世界的に有名なマスターカード「プライスレスキャンペーン」を開発した人物である著者が「プレゼン常勝の方程式」を紹介した『「プライスレス」な成功法則 クライアントの落とし方、マーケットの動かし方』(ケヴィン・アレン著、酒井泰介訳、朝日新聞出版)。

本書で著者が強調しているのは、クライアントの「隠れたアジェンダ」を察知すること。隠れたアジェンダとは、心の奥底にある沈黙の欲求のことで、そこに訴えかけられれば山さえ動かせると主張しています。では、アジェンダはどう探し出せばいいのか? 第3章「隠れたアジェンダを暴く」に焦点を当ててみます。隠れたアジェンダを探るとは欲求を探ることであり、そのシグナルをキャッチするには特製のアンテナを上げることが必要。大切なのは感情的直感、人間的鋭敏さ、思慮深さ、共感力、そして相手の話をうまく聞く力だといいます。重要なのは、見込み客とできる限り接触し、許される限り長い時間をともに過ごすこと。そして、相手を楽しませる。ここには5つのステップがあるそうです。

1.準備 概要説明は概要説明にあらず(89ページより)

見込み客はプレゼンに先立って「概要説明」をしてくれるものですが、重要なことは概要説明に記されている実務的な問題ではなく、見込み客の心のなか。そして、そこに私たちの提案がどれだけ関わっているかだといいます。

そのため、二次情報集め、下調べをして理解を深めたうえで隠れたアジェンダの仮説を立て、それを検討する。そうすることで、実際に顧客に会う前に、チームに隠れたアジェンダを探る機運をもたらせるといいます。

2.受容的であれ(91ページより)

隠れたアジェンダを探り出すには、プレゼン本番に先立つ初めての面会がきわめて重要。そしてこの際、物事を慎重にコントロールし、隠れたアジェンダを探る機会として「質疑応答」が重要な勝負どころだそうです。

ただし質疑応答は相手に緊張を強いるので、気持ちを楽にさせることも大切。そのために、注意を自分ではなく相手に向け、相手に意識を集中し、自分をさらけ出し、ボディランゲージを多用すべきだといいます。

3.精神科医のように考えよ(93ページより)

とはいえ相手は必ずしも感情をすぐには表さないので、「やり手のプロ」としてではなく精神科医になったつもりで接することが大切。そうすれば、どんな質問をするかも、結論や回答の解釈も一変するそうです。

そして「相手は何者だ?」「どうすれば彼らを知ることができるか?」「彼らはどんな性格を持っているのか?」などを自問する。そうすれば見込み客の考えがわかり、隠れたアジェンダを探る道しるべにもなるというわけです。

4.相手の話をありのままに受け止めよ(94ページより)

聞くスキルを磨けば見込み客の言いたいことが把握でき、隠れたアジェンダに宿る願望までを「透視」することが可能。しっかり聞けば相手は言いたいことを言えるし、それ自体があなたの気遣いを伝えることになるからだそうです。

相づちを打ち、相手の言葉を反芻すれば相手は思う存分話す気になり、あなたが話を聞いているという印象を持つもの。すると気が楽になり、より率直に、より深い話をするようになるわけです。

5.正しい質問をせよ(96ページより)

より直感的で感情的な質問をすれば、隠れたアジェンダに近づくことができる。そして大切なのは、見込み客に見方、感情、洞察を語らせること。彼らなりの意見を述べさせたうえで、隠れたアジェンダの三つの状態 ── ウォンツ(欲求)、ニーズ(必要)、バリュー(価値)を探り出す質問をするといいそうです。

・ウォンツ:将来に自信のある見込み客から隠れたアジェンダを引き出すのに有効な、未来的な質問。

貴社の夢はどんなもの?

貴社の対外的な評価で、お気に召さない点は?

・ニーズ:相手が抱える問題点を明らかにするのに役立つ質問。

何が不安なのですか?

何が問題なのですか?

何が計画の障害ですか?

・バリュー:自己(自社)の価値体系に沿った目的を持つ相手に有効な質問。

貴社にはなにか共通の価値体系があると思いますか?

こうした信念はどのくらいあなたの問題解決を駆り立てているのでしょう?

尊い社業について、あなたはどうお考えですか?

こうした方向から探っていけば、それが隠れたアジェンダを探る糸口になるそうです。

本書ではこのように、敏腕広告マンが実践してきた「隠れたアジェンダ」の察知術が細かく説明されています。そしてそれらはきっと、ビジネスにヒントを与えてくれるだろうと思います。

(印南敦史)