「なぜ、カフェのコーヒーは「高い」と思わないのか?」というサブタイトルが強力なフックになっているため、思わず「おもしろそうだなぁ」と手にとってしまったのが『価格の心理学 なぜ、カフェのコーヒーは「高い」と思わないのか?』(リー・コールドウェル著、武田玲子訳、日本実業出版社)。

消費者の購買心理学と行動経済学の観点から価格設定のポイントを説明しているのですが、堅苦しさを感じさせないのは、「チョコレートティーポットカンパニー」という企業が「チョコレートポット」という新製品ドリンクを売り出すという架空のストーリーを軸に話が進められるから。マギーという女性とのやりとりを通じ、ポジショニング戦略や「買う気にさせる」価格設定の方法について説いているユニークな書籍なのです。

特に興味をひかれた第7章の「アンカリング効果」をご紹介したいと思います。その商品が顧客に理解してもらえない限り、対価を払ってもらえない。しかし、「未知の期待効用」状態は、どのようにも商品価値を感じてもらう絶好のチャンスでもあるそうです。そして、その際の重要なポイントがアンカリング(条件づけ)。つまり...

その商品の価値を思案している顧客が最初に180円の値札を見ると、その金額が強く心に残るため、180円以上の値札を見ると高級品だと思うようになる。ところが最初に840円の値札を目にすると、無意識にそれぐらいするものだと思ってしまうので、360円は手ごろな価格、180円は安いと感じる。

具体的な金額に関係なく、最初に見た基準価格が指標になってしまうため、安すぎると不安になり、高額なものは特別なときに楽しむようになるのです。そのような基準価格がいわゆる"アンカー(船をつなぐいかり)"であり、顧客が払おうと思う価格の指標として機能します。

(104ページより)

というわけです。いわばアンカリングとは、「第一印象」の効果を利用した価格戦略。そしてアンカリングが、とりわけコンサルティングビジネスで効果的な理由は2つあるといいます。まず1つ目は、コンサルティングサービスの品質は標準化しにくいから。コンサルタント同士の比較ができないので、クライアントからすると想定価格がはっきりしないわけです。

そして2つ目は、コンサルタントがクライアントに応じた価格相場を準備しているため、多様な予算に柔軟に対応しても信頼してもらえるということ。したがってクライアントから見積書を求められた場合、次の3つの選択肢を提示すべきだといいます。

■高価格の総花的見積書(Aパッケージ)

クライアントのニーズに含まれそうなものを、すべて盛り込んだ企画書。金額はプロジェクト一色で840万円程度。多数のクライアントからの発注は期待できないものの、大企業が費用を大幅に上回る価値があると判断すれば、採用してもらえる可能性があるかもしれないそうです。

(106ページより)

■280万円程度の平均的見積書(Bパッケージ)

高価格な提案とは明らかに違う内容にしておけば、Aパッケージを検討中のクライアントがBパッケージにレベルダウンせず、やはりAパッケージを選ぶ可能性も充分ある。この案のポイントは、主要サービスはしっかり提供しながら、Aパッケージの上質さを強調する工夫だとか。

(107ページより)

■168万円程度の低価格な見積書(Cパッケージ)

Bパッケージにくらべて明らかに低品質のCパッケージを用意。格安な選択肢も提示しつつ、標準的なBパッケージに誘導する。

(107ページより)

ポイントは、最初のアンカーであるAパッケージを標準価格よりもはるかに高額に設定し、しかもAパッケージが高額すぎるクライアントにも、他に少なくとも2種類の選択肢を提示すること。CパッケージはBパッケージよりも低価格だが、それほど大差をつけないようにする。ほとんどがBかCを選ぶので、もしCの価格が低すぎると、顧客は主要価格帯の判断に悩むことになるそうです。つまり、BとCを実質的な上限価格と下限価格と考えればいいわけです。

本書には「なるほど!」と納得できるポイントが数多く登場します。どれもビジネスに活用できるものばかりなので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

(印南敦史)