脳を鍛えるゲームで賢くなる! インターネットをすると頭が悪くなる! アルコールは脳細胞を殺す! 脳についてはまだ解明されていないことが多く、長い間研究されてきましたが、同時に、多くの間違った情報が世に出てしまいました。そこで米Lifehackerでは、そんな誤った情報の裏にある真実に迫ってみました。
Photo by Igor Nazarenko (Shutterstock).
私たちは、クリエイティビティや思考パターンは生まれつきのものだと思いがち。そこに、右脳型、左脳型という考え方がぴったりはまってしまってしまったというわけです。しかし、「Yahoo Health」にこんな記事(英文)がありました。
右脳型・左脳型という迷信は1800年代からあります。片側の脳にダメージを受けた人が特定の能力を失ったことに注目したドクターが言い始めた説です。しかし、脳をスキャンしてみると、右脳と左脳は当初考えられていたよりももっと複雑にリンクしていることがわかりました。つまり、情報を整理して問題解決しようとしているときも、クリエイティブな思考が必要なタスクを行っているときにも、脳の片側だけではなくて両方を使っていることがわかったのです。ただ、左脳が右半身、右脳が左半身をコントロールするというのは正しい説明なので、右脳を損傷すると左半身に麻痺が出るというのは本当です。
この迷信を用いて、左利きの人の想像力、失読症、同性愛までも説明しようとされたこともありましたが、サウスポーについてはまだ謎が多いのが事実です。確かに、利き手による性質の違いは見られますが、想像力がより高い人は情報処理能力が劣るとか、その反対のことは起こりません。つまり、両方に秀でることは可能なのです。
記憶力のいい人もいれば、あまり良くない人もいます。しかし、完璧な記憶なんてものはありません。自分の記憶力に自信のある人は、目をつぶり、知っている人の顔を思い浮かべてみてください。自分の顔でもいいです。いずれにせよ、細かいところまで完璧にイメージすることはできないはずです。これで、私たちの記憶が見たり、聞いたり、味わったり、触ったりしたものとイコールではないことが証明されます。
心理学者のDan Gilbert氏が彼の著書『Stumbling On Happiness』で説明するところによると、私たちの脳は必要な詳細については記録するものの、残りは必要な場合に思い出すようにできているのだそうです。
私たちの経験は複雑に編み込まれたタペストリーのようになっているのですが、これは記憶に基づいて保存されているのではなさそうです。むしろ、スペースの関係で圧縮され、大事なポイントのみ、要約された形(「ディナーは期待はずれだった」)になっていたり、キーポイントの集約(ステーキ固い、ワインにコルク、横柄なウェイター)だったりします。
後日、その記憶をもっと詳しく思い出したくなったとき、脳は経験の集まったタペストリーを編み直すのですが、そのときに少しだけ記憶を偽造するようにできています。この偽造は実にスムーズに、自然に行われるので、私たちはあたかもそれが実際に経験したことで、細かいところまですべて頭に入っていたと思い込んでしまうのです。
研究者のDaniel Schacter氏は、記憶の仕組みは未来を想像する過程と似ていると言っていますが、Gilbert氏は彼のリサーチを参考にし、以下のようにまとめています。
研究者たちの間で考えられているのは、私たちが未来を想像したり、仮定したりするときに記憶が重要な役割を果たしているのではないか? ということです。そして、その役割を詳しく調べることで、記憶の仕組みがもっとわかってくるのではないか、と考えています。なぜなら、そこから過去の経験を何通りかに組み合わせるシステムや、間違った記憶が出来上がる過程もわかってくるからです。
私たちは、これまでの経験で記憶が完璧ではないことがわかっています。前述のSchacter氏の研究から、重要なことが2つ示されました。一つ目は、私たちは過去の出来事を思い出すのも、未来を想像するのもあまり得意ではない(双方のプロセスが同じだから)ということ。二つ目は、記憶は完璧ではなく、脳は間違った記憶を引き出してしまうということです。これが頭に入っていれば、次に誰かの記憶が間違っていたときに、その人に対して優しい気持ちを持てるかもしれません。
1998年に、アメリカのサテライト放送の広告が全米規模の雑誌に載ったのですが、そこに脳の絵が描かれていました。絵の下のキャプションには、「あなたは自分の可能性のうち11%しか使っていない」とあります。また、同じ年に放送されたABCテレビの秋の新番組「The Secret Lives of Men」の番宣では、画面いっぱいに「男は脳のたった10%しか使っていない」と表示されたのです。
