1日が24時間以上あれば良いのにと思った経験はありませんか? 時間を増やすことはできませんが、脳をうまくだませば、1日が長くなったように感じさせることはできます。ソーシャル共有アプリ『Buffer』のチームが、その仕組みを説明しています。
これまでの人生を振り返ってみてください。1週間を4週間ぐらいに感じたり、1時間が数日間にも思えたりと、時間が永遠に続くように感じた時期はありませんか? その時期に何をしていたかと考えてみると、おそらく自分にとってまったく新しい、集中力を要することをしていたのではないでしょうか。
おもしろいことに、「自分のしていること」に集中すると、実際に時の流れが遅くなるのです。正確には、脳がそのように感じる、と言ったほうが良いかもしれませんね。脳神経科学者のデイヴィッド・イーグルマン氏は、とても興味深い例を使って、そうした時間の感覚の仕組みを説明しています。
イーグルマン氏の言う「脳時間」とは、もともと主観的なものです。イーグルマン氏は最近のエッセイの中で、ある実験をしてみることを勧めています。「この本を置いて、鏡を見てください。そうしたら、目を左右に動かしてみます。まずは鏡のなかの左目を見て、次に右目を見ます。そしてまた左目を見ます。目がある一点から別の一点に動く時には、目的の位置に移動するまでの時間がかかります。でも、意外なことに、あなたには自分の目が動いているところが絶対に見えないのです」
何も写っていないフィルムの部分が黒くなるように、「知覚にギャップがある」ということを示す確かな証拠はありません。ただし、あなたの目に映る場面のほとんどは、「編集」によってカットされたものです。「せわしなく動く目がとらえた複雑な映像」を受け取ると、あなたの脳はそれを編集し、「まっすぐ前を見ている映像」に作り変えてしまうのです。では、失われた瞬間はどこへ行ってしまったのでしょうか?
あなたが自覚していない、この「時間を歪める能力」について説明する前に、まずは脳が通常はどんなふうに時間を感じているのか、その仕組を見ていきましょう。
時間の感じかた
人間にとって時間の「感覚」は、味覚や触覚、嗅覚、視覚、聴覚といったほかの感覚とは異なります。人はたいてい、時間を「知覚している」とは意識していません。基本的に、脳は感覚器官から多くの情報を受け取り、意味をなすように整理します。私たちがその情報を「知覚」するのはそのあとです。ですから、私たちが「時間の感覚」だと思っているものは、過去記事「年々時の経つのが速く感じるのはなぜか?」にもあるように、脳の判断に従って、特定の形に整理された情報のまとまりにすぎないのです。
脳が受けとる新しい情報は、必ずしも秩序のある状態で送られてくるとは限りません。脳はこうした情報を整理しなおして、私たちが理解できる形にしなければなりません。なじみのある情報を処理する時には、まったく時間はかかりませんが、新しい情報は処理に少し時間がかかります。時が長くなるように感じるのはこのためです。
さらに不思議なのは、時間の感覚を制御する脳の領域が1つではないという点です。それぞれ1つの特定領域が担当する通常の五感とは違って、時間の感覚は脳のさまざまな領域が処理を行っているのです。
このプロセスが、時間の長さの認識に影響しています。新しい情報をたくさん受けとると、脳が処理し終えるまでに少し時間がかかります。そしてこの処理に時間がかかるほど、時が長くなったように感じるのです。
例えば、生死にかかわる状況に置かれると、脳内で記録する情報がいつもよりも多くなるため、その時間は実際よりも長い時間として記憶されます。命にかかわる体験をすると注意力が非常に高まりますが、だからといって、超人的な知覚力を手に入れたわけではないのです。
これと同じことは、好きな音楽を聴いている時にも起こります。注意力が高まることで、時間がより長く感じられるのです。
逆に、脳がそれほど多くの情報を処理する必要がない場合は、時の流れが速く感じられ、同じ長さの時間でも、いつもより短く「感じる」ことになります。こうした現象は、なじみのある情報を多く受け取っている時に起こります。以前にも処理したことがある情報であれば、脳が一生懸命に働く必要がないので、時間が速く流れるというわけです。
しかし、ここで興味深いのは、繰り返しが脳に与える影響です。同じことを繰り返すからといって、脳に何の影響もないわけではありません。それどころか、同じことを何度も練習すれば、脳の回路を根本的に作り直すこともできるのです。
(上から)大脳皮質、大脳基底核、小脳、脳幹
イーグルマン氏は、次のように説明しています。
記憶の内容が細かくなればなるほど、その瞬間を長く感じるようになります。「年をとると時の流れが速くなるような気がするのも、そのためです」とイーグルマン氏は語っています。子どもの頃にはいつまでも続くような気がしていた夏も、大人になると、ぼんやりしているうちにあっという間に過ぎ去ってしまいます。つまり、大人になって世界がなじみ深いものになると、脳の記憶する情報が少なくなるので、時間が速く過ぎていくような気がするのです。
「このように、時間はゴムのように伸び縮みするものです」とイーグルマン氏。「脳の機能をフル活用していれば、時間は長くなります。以前にも経験したことがあったり、予想どおりの情報を処理したりする時には、時間は短くなるのです」
