Firefoxのオープンソースブラウザ担当役員・Mike Beltzner氏が、米Lifehackerの電話インタビューに快く応じ、Firefoxの今後からGoogle Chromeまで、大いに語ってくれました。こちらではそのインタビュー内容をお届けします。

まずは、本題に入る前に、Beltzner氏の略歴を簡単にご紹介。

Beltzner氏の略歴

加トロント・クイーンズ大学(Queen's University)でコンピュータ・数学を専攻した後、認知科学の修士号を取得。IBMに就職し、ユーザエクスペリエンス部門やオープンソースEclipseのプロジェクトに従事。Mozillaに移り、ユーザエクスペリエンスチームを3年間率いた後、2008年7月から現職。

意思決定やコミュニケーションはオープンにすることがモットー。徹底的な分析や多面的な物の見方・考え方を心がけているそう。

お待たせしました。それでは、インタビューの様子をどうぞ。

  

Lifehacker: Firefoxの役員として、普段どのような一日を送っていらっしゃいますか?

Beltzner氏: その日によるんですが、それでは答えになっていませんね。大まかに言えば、全体の50%はコミュニケーションに費やしています。Firefoxの役員として自分がやるべきことは、ソフトウェア開発における様々な活動をうまくコーディネートすること。メンバーたちにより多くの成果を発揮してもらうため、「今日一日、何をすべきなのか?」を各自きちんと理解させるようにしています。例えば、現在、Firefox3.5.2に取り組んでいるのですが、様々な問題が日々起こります。これらを、リリースチーム・エンジニアチームなど、適材適所に振り分け、解決に導くのです。そのためには何よりも明確なコミュニケーションが大切だと考えています。

25%は自社製品に関するフィードバックを集めること。重要なものや対応すべきものをチェックします。今後の要対応事項の洗いだしといってもいいかもしれません。残りの25%は一般的なマネジメントです。Firefoxの経営陣は、開発者に費用の心配をさせないこと、開発者が抱える問題の解決をサポートすることが仕事です。また、自分も心はまだソフトウェア設計者。時々、ユーザチームとともに設計に携わることもあります。

Lifehacker: GTDに活用しているツール・ソフトウェアがあれば、教えてください。

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Beltzner氏: Zimbra calendarは手放せませんね。全ての予定はこのカレンダーに入力して共有し、いつ私が空いているのかがみんなにわかるようにしています。iPhoneユーザなので「iPhoneのメールクライアントはしっかりしてるぞ」と自分に言い聞かせつつ(笑)、タスクマネジメントには「Things」を使っています。

最も大事なことはタスクを書き出したらそのフォローを忘れないこと。wikiやWebツール、ペーストビン(pastebin)に至るまで、様々なツールを使っていますが、Wiki.mozilla.orgが自分には一番合っているかな。アイデアの共有に使いやすいですね。また、ちょっとしたことを手書きできるように、メモ帳も持ち歩いていますよ。必要なことはwikiに書き出しておいて、自分で対応しきれないものは、そのままメンバーに送って共有するようにしています。

メンバーみんなの仕事をスムーズに遂行させることが私の仕事。インスタントメッセージはいつも立ち上げていますし、Twitterで一緒に仕事しているメンバーはフォローしています。Firefoxの開発者の間でウェブやソフトウェアの最新情報を共有するときは、Twitterを使うことが多いですね。

Lifehacker: Firefoxはオープンソースの分野で成功した稀有な例だと思います。外部の開発者たちが多く参加しているのも特徴的かと。例えば、Firefox 3.5の開発では、社内メンバー200人足らずに対して、1000人もの外部コーダーが参加したそうですね。外部の人々の仕事を管理するのは大変ではないですか?

Beltzner氏: 基本的に、他のオープンソースソフトウェアベンダーと自分たちはちょっと違うかなと思っています。Mozillaは6~8人でスタートしましたが、立ち上げ当時はNetscapeがブラウザ戦争で負けたときで、ブラウザ開発に関心のある人なんてほとんどいなかったし、この分野で稼げるわけないという感じでした。Mozillaでの仕事に関心を持つ人なんてほとんどいませんでしたよ。

Mozillaでフルタイムで仕事をするメンバーは、自分の時間をMozillaの仕事だけに使えるという以外、社外にいる他の人々と何ら変わらないと考えていました。例えば、コードのレビューはしますが、それは社内のメンバーがやろうが、社外のメンバーがやろうが同じ。社外のメンバーも開発に貢献していることに変わりはありません。

