人員削減や組織の統廃合が進められるなど、ビジネスパーソンを取り巻く環境が大きく変化しています。そして求められる働き方も変わり、会社は正社員に対して「本当に会社にとって価値がある人間か」「雇い続ける意味はなんなのか」について、真剣に考え始めている。『外資系コンサルが教える「勝ち方」の教科書』(笛木克純、中経出版)の著者は、現状をそう判断しています。
そんななかで生き残っていけるのは「勝ち続ける人材」であり、そのために重要なのが「土俵理論」なのだとか。勝負をする前に自分がどこで勝負をするか(=自分の土俵)を見極め、そこでの戦い方(=勝ちパターン)を確立するということ。有利に戦える場所を見つけ、効率的な勝負をするための「型」を身につけることによって、勝ち続けていけるという考え方です。
では、どうしたら土俵はつくれるのでしょうか? 第1章「圧勝できる『土俵』のつくり方」を見てみましょう。
得意技を極める
自分の土俵を決めるもっともオーソドックスな方法は、自分の得意技を土俵にすること。たとえば、いま自分が担当している業務は、社内で自分がもっとも精通しやすい分野であり、仮にそれが実現できれば強力な土俵となります。しかしそのために重要な意味を持つのは、その分野で圧倒的な差別化を図ること。そこで、現在の業務で得られた知識を土俵に昇華させるために、次の2点を満たさなければならないと著者は主張しています。
1.周囲の同僚とは異なる独自の経験を積む
2.その知見があることを周囲に知らせる
(35ページより)
なぜなら、この2点を満たすことにより、自分の土俵に関連した案件や情報が集まり、さらなる経験や知識を積むチャンスにつながるというプラスのサイクルが働くようになるから。
そして自分の土俵が認知され、周囲から第一人者として認められはじめると、さまざまな好循環が生まれるそうです。まずひとつは、自分の土俵にプラスになる案件が、向こうから飛び込んでくる機会が増えるということ。また、自分の土俵とは異なる分野の会議や、自分が価値を発揮することが難しい会議には「呼ばれにくくなる」というメリットもあるといいます。
さらに、第一人者として認められたあと、立ち位置を維持することもきわめて容易。しかも土俵を確立するタイミングが早ければ早いほど周囲に好循環が発生し、他者を引き離すことになるそうです。(34ページより)
得意技を他分野にシフト
しかし現実的に、自分の得意な領域を土俵とすることは簡単ではありません。もっとも多いのは、得意な領域にはすでに第一人者が存在し、自分の土俵にできないというケース。とはいえ多くの場合、ある分野で得意技となるものは、他の領域でも有効なことが多いと著者はいいます。
つまり、そうした領域に自分の土俵をうまくシフトできれば、自分のスキルや知識を変えることなく、提供できる付加価値だけを劇的に向上させられるということ。ある分野では勝てなかったとしても、他の分野では容易に勝てるということが起こりやすくなるそうです。
でも多くの場合、自由に自分のスキルが生きる場所に移れるわけではありません。そこで有効なのが、「人事異動」を活用することだとか。人事異動が思いどおりになることは少なく、むしろ予想外の異動のほうが多いのが現実。しかし見方を変えればそれは、これまで自分の周囲で当たり前だったスキルや知識が、突然価値を生み出し始めるチャンスでもあるといいます。新しい職場で自らのスキルを生かす方法を見つけ、新たな土俵を構築することこそが重要だという考え方。(41ページより)
他の要素をつけ加える
そして次に大切なのが、自分の得意技に、プラスアルファで他の要素をつけ加えること。そうすれば、より強い土俵をつくり上げることができるといいます。「プラスアルファ」のもっとも身近な例は、語学を身につけること。たとえば総務、人事、会計などを軸とした土俵は競争相手が多く、社会保険労務士や会計士などの専門職も存在するため、土俵として成り立ちにくいもの。しかしそこに「英語」というプラスアルファを加えると、強い土俵になるというわけです。
ただし、プラスアルファになりうるスキルや知識の多くは、一定の投資をしてこそ身につくもの。英語を習得したいなら、外国語スクールに通ったり、海外留学することが必要となるわけです。だからこそ注意しなければならないのは、プラスアルファに対する投資の費用対効果を考えること。土俵の妙味は「最小限の努力で最大限の効果を出す」ことにあるので、莫大な費用をかけてしまっては意味がないわけです。
その経験が、自分のキャリア上どのような意味を持つのかを考えてみることが大切。だからこそ、自分の土俵のプラスアルファとなるのかについて考えてみて、費用対効果を見極めたうえで、自分の土俵を考えることが重要だということ。(49ページより)
好きな分野を土俵にする
土俵を獲得するためのもうひとつの方法が、「オリジナルの土俵をつくる」こと。オリジナルである以上は対戦相手が存在しないため、そこは独壇場となる魅力的な土俵。著者によれば、注意深くビジネスシーンを見わたしてみると、自分オリジナルの土俵を築いているケースは案外多いのだとか。とはいえその領域は限られていて、「最先端分野に土俵を築く」もしくは「ニッチ分野に特化した土俵」の2通りに集約されるといいます。
前者は、まだ誰も参入していない分野、あるいは参入者がごく限られる分野での知識や経験を積極的に蓄積し、土俵をつくり上げるパターン。必ずしも本当の意味での最先端である必要はなく、所属する会社内での最先端でもOK。その場合、会社全体として新しい方向に進もうというときに目指すべきは、その分野に必要不可欠なメンバーとなっている状態。最先端でいったん土俵を築き上げれば、圧倒的に先を走っている状態になるため、ライバルは追いつけないわけです。
一方、注目する人が限られるニッチな分野では、そこで知識や経験を積もうという人の数は少なくなります。つまり、自然と自分が第一人者になれる確率が高くなるわけです。だからこそ、このような分野に特化することでオリジナルな土俵をつくることも可能。この場合の利点は、いうまでもなく参入してくる人が少ないぶん、「勝ち」を持続できる可能性が高いことにあります。
とはいえ、そのような分野を見つけるのは難しいですし、存在したとしてもあまりにニッチすぎて、仕事の役に立たない分野では意味がないことになります。(55ページより)
外資系コンサルタントとしての経験に裏付けられているぶん、豊富に盛り込まれた具体例にも強い説得力があります。目を通してみればきっと、著者のいう「土俵理論」を身につけることができるでしょう。
(印南敦史)