こんにちは。自身も大型自動車免許をもっている「失業経験有り人事担当」田中二郎三郎です。
45人が死傷した惨事、関越道バス事故(ツアーバスなので高速バスとは称しません)のニュースに接して、防音壁で真っ二つにされた大型バスの映像が頭から離れない方も多いと思います。事故原因は居眠り運転でしたが、その背景になにがあったのか、ツアーバスの安全性はこれからどうなるのかを検証してみたいと思います。
Photo by hyperspace328.まず高速バスとツアーバスの違い。高速バスは路線開設に停留所などの設備が必要で、「道路運送法」に基づく許認可が必要。それに対してツアーバスは乗客の輸送が目的でなく、あくまで旅行が目的で、そのサービス提供のための輸送であるとしています。極端な話、バスがあって運転手がいればサービスとしてなりたってしまうということはこの事故以前からよく知られていることです。
規制緩和の影響でツアーバスの料金競争・サービス競争は激しく、今回事故を起こしたツアーバスも3500円程度の低料金運賃を売りにしていました。ちなみに東京ディズニーランドのある舞浜駅からJRを利用した場合、3500円だと特急を使わなくても越後湯沢付近までしか行くことができません。それで金沢まで高速道路を使って行くことができてしまうのですから、それだけ格安の料金設定なのです。では実際にツアーバスの収益体系はどのようになっているのでしょうか。収入は運賃(正確には旅行代金)だけですので、今回の場合、3,500円×45名で16万円程度と考えます。一方支出は、東京-金沢間約500kmの燃料代が大型バスの燃費リッター3kmと考えて、約170リットル。軽油は125円と考えて、2万円程度。高速代については、今回は指示と違っている長岡周りのルートを通行しましたが、正規の上信越道ルートと考えてETC特大車で深夜割引を考慮して1万5千円程度、単純運送経費は3万5千円。運転手に1万5千円払ったとすると、10万円前後が一回の利益となりますが、これを旅行代理店とバス会社で割り、ここから更にバスの維持経費、旅客の募集経費を考えると、まさしく「薄利商売」といえます。
ここで運転手を二人体制にすると、更にコストがかさむことでしょう。今回のバスも横に4列シートが並ぶバスでしたが、格安ツアーバスは快適性の高い3列シートバスではなく、たいてい乗客数の稼げる4列シートバスを使用します。今回の事故も、もし3列シートであれば、衝突した位置などにもよりますが死者はもっと少なかったかもしれません。また居眠りした運転手に同情の余地はありませんが、もし2名体制であれば居眠り運転自体なかったかもしれません(むろん結果論ではありますが)。
利益追求のためではなく、薄利のため、しかたなく運転手を疲労度の高い1名体制にする。4列シートバスで乗客数を稼ぐ。この状態が続く限り、同様の事故は起こるでしょう。規制を強化する動きもありますが、問題は規制うんぬんではなく、運転手が正常に運転できるかどうかなのです。
2000年の規制緩和の名の下に急速に参入業者が増え、薄利多売に走らざるを得なかったツアーバス業界自体の体質。それまで長距離輸送の主力の一つだった夜行列車に何のてこ入れも入れずに列車廃止を繰り返したJR。死傷者に責任はまったくありませんが、安ければ安いほどよいと考えてしまうツアーバス利用者の思惑。それらが複雑に絡まって、今回の事故は起こったのです。
では、安全性の高いツアーバスとはどのようなものなのでしょう。まず3列シートのバスであること。4列シートのバスは汎用の観光バスを流用したものが多いので、運転手が仮眠できるスペースが備えられていないことが多く、たとえ運転手が2人でも空いた乗客の座席で待機したり、満員の場合はバスガイド席に座ることすらあるとのことです。これでは十分な休息は取れません。3列シートバスの場合は夜行長距離運転を考えて作られており、仮眠スペース、運転手同士で横に並んで会話することができる設計のバスもあります。また運転手同士の会話というのは重要で、相手の体調を把握することができますし、なにより会話には覚醒効果があります。乗用車でも助手席の人に寝られてしまうと、つられて睡魔に襲われる経験がある方も多いと思いますが、会話をしていると脳が活性化し、眠気をあまり感じなくなるのです。
安全性を考え、やはりそれなりの料金を支払うことは保険として無駄にはならないのではないでしょうか。
(田中二郎三郎)