「わが社が求めるのはグローバルに活躍できる人材です」
よく目にするフレーズですが、グローバルってそもそも何を意味するのか、実は具体的によくわからない。ただ、多くの企業が求めていることだけは確か。
その折に、「グローバル人材」を育成すべく、文部科学省が立ち上がっているという話を耳にしました。官民協働で学生の留学を支援し、人材を育てるという日本初のプロジェクト「トビタテ!留学JAPAN」です。
キーマンは、民間企業出身でプロジェクトディレクターを務める船橋力さん。幼少期や高校時代を海外で過ごした船橋さんは、伊藤忠商事を経て、企業向けに人材開発・教育プログラムなどを提供する株式会社ウィル・シードを設立。その後、世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーにも選出されました。
今回は、帰国子女であり海外ビジネス経験を持つ船橋さんにインタビュー。プロジェクトの内容だけでなく、すでに社会に出て働いている人が、海外や世界で活躍する人材となるためにすべきことなどを伺いました。
船橋さんのお話は、「そもそも、日本企業が言うグローバル人材は、真の意味のグローバル人材とは違う」から始まりました。
日本企業が指す「グローバル人材」はズレている?
船橋さんは「ほとんどの日本企業が求めているグローバル人材は、リージョナル(=地域の)人材だ」と言います。つまり、「自社の海外拠点に駐在して働く人」もしくは「海外の限られた地域で働く人」を指しています。
日本でリージョナル人材が求められるのには2つの理由があるとのこと。1つは、日本の「お国柄」。島国であるため情報が入ってこないけれど、英語が苦手で自分から取りにも行かない。たとえば、シンガポールのテレビ局が放送するニュース番組では、シンガポール国外のニュースが85%を占めるそう。日本はその逆で、他国よりも圧倒的に情報が入りづらい「情報鎖国」とも呼べる状況にあります。すると、全体として共通言語で話せる人材を揃えがちになる。
2つめは、汎用性の無いビジネスモデル。例を挙げると、コカ・コーラやネスレが展開するような、どこの国でも通用するビジネスモデルを持ち合わせていないことが多い。そのため、地球規模で物事を見る必然性に迫られていません。結果として、その土地ごとにビジネスを展開できる、地域限定のリージョナル人材が求められるというわけです。
余談ですが、英語には「グローバル人材」という言葉はないそうです。自分たちはその一部であるという意識が当たり前だからでしょう。
日本のビジネスパーソンが追加すべき2つの要素
一方で、船橋さんは「日本のビジネスパーソンは、グローバル人材になり得る資質はある」とも言います。
そして、広い視点を持ちながら、目の前のことを諦めずにコツコツと努力できるのも大切。僕は"Think global,Act local"と言っています。その点、日本で働くビジネスパーソンにも資質はあります。語学や環境など「異文化に対する柔軟性」と、「自分の軸を持つこと」をアドオンできれば良いのです。国ごとの相性の向き不向きはあるにしても、異文化対応は慣れるまでが大変。ですが、筋トレと同じで、徐々にその緊張感も心地よくなってくるはずです。
信じるに値する情報を得るための「3人ルール」
では、2つの要素をアドオンするためには、具体的にどのようなことを行えばいいのでしょう。船橋さんは3つの提案をくれました。
1.海外へ行く
2.継続する
3.情報収集をする
第一歩は、当然ながら海外へ行くこと。好きな国や行きたい国についてよく調べ、可能な限り足を運ぶ。いま、オススメの国を伺うと「南米、シンガポール、ベトナム、インドネシア、ミャンマー、トルコ、ナイジェリアのラゴス」といった経済的に盛り上がっているところだとか。行った先ではなるべく現地の人と話をし、刺激を受けましょう。英語に自信がなくても、海外のビジネスパーソンとコミュニケーションを取ることで新しい視点を持つ、あるいは能力の違いにショックを受ける、という「体験」が大切なのだそう。
次にすべきは、継続すること。人間のモチベーションは持続しないので、「定期的に」海外を訪問し、ショックと気付きを得るようにする。そして、訪れる国や世界、日本についての情報収集をすること。船橋さん流の情報収集術を聞いてみました。
もっとも、情報の源流を見て判断することや、情報の取捨選択をすることが大切です。そのためには、船橋さんのようにルールを作るのは賢い方法かもしれません。
留学プロジェクトに学ぶ「体験を血肉にする方法」
今回、船橋さんたちが推進するプロジェクト「トビタテ!留学JAPAN」は、多くの企業が協賛をする官民協働のグローバル人材育成事業。名を連ねている100社以上の企業と連携し、学生の選考や研修、インターン、ワークショップなどを行うとのこと。また、「サタデースクール」と呼ぶ企業の若手社員との交流会も予定しています。つまり、将来の人材を企業自らが育て、企業にとっても学生の姿から刺激を得ることができるのです。
学生は留学を経験して終わり、ではありません。内容はいたってシンプルですが、海外で得たことを「血肉にするためのプログラム」を受けるのだとか。そこには、私たちにとっても頭に入れておきたいヒントがありました。
1.「教養」が必要であることを実感する
日本人が海外から戻ると、「日本のことを知らなかったのだ」という人がたくさんいるそう。それもそのはず、いきなり歌舞伎の文化や哲学について海外で聞かれて、即答できる人はあまりいないですよね。島国で単一民族という特徴をもつ日本では、そういった教養が必要とされる場面が少ないのです。
学生には、海外で現地の人と会話をするミッションを与えます。すると、必ず相手から文化や歴史、哲学、スポーツなどの質問をされるので、自分に教養が足りていないことに気づけます。そこからの教養を得る過程は、前述の「自分の軸」やアイデンティティを強固にすることにもつながっていきます。
2.「教える」というプロセスでより深く学ぶ
学生は帰国後、企業の人前で、海外での経験を企業にプレゼンする機会が与えられます。船橋さんは「人に教えることこそが最大の学び」と言います。教える以上は、内容を深く理解していなければいけません。自分の足りない部分を再認識すれば、さらに学ぶきっかけにもなります。留学はひとつの動機付けに過ぎないため、それだけで人は変わりません。大切なのは体験したことをいかに継続させて血肉にするか、なのです。
これからのキャリアに大切なのは「その選択はいかにバリューがあるか」
社会や世界で活躍する日本人を増やしたい。そのために働く船橋さんの原動力は、「1回でも海外に行ってほしい、留学文化を作りたい」という想いです。海外へ行くことは、日本と自分を深く知るきっかけになります。すべての若者が世界と日本を知った上で、自分がどう生きていくかを選択するようになれば、きっと日本は変わるはず。
そのきっかけの1つとなるであろう今回のプロジェクトでは、エポックメイキングな本事業を一緒に作るメンバーを募集しています。対象となるのは、研修企画や採用、広報など民間企業で経験を積み、ビジネスセンスや機動力をもつ人材です。
優秀な人材が集い、官民協働というレアな環境で、民間だけではできない国や企業を巻き込んだ事業に関われるチャンスです。船橋さんは「何よりそのキャリアが5年後、10年後にどれだけのバリューになるかを一度想像してみてほしい」と言います。
いわば、日本で一番大きなベンチャーの立ち上げ。前例の無い、日本の未来を変えるかもしれないこのプロジェクトに興味のある方は、以下のリンクより詳細をどうぞ。
2020年までに日本人留学生を倍増。官民協働のグローバル人材育成事業でメンバー募集
(田村朋美)