前段でも紹介したファイルの検索だ。Siriウィンドウに表示される検索結果の右上に「+」マークが描かれている。これをクリックすると、検索結果の一覧が通知センターに保存される。例えば「PDFファイルを見せて」と言った検索の結果は、スマートフォルダ(新たにPDFファイルが追加されると内容が更新される)になっている。
検索結果はいくつでも登録できるようだが、現在の開発途上版のままではダメだな、と思ったのは一覧の上の見出しが単に「Finder検索」となっていて、いっぱい検索結果を張り付けると、どれがどの検索結果で呼び出したファイルか分からなくなること。リリースまでまだ時間はあるので「PDFファイルの一覧」といった具合に検索条件が分かる見出しに直してほしい。
検索結果を画面右端に隠れる「通知センター」に保存するというのは、なかなかよいアイデアで、全画面表示アプリケーションを使用中でも、一度、Finderに切り替えることなく通知センターを呼び出して簡単にファイルのドラッグ&ドロップ操作が行えて便利だ。
ピン留めできるのはファイル検索の結果だけではない。現行バージョンはまだメジャーリーグなど米国のスポーツの試合結果くらいしか見られないが、プロスポーツの試合のスコア情報などもピン留めできる(ぜひともオリンピックに対応し、サッカー情報も充実させてほしいところだ)。
このほか、Macをスリープさせたり、スクリーンセーバーをオンにしたり、音量をあげたりする操作もすべてSiriへの命令で実行でき、使用しているMacのCPU速度や搭載メモリ量、シリアル番号、SSDやiCloud上の空き容量を音声で調べられる。
もちろん、こうしたMacならではの利用方法だけでなく、すでにiPhoneで実現しているように、どこそこで撮った写真、いつ撮った写真と条件を絞って写真を見つけ出すこともできれば、後述する「写真」の新機能で「誰それが写っている写真」でも絞り込むこともできる。
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あるいは、声だけでメールを作成して送る、音声でメモやリマインダーを作成する、株価や天気を調べる、音楽を再生する、Webで検索したりツイートをするなど、iPhoneを使いこなしている人が期待する一通りのことはできる。
ただ、一つだけ残念だったのは、スマート家電製品を制御するHomeKitがmacOSには搭載されていないため、家電の制御までは行えないこと。筆者は自宅の電気をすでに半分以上(14個)、フィリップスのHueと呼ばれるHomeKit対応の電球に切り替えており、「寝室の電気を消して」や「廊下の照明を暗くして」と言った具合にiPhoneからSiriで操作していたので、これをMacで実現できないのは残念に思う。
iOSから始まり、watchOS、tvOSそしてmacOSへと広がってきたSiri、基本エンジンは同じだが、利用する機器によって少しだけできることが違う。今後、Appleがこうした機能の有無をどう補っていくかは注視していきたいところだ。
Siriに関して、macOS SierraがiOSにもう一つ追いつけていないところを書こう。それはディクテーション(音声文字入力)における言語切り替えだ。画面上に表示されるソフトウェアキーボードからディクテーションを起動するiOSでは、英語キーボードの状態でマイクボタンを押せば英語の文字入力が、日本語キーボードなら日本語の文字入力が行えるが、Macではディクテーションの駆動方法がfnキーの2連打となっており、第一言語が日本語だとディクテーションも日本語でしか行えない。できれば、日本語キーボードの「かな」キー2連打で日本語、「英数」キー2連打で英語といった言語切り替えの機能を実現してほしい。
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