ということは、残りの90%を使ったらどんなにすごいことが可能になるのかと想像してしまいますが、残念ながら、私たちは脳の大部分を普段から使っているようです。前出の「Snopes」には、このような記述がありました。
PETスキャンとMRIで脳の働きを観察してみると、頭を使う複合的な活動には脳の広い範囲が使われていて、一日を通して脳は全体的に使われていることがわかりました。脳の全てが重要であることは、ほんの一部がダメージ受けただけでも障害が起こることからも証明されています。しかし、脳は補完機能を持っているのです。
頭を使う活動、たとえば新聞を読む、演劇を見に行く、チェスをするといったことを生前好んでいたお年寄りの脳を解剖した結果、典型的な認知症による脳のダメージがあったとしても、アルツハイマーを発症しにくいということがわかりました。つまり、脳の機能は使わなければ衰えるのです。脳に刺激を与え続けている人は補完機能も向上するので、認知症やアルツハイマーが見られても、見かけ上は普段と同じように脳が機能します。
将来画期的な発明がされれば、年をとってダメージを受けた脳を簡単に再生することができるかもしれませんが、それを期待して過ごすというわけにもいきません。今できることは、脳を使う活動をし続けることです。
これもよく考えればわかることですが、もしお酒を飲んでいるそばから脳細胞が死んでいくとしたら、すぐに障害が起こって気づくはずです。確かに、アルコールは脳や身体に影響を与えますが、昏睡状態になるまで飲み続けるぐらいでないと、脳にダメージを与えるまでにはなりません。
Grethe Jensen氏が1993年に行った研究では、亡くなった人の脳のサンプルを調べています。その結果、アルコール中毒だった人とそうでない人の脳細胞には、特に違いが見られませんでした。アルコールは、脳細胞を殺すのではなく、働きを抑制するのです。元米LifehackerのKevin Purdyの説明によると以下のようになります。
アルコールは、神経伝達物質のグルタミン酸が神経細胞へ情報を伝達するシステムに影響を与えます。アルコールがシナプスの中のグルタミン酸に侵入すると、情報を送る機能に異常が起きるので、結果的に筋肉や発話、バランス、判断など、脳全体の機能に影響が及ぶのです。
お酒を飲むことで脳に何が起きているかを知った上で、正しい選択をしないといけませんね。
「sweeping generalizations」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか? これは「一般的すぎてほとんど意味をなさない論理」という意味です。これと同じように、広すぎる対象範囲から一つの結論が出ているものは間違いだと言っていいでしょう。ステレオタイプはこういうところから生まれるのです。インターネットが私たちを愚かにするという主張は、ある特定の場面では正しいのかもしれませんが、一般論とすることは間違いです。今のところ、これを裏付けるようなリサーチは発表されていません。
この迷信を私たちが簡単に信じてしまう理由は、インターネットによって人が他力本願になりつつあるからです。どこへ行けばいいのかはGPSデバイスが教えてくれるし、なんでもググればいいので、あまり記憶もしなくなりました。しかし、これが「私たちは愚かになった」につながるとは言えません。心理学者のDaniel Wagner氏によると、私たちは「transactive memory(交換記憶)」に頼るようになったのだそうです。交換記憶は実は便利なもので、全体を記憶するのではなく、名前やキーワードだけを覚えるようにできているので、小さい容量にたくさんの情報を保存できます。あとで全貌を知りたかったら、そのキーワードで検索をかければいいわけです。
このように、私たちは全体を思い出せないことで、自分がインターネットのせいで愚かになったと思い込んでしまっています。インターネットのアクセスがない状況に陥ると、私たちはバラバラの情報のかけらをつなげることができず、途方に暮れてしまうわけです。しかし、科学的な根拠は現段階ではないのですから、「インターネットによって愚かになる」というのはカルチャーとして言われているだけだということになります。