コリー・ドクトロー(Cory Doctorow)の「whuffie(ウッフィー:Boing BoingのブロガーでSF作家のコリイ・ドクトロウによる造語)」みたいな社会的通貨の概念でいうと、賢明かつ生産的に決断することを積み重ねた人は、プロジェクトおいても、社会的価値を創出してくれます確保すべきは、いいアイデアがあれば誰にでもそのコミュニティに参加し、貢献できる環境。こうすれば、よりよいブラウザのためにきちんと役割を果たしてくれます。たいして難しいことではありません。

Lifehacker: インターフェイスに関する議論はどのように収めるようにしていますか? 多くの人々がアレコレ言ってくると思うのですが...。

Beltzner氏: ブラウザデザインは、それぞれ人によって好みや思い入れがあるものです。私たちも、例えば、「ブックマークバーをどうするか?」について、すごく考えますし、自分で何度も使ってみます。とはいえ、Firefoxは他のブラウザよりもバーチャルになっていて、これは解決すべき問題だと思っています。これを嫌がる人もいるでしょうが、ウェブこそがブラウザの中にあるもののなかで一番大切なものだということをFirefoxは証明してきたと自負していますし、ウェブによって、他のブラウザをも刺激し、よりよい方向に向けた議論になっていくんだろうと考えています。

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ブラウザの使い方は人それぞれ。Firefoxがカスタイマイズ性を重視し、労力を費やしているのはこのためです。例えば、私と妻の使い方も全然違います。私はブックマークメニューには何も登録せずに「Pile」というリストにドロップダウンしたり、Readabilityのようなブックマークツールを活用しています。一方、妻のブックマークバーには何もありませんが、彼女のブックマークはきれいにまとまっています。万人にとって完璧なブラウザなんてありません。だからこそその人にとって完璧なブラウザにできる手段はきちんと確保しているのです。

Lifehacker: 既にリリースした機能の修正と改善、新機能の開発などに対して、それぞれ時間をどのように割り当てていますか?

Beltzner氏: 直接には時間の割り当ては行っていませんが、フェーズごとに管理しています。例えば、今年の3月~6月はFirefox3.5のブラッシュアップに注力しました。特段大きなリリースがなければ、新しい機能の開発に時間を使うようにしています。今後の課題のひとつとして、起動時間は改善の余地があると思います。競合のブラウザに比べてあまりよいとはいえない状態なので、現在、これに取り組んでいるところです。

Lifehacker: Firefoxのバグに関する米Lifehacker読者の指摘の中でもっとも多いのが、メモリ使用に関するものです。「起動時はそうでもないけれど、タブを開けたり閉じたりしてしばらく使っていると、メモリが異常に使われている」という指摘です。この課題は開発者の間で共有されていますか?

Beltzner氏(メールにて回答): 確かに、メモリ使用に関するフォードバックはユーザから頻繁に指摘されるテーマです。プラグインやアドオン・ウェブページのコードミスと何らかの関係があると思われます。Firefox 3では、メモリ配分を効率化し、プラグイン・アドオン・ウェブページによる諸問題をクリアする技術も開発できました。しかし、根本的には、多くのウェブエージでプラグインを使ったコンテンツが使われていて、それがメモリ漏れにつながっているんだと思います。タブでそのページを開ける時間が長いほど、メモリは漏れます。

「Firefox 3 beta 4」と「Firefox 2.0.0.12」を対象に、

1: Alexa 500から別々に30個のタブを開け、

2: さらに300個のタブについて、1つ閉じては1つ開けという操作を行い、

3: 1つのタブを残して全て閉じる

というテストを実施した結果がこのグラフです。

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Firefox3では、タブを開けたり閉めたりしている間にメモリを保持するだけでなく、タブを閉じればメモリのほとんどを解放する仕組みになっています。Firefox 3.5も基本的にはFirefox 3.0と同じはずです。

以上、長い回答になりましたが、この課題について認識はしていますし、これからも継続して改善に努めていきます。ただ、最新のFirefoxではこのようなケースはもうないと思います。

Lifehacker: Firefox 3.6に関するwikiページには、タスクベース・ナビゲーションという項目があります。これはつまり、タスク制御をブラウザに組み込むということですか?

