モトローラ買収、グーグルの本音
大買収劇を演じたグーグルの狙いは特許権。巨額費用回収のために「アンドロイド携帯」を製造させるはずだ
最強タッグ? モトローラに自社端末を作らせれば高収益が期待できる Brendan McDermid-Reuters
マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOは、ライバル企業の製品についてとんでもなく的外れな予想をする傾向がある。
だから昨年、バルマーがグーグルの携帯端末向けOS「アンドロイド」の戦略をこき下ろしたときは、多くの専門家がその発言に取り合わなかった。当時、アンドロイドはマイクロソフトの携帯端末用OSのシェアを抜き、アップルのiOSにも迫る勢いだったから、バルマーはなおさら無視された。
マイクロソフトとグーグルは、スマートフォン業界で似たような位置付けにある。両社ともスマートフォンを動かすOSは作るが、電話機そのものは作らない。自社ソフトを使ってもらうには、端末メーカーと提携しなければならない。大きな違いは、マイクロソフトは端末メーカーにライセンス料を求めたのに対し、グーグルはアンドロイドを無償提供したことだ。
無料の製品にどう対抗するのか? そんな問いに対し、バルマーは複数の取材でこう語っている。「アンドロイドはタダなんかじゃない」。バルマーの理屈はこうだ。アンドロイドは複数の特許を侵害している。結果、アンドロイドで携帯を作るメーカーは、マイクロソフトを含めた特許保有企業にライセンス料を払うことになる──。
IT業界では特許侵害訴訟など珍しくない。複雑な新技術を開発すれば、必ずと言っていいほど複数の特許に抵触することになる。だからIT大手は特許訴訟の費用を回避するため、クロスライセンス契約で相互に特許使用を認め合う。だがグーグルは比較的新しい企業。交換するほど多くの特許を持っていない。
アンドロイドを特許訴訟の嵐から守るためにグーグルが打った手──それが、米通信機器大手のモトローラ・モビリティを125億ドルで買収する計画だ。
危うい「オープン」の理想
モトローラはアンドロイドを搭載した人気機種をいくつか作っているが、大した利益は上げていない。つまりハードウエア部門はおまけのようなもので、グーグルの本当の狙いはモトローラが保有する1万7000件に及ぶ特許権だ。
要するに、意外にもバルマーは正しかったのだ。アンドロイドはタダではない。それどころか安くもない。モトローラの買収費用は、グーグルの2年分の利益に匹敵する。よほどの見返りが期待できなければ、いかにグーグルといえどもそれだけの大金をつぎ込めないはずだ。
となると、この買収はグーグルのアンドロイド戦略が大きく変わる転機になるかもしれない。
アンドロイドは自由に改良でき、オープンである半面、無秩序でもある。端末メーカーは高性能の端末にも安くて劣悪な端末にもグーグルのOSを搭載できるため、アンドロイド端末はピンきりだ。
この買収で、グーグルは端末メーカーに対して強い影響力を発揮できるようになった。端末メーカーがむやみに新機種を発売することを牽制できるし、必然的に性能の向上にもつながる。
もちろん時間はかかる。グーグル幹部は、今回の買収でアンドロイドの位置付けが何ら変わることはないと強調している。モトローラがグーグル本体から分離したまま事業を続けるのも、アンドロイドの無償供与を受ける上でモトローラが他の端末メーカーより有利にならないようにするための配慮だという。グーグルの理想はあくまで「オープン」というわけだ。