そのわかりやすい例が、いわゆる「オドボール課題」です。このオドボール課題で生じる視覚的錯覚を、イーグルマン氏の研究室で体験させてもらいました。この実験では、コンピューターの画面に一連の単純な写真が映し出されます。大概は、ありふれた茶色の靴の写真が繰り返し現れますが、時々、靴の代わりに花の写真が映し出されました。私の感覚では、写真の内容とともに、表示時間も変わったように感じられました。花の写真のほうが、靴の写真よりも画面に表示されている時間が長いような気がしたのです。
ところが、イーグルマン氏によれば、どの写真も表示時間は同じだということでした。唯一の違いは、写真を見る時の注意力の程度です。靴の写真は、3度目か4度目に現れる頃には、ほとんど印象に残らなくなっていました。それに対して、時々しか登場しない花の写真は、画面に長く留まっているように見えました。つまり、子ども時代の夏が続くように、いつまでも花が咲いているように錯覚したわけです。
例えば、あなたの脳がある1日に大量の新しい情報を浴び、次の日には新しい情報をほとんど受け取らなかったとしましょう。どちらの日も同じ長さですが、最初の日のほうが次の日よりもずっと長く感じるはずです。
はじめての経験には、学習力や記憶力を高める働きもあります。これについては、以前の記事で紹介しています。
年をとると時の流れが速くなる理由
もちろん、こうした脳の処理は無意識のうちに行われているもので、普段はこうした処理には気づきません。私たちが感じるのは、1日は24時間だと知っているのに、「このごろはあっというまに時がすぎていく」という奇妙な感覚だけです。
年をとるにつれて、この処理が行われる頻度が増え、時間の流れるスピードはどんどん速くなります。これは、年を重ねるにつれて、脳が以前に処理したことのある情報に触れるケースが多くなることが理由です。こうした「なじみのある情報」は、脳で処理される時に近道を通っているので、私たちには時の流れがスピードアップし、あっという間に過ぎ去っていくように感じられるのです。
幼い子どもの場合には、その逆の現象が起こっていることは言うまでもありません。子どもの脳が処理する情報は、ほとんどが新しいものです。そのため、大人よりも処理に時間がかかるのです。
1日を長くする5つの方法
脳について知るのも楽しいですが、そこで得た知識を実生活に活かせれば、もっと楽しいですよね? この「時間の感覚」の概念の素晴らしいところは、とても簡単に実生活で活用できる点です。研究によれば、脳に新しい情報を与えるほど、処理に要する時間が長くなり、時間がゆっくり流れていると感じるようになるわけです。そして、「感じたものこそが現実」だと考えるなら、事実上、1日を長くすることができるのです。素晴らしいですね!
ここでは、すぐに実践できる5つの方法をご紹介します。
1. 学びつづける
当然ながら、新しいことを学べば、脳に定期的に新しい情報を与えることができます。「いつも本を読んでいる」という人なら、新しい活動にチャレンジしたり、新しいスキルを身に付けるための講座を受けたりしてみましょう。「新しい情報」がたっぷり手に入るので、時間の流れを遅くするのに役立つはずです。
2. 行ったことのない場所を訪ねる
新しい環境に置かれると、匂い、音、人、色彩、手ざわりなど、大量の情報が脳に流れこみます。脳はそれらすべてを処理しなければなりません。定期的に脳を新しい環境にさらせば、脳がこなす仕事が増え、いつもよりも長い1日を楽しめるはずです。
これは海外旅行に限った話ではありません。仕事をする場所をカフェや新しいオフィスなどに移しても、同じ効果があります。初めて行くレストランで夕食を取ったり、まだ行ったことのない友人の家を訪ねたりするのも良いでしょう。
3. 新しい人に会う
私たちはみな、人づきあいに大量のエネルギーを費やしています。物と違って人間は複雑なため、「処理」して理解するには多くの努力が必要とされるからです。
そのため、新しい人との出会いは、脳にとっての良いトレーニングになります。初めて会う人とのやりとりでは、名前、声、アクセント、顔の特徴、ボディランゲージといった多くの新しい情報を処理し、理解しなければなりません。
4. 新しい活動にチャレンジする
トランポリンの上でドッジボールをしたことはありますか? スカイダイビングやチーズ転がし祭りはどうでしょう? 新しいことをする時には、注意力を要します。新しい感覚や感情を次々と経験するため、脳が厳戒態勢モードになり、知覚が研ぎ澄まされた状態になるのです。細かい情報まで脳が受け取り、認識している時には、時間がどんどん長くなったように感じられます。
5. 自発的になる
「驚き」は新しい活動のようなものです。私たちの注意を引き、感覚を高めてくれます。びっくりするのが嫌いな人でも、その点には同意してもらえるのではないでしょうか。
1日を長くしたいのなら、「驚き」は効果的な手段です。自発的に新しい経験をして、自分の脳を驚かせてみましょう。脳が準備を整えるまでの時間が短ければ短いほど、受け取る情報がなじみのないものになり、処理にかかる時間が長くなります。脳に大量の情報を与えることで得られる効果については前にも触れましたが、時間の流れを遅くしたい時にも、この方法はとても役立ちます。
The science of time perception: stop it slipping away by doing new things | Buffer
Belle Beth Cooper(原文/訳:梅田智世/ガリレオ)
Illustration by Tina Mailhot-Roberge.