この迷信は、90年代にGordon Shaw博士とFrances Rauscher博士がカリフォルニア大学アーバイン校で行ったリサーチが元になっています。予備調査の結果では、モーツァルトのある曲を聞くと、子供の「時空間的な理由付けをする能力」が向上することが示されました。ここだけが大きくヘッドラインとして取り上げられ、子供を天才児にしたい母親たちをターゲットとしたビジネスモデルができあがってしまったのです。「Skeptoid」というポッドキャストでは、この研究の最終的な結果はそれほど驚くべきものではなかったと伝えています。そして、モーツアルト効果についてこのようにまとめています。
モーツァルトの音楽は、人々が手軽に手に入れられて癖がなく、芸術的にも受け入れやすいものです。モーツァルトを聴くと、一時的に認知能力が上がると示した研究はたくさんありますが、「モーツァルト効果」を数値的には証明できません。残念なことに、メディアが予備調査を無理矢理科学と結びつけて、間違った知識を広めてしまったのです。
その後の研究で、いくらモーツァルト効果は正しくないと発表されても、これは未だ根強く残っている迷信です。もちろん、クラシックを聴いたからといって身体に悪いことはないので、好きな方はどんどん聴いてください。ただ、モーツァルトに過度な期待はしないようにお願いします。
通勤・通学中のゲームで脳力をアップできたら、どんなに素敵なことでしょう。これは、ニンテンドーDSの『脳を鍛える大人のDSトレーニング』のセールスポイントでした。ところが、別にこのゲームでは何も変わらない、と指摘した調査があります。
脳力を向上させるとしているゲームを、18歳~60歳の8600人に一日10分以上、週3回プレイしてもらいました。そして、対照グループの2700人にはゲームをさせず、代わりにネットサーフィンをしたり、簡単な一般知識についての質問に答えたりしてもらいました。6週間後にテストを行ったところ、ゲームをした人たちと対照グループに特に違いは見られませんでした。それどころか、いくつかのセクションでは、ネットサーフィンをしていた人の方が高いスコアを出したのです。
とはいっても、簡単な算数をしても何にもならないわけではありません。私たちの暮らしには、シンプルな計算ができればいいことがよくあります。複雑なゲームを毎日プレイしている人は、自分がだんだん上達していくのを感じると思いますが、それは必ずしも知能アップにはつながらないのです。
IQは知能レベルを示す指数です。知能とは何かという議論はここではおいておきますが、高いIQスコアは知能レベルを正しく示したものではないとも言われています。また、IQは生まれ持ったレベルから変化しないとも言われてきましたが、これは間違っています。「Business Insider」(英文)の記事によると、数週間でIQを上げることができるのだそうです。
IQがアップするという主張を裏付ける研究はいくつもあります。そのうちの一つは、イギリス人の12歳から16歳までの学生を調査したものです。始めに全員のIQを調べて、4年後に再び測ったところ、9%の学生が15%以上アップしていました。これは誤差ではなく、意味のある数値です。MRIでも、灰白質に変化が見られました。
Iこれは有益なニュースですね。IQの低い人(75-90)には、刑務所に入ったり、貧乏になったり、高校を中退してしまう傾向(英文)も見られるそうです。デラウェア大学の調査(英文)では、IQの高い人は社会的知性も高いということがわかっています。IQを上げることができるということは、元々高い人にはあまり関係のないことかもしれませんが、努力家にはうれしい情報ですね。
皆さんも、きっと一度は「あり得ないような締め切りになぜか間に合った!」という経験があるのではないでしょうか? 私たちはプレッシャーを感じたときに力を発揮して、うまくやり遂げてしまうことがあります。時間との戦いは功を奏することが多いですが、だからといって脳が平時よりも良く働いているわけではないようです。それどころか、「Franklin Institute」によると、ストレスは脳の働きを悪くするのだそうです。
科学が進歩し、脳とストレスの関係が以前よりもわかってきました。脳にストレスがかかるとホルモンが出るのですが、これはもともと危機的状況下で短期的に使われるものです。しかし、日常的にストレスを感じると、このホルモンも出続けることになり、結果的には脳細胞を殺してしまうことになります。
あなたが、プレッシャーがある方がいい結果が出せると感じているのなら、それは終えたという結果や安堵感からきているものなのではないでしょうか。ストレスがいい仕事をもたらすわけではなく、締め切りが近いということでモチベーションが上がっているだけなのです。とはいっても、ストレスゼロの生活を期待するのは難しいので、ストレスを軽減させたい方は「ストレスを減らすために心がけたい7つのこと」を参照してみてください。
Adam Dachis(原文/訳:山内純子)