Beltzner氏: 顕在化しつつある課題を挙げておこうという意味合いだと思います。ウェブブラウザという言葉は、ティム・バーナーズ=リー(Timothy John Berners-Lee)のHyperCardの頃から言われ始めたものですが、いまやユーザは、コンテンツを読むだけでなく、リンクしあうようになり、インタラクティブなコミュニケーションを行い、ウェブを通して自身の生活をマネジメントするようになりました。私はこれがなくなるとは思いません。ですから、タスクに基づくナビゲーション機能にも投資する価値ありと感じています。

TaskfoxUbiquityは確実にこの選択肢になるでしょう。それから、MITが開発したChickenfootはウェブの自然言語スクリプトの分野を今後牽引するでしょうね。例えば、オンラインバンキングを使う場合、今のブラウザだと、銀行のサイトに行って、ログインしてはじめて、本来、自分が使いたいページにたどり着くわけですが、これをブラウザに覚えさせておけば、これらのプロセスを経ずに必要なページにすぐナビゲートされますよね。私たちの狙いは、ユーザの操作パターンに潜む意図をブラウザが理解し、よりよい方法でそれを実現できるようにすることなのです。

Lifehacker: GoogleのChromeが多くのメディアで取り上げられています。開発者の間でChromeやその機能について議論することはありますか?

Beltzner氏: Googleはすごいですね。カッコイイと思います。なにがすごいかって、多くの人々に使ってもらってきたことで、Googleが何をやっているのかを彼らにきちんと理解させているということ。Firefoxでは、Chromeの開発リストをチェックしました。おそらく彼らもそうしているでしょう。いずれにしろ、エンドユーザが求める機能を考えることはいいことだと思います。ただ、Chromeの有利な点は、ゼロからの出発なので、とりあえず結果を心配する必要がないことでしょうか。

私たちもいろいろなブラウザを使うようにしていますが、Chromeは他のブラウザよりも、ツール・技術などの面でより注目することになるでしょうね。ブラウザに含められるもの・そうでないものについて、Firefoxの仮説検証にも活用させてもらえると思います。

Lifehacker: Chromeや他のブラウザがリリースされると、スピード比較がよくテストされます。米ライフハッカーでも実施しているのですが、実際、スピードはどれくらい重要ですか?

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Beltzner氏: もちろんスピードは重要です。単にローディングの待ち時間というだけでなく、アプリ開発の観点でも大切なポイントです。最近のJavaScriptエンジンのスピードは、かつてのものとは全く異なります。昔のJavaScriptコンパイラで作られたカレンダーやメールアプリはもう耐えられないでしょう。Firefoxでは、初代のJavaエンジンに比べて10倍の速さのエンジンを使っています。ただし、速さへのこだわりは、技術的な優秀さのアピールというだけのことかもしれません。その他はあまり問題ではないです。

Lifehacker: つまり、JavaScriptエンジンメーカーが作ったテストツールは、そのエンジンをテストする上でベストということですか?

Beltzner氏: そうですね。SunSpiderはAppleのエンジニアが開発したものですが、実によくできていて、FIrefoxのテストでも使っています。実際は、Firefoxのエンジンにはシステム上不都合な点もあるのですが、そこはまあ、いいわけです。それを最適化すればいいのですから。

問題なのは、他の項目に比べてこのテーマを優先させてしまうときのこと。何よりも、SunSpiderにとってベストなJavaScriptを確実に備えていることを選択してしまうとしたら、ちょっと極端ですよね。SunSpiderなどのJavaScriptテストは自動車の馬力テストみたいなもので、エンジンがどう動いているかはわかるけれど、自動車全体のパフォーマンスについて全てを語ってくれるわけじゃない。

他のブラウザより遅いと指摘されている起動時間のことも同様で、そもそもは、ブラウザを立ち上げるのにアイコンをクリックして、ローディングの間、待っているから課題となりうるわけで、この間に他のことをやっていれば別に気にならないかもしれない。つまり、遅いか速いかは、ユーザのそれぞれの受け取り方によることもあるわけです。

いかがでしたか?

Google Chromeなどの他のブラウザと切磋琢磨し、よりよいブラウザづくりにつなげてほしいものですね。Firefoxに対するご意見・アドバイスなどがありましたら、ぜひコメントでご共有ください。

Kevin Purdy(原文/松岡由希子)